“臙脂のサムライ”が挙げた価値ある1勝 開幕戦で証明した明確な進歩とは

2025-26シーズンの大同生命SVリーグ男子開幕節GAME1、VC長野トライデンツは日鉄堺BZをホームに迎えた。昨シーズンの対戦成績は4戦0勝。過去を遡っても一度も勝利したことがない相手に対し、効果的なサーブとブロックが機能してセットカウント3-1で白星をもぎ取った。「ちょっと出来過ぎかなというぐらいのスタートが切れた」と川村慎二監督が話すほどの会心の勝利。どのように成し遂げたのか、試合をコメントとともに振り返る。

文:大枝 史 /編集:大枝 令

取り組み続けたサーブの課題
結果で見せた「新生・VC長野」

今年のVC長野はこれだけ違うのだ――と、言葉ではなくプレーで雄弁に語った。

2025-26シーズンの幕明けは、アウトサイドヒッター(OH)工藤有史のサーブからだった。

「僕とオスキー(オスカー・マドセン)とマット(マシュー・ニーブス)のサーブでどれだけブレイクを取れるかがチームにとって一番大きいと思う」

その言葉を体現するようなサーブで相手を崩すと、オポジット(OP)マシューがキルブロック。最上のスタートを切った一連のプレーこそVC長野が課題に挙げ続け、練習を積み重ねてきたものだ。

サーブで相手を崩し、ブロックディフェンスでブレイクを取る。それがいかに難しいか――は、昨シーズンのサーブ効果率が6.8%で9位と苦しんだことが物語っている。

そして、それは相手にも同じことが言える。

サイドアウトを重ねて迎えた第1セット4-4の局面。日鉄堺BZのOPマシュー・アンダーソンの強烈なサーブから4連続ブレイクを許し、4-8とリードを広げられる。

昨シーズンは序盤に相手に走られてしまうと、なかなか追いつくことができなかった。

しかし、ここでも違いを見せる。

8-10の局面で工藤のサーブからOHオスカーのブロックなど連続ブレイクを取って10-10。13-13からはオスカーがサービスエースを含む連続ブレイク。15-13とひっくり返すことに成功した。

その後はブレイクを挟みながらも、丁寧にサイドアウトを重ねる。最終的に25-22と第1セットを取り切った。

躍動した外国籍選手2人と工藤
驚異的な数字を残してPOMに

第2セットでも勢いは衰えない。序盤にブレイクを重ねると、その後は一度もリードを許さず25-18と押し切る。第3セットは流れをつかめずに中盤以降に離されたまま21-25と落としたものの、第4セットは終盤に工藤のサーブから3連続ブレイクで逆転に成功すると、その後も追いすがる相手を振り切って25-23。開幕戦を勝利で飾った。

圧巻だったのが、OHとOPの攻撃陣だ。

マシューはチーム最多となる38本のスパイクを放ち、決定率は47.4%。ラリーが続き、ブロックが複数枚つく展開が多い中でも要所で確実に決め切る力を見せた。高さを生かしたブロックでも役割を全うした。

オスカーはサービスエース3本を決めて19.7%のサーブ効果率を残したほか、ブロック数は5、サーブレシーブは受数35本。相手のサーブターゲットになり続けた中で、成功率40.0%とディフェンス面でも大きく貢献した。

さらにはコートキャプテンとして熱の入ったプレーを連発。仲間を鼓舞するに留まらず、会場全体を大いに沸かせた。

そしてプレイヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に輝いた工藤だ。

アタック決定率は19/25(内バックアタック6/6)で76.0%、サーブ効果率は12.0%、サーブレシーブ成功率55.6%と驚異的な数字を残した。

サーブは25本打ってミスは3本、スパイクも25本打って1本と研ぎ澄ませた集中力でクオリティを発揮。ブロックが2枚ついている状態でもブロックアウトやフェイントを狙い、効果的に決めるシーンも数多く見られた。

「今日に関しては状況判断がうまくできていた。自分がやるべきことをしっかりやろうと思って試合に入って、それがすごく良い形になった」

日本代表を経験してきた若武者と、新加入の外国籍選手が見せた違い。その力が継続的に発揮されれば、勝利数は確実に増えていくはず――。そんな予感を抱かせる開幕戦だった。

それぞれが自らの役割を再認識
個の強みをチームの強みに昇華

「各ポジションのやるべきことをしっかり果たさないと勝っていけないチームだと思っている。コートの中だけではなく外の声掛けとかも、今日は全部できていた」

最年長44歳のミドルブロッカー(MB)松本慶彦は試合後の会見でそう振り返った。

その言葉は、数字には表れないプレーの重要性を説いている。試合中に多く見られた、ラリーに持ち込む展開。直接のブロックポイントにはならずとも、ブロックタッチを取って後ろに繋げるプレー。

「今シーズンはブロックを個人でもチームでも意識してやってきた。筋トレから動きの連動性が上がって、移動が速くなった分、相手を見る余裕ができた」

そう話すように、練習からブロックが上達した実感を得ていたのはMB山田航旗。得意とする攻撃面のみならず、松本とともにブロックの軸としてチームを支えた。

そうしたブロックを含めたトータルディフェンスは、リベロ(L)古藤宏規のポジショニングと声掛けで前と連係する。

例えば第1セット、17-15の局面。相手がライトにトスを上げると、クロスのコースに工藤と松本が手を伸ばす。空いたストレートのコースに構えた古藤がアンダーソンの強烈なスパイクを見事に上げ、ブレイクに繋げた。

3セット目途中から出場したL難波宏治も、広い守備範囲を生かして何度もボールを繋いだ。

そして昨シーズンから続く課題の一つ、サイドアウトを支えたのがセッター(S)の中島健斗だ。POMに輝いた工藤は驚異的なアタック決定率を残したが、特にパイプ攻撃は相手ブロックがない状態で打たせるシーンが多かった。

「ビッグサーバーの時に上がったボールをどれだけ1本で切れるか。せっかく良いパスが返っても僕のトス次第ではサイドアウトを取れなくなってしまう」

シーズン前に自身の役割をそう話していた中島。相手の強いサーブで多少崩されても、精度の高いトスを供給し続けた。

リリーフサーバーで登場したOP飯田孝雅はブレイクに繋げるサーブを3本放つ。こうして、各自が役割を全うしたからこそ勝利に繋がった。

クリアした課題と新たな宿題も
GAME2で問われる「チーム力」

「練習での課題が全てできていたと思う」

工藤がそう振り返れば、川村慎二監督も「開幕に向けていろいろと準備をしてきた中で、ちょっと出来過ぎかなというぐらいのスタートが切れた」と勝利を喜ぶ。

日鉄堺BZを相手に勝った。
開幕戦で勝った。
開幕節だからこそだが、暫定1位に立った。

今までの歴史を塗り替える、初物づくしの勝利となった一戦。

だが、リーグ戦はまだ43試合残っている。

「第3セットは自分たちのサーブが走らずになかなかブレイクが取れなかったという反省点も見えた」と工藤が振り返るように、緊張感のある試合の中でしか見つからない課題もある。

今日はできた課題が次にはできないこともある。それらを一つずつ潰していき、リーグ戦を通じて成長していく。その営みはまだ始まったばかりに過ぎない。

「今日は勝ててすごく良かったけれど、これからも自分たちはチャレンジャーという立場を忘れずに目の前の一試合を戦っていければいい」

工藤がそう話せば、松本も「トライすることがこのチームは大事」と同じように挑戦者であることの重要性を説く。

通用すると驕ることなく、常に挑戦を続けていった先にこそ新しい景色が見える。

特に、昨シーズンからGAME2に対する課題も続いている。

この日鮮烈なSVデビューを果たしたオスカーが「今日は男として、サムライとして全員が戦えた」と振り返る通り、全員がエナジーを出して戦った。ただ、GAME2は疲労やコンディション不良でパフォーマンスが低下する懸念もある。相手の対策も精度が上がる。

そういった時に、調子を上げた選手が次々と台頭するチームであることが望まれる。さらにオスカーは「ポイントを取るのにはみんなの力が後押しになる。ぜひ家族、友人、いろんな人を連れてきてほしい」と呼びかけもする。

臙脂のサムライたちが踏み出した一歩。ファンの後押しを背に、その歩みを確かなものにする。


SVリーグ第1節 日本製鉄堺ブレイザーズ戦 試合情報
https://vcnagano.jp/match/2025-2026-sv-div1-2
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461

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