「甘かった」AC長野・藤本主税監督の後悔と、象徴的な“苦いフィナーレ”

J3リーグはレギュラーシーズンの全日程を終え、AC長野パルセイロは9勝8分21敗(勝ち点35)の19位でフィニッシュした。2014年のJリーグ参入から過去最低の成績で、JFL(日本フットボールリーグ)の結果次第では入れ替え戦に進む可能性さえあった。ここまで低迷してしまった理由はどこにあるのか――。就任1年目の藤本主税監督が最後に口にした、「甘さ」という2文字の意味を掘り下げる。
文:田中 紘夢
KINGDOM パートナー
ホームでの最終節で0-4大敗
我慢の一年、糸が切れる寸前に
「甘かったと思う。それが一番自分の中である」
ホームでの最終節で栃木SCに0-4と大敗。クラブワーストの5連敗でシーズンを締めくくると、藤本主税監督は自身の甘さを口にした。
無惨な結末だった。
開始直後、相手のドリブラーに2人ぶち抜かれたのがプロローグ。17分には1対2と数的優位な局面でファウルを犯し、FKから先制された。後半にも自陣でのボールロストから失点を繰り返し、58分で0-3と万事休す。
エピローグも痛烈だ。栃木SCは終了間際、今季限りで引退を表明したGK丹野研太を投入。ラストダンスを彩るように、直後にCKから4失点目を許した。
クラブワーストの5連敗。その間は一度たりともゴールネットすら揺らせなかった。

高知ユナイテッドSC戦で残留争い直接対決に敗れ、勝てば自力残留が決まるFC大阪戦とテゲバジャーロ宮崎戦も落とした。他力で残留が決まった後も、栃木シティ戦で相手の昇格を見届け、最後は引退選手に花を持たせる始末だ。
リーグ最少得点の非力を表すかのように、最終節のセレモニーは静寂に包まれる。昨季はサポーターからブーイングが飛び交ったが、今季はそれさえもなかった。
「すべて私に責任があります。何も言い訳することはありません。ここに来た観客の皆さんを笑顔で帰すこと、『楽しかったな』と思ってもらって帰すこと。それが我々のエンターテイナーとしての使命だと思っています。とにかくそれができませんでした」
「戦うこと、うまくすること、強くすること、賢くすること。そのすべてに力を注ぎましたが、力不足でした」
トップチーム初挑戦の指揮官のもと、我慢の一年になるのは分かっていたが、想像の域を超える苦行だった。
シュート0本で完封負けしたり、被シュート30本で大敗したり――。我慢の糸が切れる寸前にまで達したが、なぜここまで低迷したのだろうか。
監督からしか入らないスイッチ
「俺が言う前にお前たちで…」
最後まで甘さが拭えなかった。
2試合を残して残留が決まった翌週。獅子たちはプレッシャーから解放されたのか、表情が緩やかになった。週末には引き分け以上で昇格が決まる首位・栃木Cとの対戦を控えており、目の前でそれを見届けるわけにいかないのだが――。
3対3+2フリーマンのカウンターゲーム。攻撃側が圧倒的に優位で、「決めて当然」とも言えるシチュエーションだ。
それでも決まらないのがリーグ最少得点たるゆえんだが、雰囲気が一向に締まらない。FW進昂平が「ゴール前だぞ」「こだわろう」と声を張り上げても、呼応する者はいない。コートを囲む獅子たちの眼差しも、運動会を見守る保護者のように穏やかだった。
そこに藤本監督が喝を入れる。
「プロサッカー選手のクオリティじゃない。どうやって勝つんだ」
ようやく目を覚ました選手たちは、感覚を研ぎ澄ませてネットを揺らし始めた。
「『俺が言う前に、お前たちで言ってくれよ』とは思う。ミスに対しても、『そんなんずらすなよ』と中で言ってほしい。俺はどちらかと言えば『まあ、まあ…』となだめるくらいが理想ではある」
「『そういう声が出てこないからダメ』とは思わないけど…時代もあるのかな。鹿島とか強いチームはそれがよく出ていると言われるけど、そこはどうなのか分からない。結果論のような気もする」

結果論からすれば、甘かった。シーズンを通して雰囲気は崩れず、はみ出すような選手もいなかったが、それは甘さの裏返しとも捉えられる。
結局、栃木C戦は0-3と完敗。付け焼き刃で勝てるほど首位は甘くなかった。アウェイで相手の昇格を見届け、MF田中康介は至らなさを痛感した。
「『こだわる』と口で言うだけじゃダメ。『最後の質』とか『点取らなきゃ』とか、言葉だけじゃなくてプレーで示さないといけない」
「伝える」と「伝わる」の違い
高い授業料を払い続けた一年
言葉よりも行動――。
1年を振り返っても、“言行不一致”の例はあった。
ロンドから始まるトレーニング。藤本監督は「エクササイズではない」と訴えかけてきたが、肩慣らしのような雰囲気は変わらず。ミスに対して言及する声も少ない。
数合わせとして、サッカー経験のある広報を参加させる日も多かった。その是非はさておき、彼が入ってもさほど遜色ないのは、もはやエクササイズと同義。そもそも数が合わなくても、工夫して成り立たせるのがスタッフの仕事なのだが――。
その週の狙いも徹底できなかった。
勝てば残留が決まる第36節の宮崎戦は、自陣でのボールロストから失点。ホームで0-1と敗れた。
プレシーズンから散々見られた“自滅”。指揮官はリスク回避の意味も込め、残り2試合に向けてサイドから前進することを意識付けたが、具現化されたとは言いがたい。
第37節の栃木C戦でも、中央でのボールロストが散見。藤本監督はハーフタイムの共有を明かす。
「選手が選んだものに関しては尊重するし、悪いわけではないと思う。ただ、失ってピンチというものが事実としてある。今日のゲームメイクの運び方として、『それはなしにしよう』という話をしていた中で、それが起きている。『じゃあ違うよね』という話はした」

最終節の栃木SC戦も、中央でのボールロストから2失点。前後半の立ち上がりや終了間際の失点も含め、同じ過ちを繰り返した。球際やセカンドボールの争いでもことごとく競り負け、同カテゴリーの対戦とは思えなかった。
今季は連勝がゼロ。白星の後に黒星がつきまとったように、進歩が見られなかった。藤本監督は「選手の選択を尊重したい」と言い続けてきたが、明らかに適切なプレーを選べていない。トレーニングの狙いが反映されなかった試合も多々ある。
「伝える」と「伝わる」は違うし、狙いを体現できなければ伝わっていないのと同じ。それでも「あれもいい」「これもいい」と肯定してしまえば、ピントはぼやけたままだ。
相手チームからは「何がしたいのか分からない」との声も聞かれた。誤解を恐れずに言えば、通年取材している筆者からしても、よく分からないままだった。
すべては身から出た錆で、高い授業料を払い続けた一年。指揮官の去就は不透明だが、続投するにしても、サッカーの中身については「違うようになると思う」。藤本監督を招へいした西山哲平スポーツダイレクターも、この経験の重みを口にする。
「学びは多かったと思う。決して学ぶ場ではないけど、それを次に生かせれば無駄ではなかったと。まだ来年のことが決まっているわけではないけれど、そういう位置付けにするしかない」
Jリーグで60チーム中59位。ステークホルダーの我慢の糸が切れる前に、オレンジの誇りを取り戻さなければならない。
クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
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