“捨てる美学”で押しまくる飯田高校 ラグビーの聖地・花園で昨季の雪辱を

押して、押して、勝ち取る――。全国高校ラグビー大会に2大会連続12度目の出場をする飯田。公立進学校で活動に制約があるなかでも、効率的なチーム強化を追求して今年も“花園切符”をつかんだ。就任5年目のOB指揮官・小林克監督のもと、どのような日々を送ってきたのか。2025年12月28日に迎える倉吉東(鳥取)との1回戦を前に、チームが歩んできた道のりをたどる。
文:大枝 令
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重視するのは「何をやらないか」
モール&タックル特化で一点突破
寒風吹きすさぶ土のグラウンドで、ひたすらタックルとモールの練習を繰り返していた。
12月中旬、飯田高校。長野県内では南端の下伊那地方にも、本格的な冬が訪れていた。この日は木曜日。学校カリキュラムの関係で、練習がスタートしたのは午後5時からだった。日はすでに暮れ、薄暗い照明の中で身体をぶつける。
グラウンドに出る練習は平日週2回と少ない。残り3回は室内での30分〜1時間ほどのウエートトレーニングがメイン。週末も練習や練習試合を行えるのは「土日のどちらか片方」(小林克監督)だという。

下伊那地方随一の公立進学校。ラグビーに充てる時間は限られるなか、どのように日々を送っているのか。ラグビー班班長の伊藤海斗が力を込める。
「一番は同じミスを二度と繰り返さないこと。前回の練習よりも今回の練習を良くする、前回より今回、今回より次回――というのを意識しながら共有している」
もちろんこうした意識を徹底するのは重要。さらに指揮官は、さまざまな制約の中で思い切り良く取捨選択をしていることを明かす。
「やりたいことは山ほどあるけれど、『何をやるか』ではなく、『何をやらないか』を大切にしている」
それが結果的に、今季のチームカラーにも如実に表れている。
フォワード戦だ。

とりわけドライビングモールに力を入れる。ボールを抱え、集団で前進するプレー。派手さはなく、一気に陣地を稼げるわけでもない。だが集団同士の押す力で相手を上回れば、低いリスクで着実に前へ進める。
「だからもう、タックルとモールの練習ばかり。1回ボールをもらったら、ずっと持っていたい。相手に渡したくない」と小林監督は笑う。比較的リスクを伴うバックスの横展開や、相手にボールを渡すキックなどは極力使わない。
とにかく縦へ。ポゼッションの時間を長くしながらじわじわ前進し、トライに至る。そうして時計の針を進めながら、ロースコアで勝ち切るのが基本的なロードマップとなる。
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フォワードは要所に重量級を配置
県大会決勝もモールでゲーム支配
前提として、フォワード戦で一定の優位性を持てるだけの粒がそろう。筆頭格は120kgの2年生ロック久保田光瑠。1列目のプロップ2人も2年生の麦島大(90kg)、1年生の所澤選人(108kg)と要所に重量級を配置する。
そのほかのフランカー陣などは比較的小柄ではあるものの、フッカー伊藤は「あまり大きい選手じゃないぶん、低さを生かしている。相手が来るポイントよりも低くしっかり入り込んで前に進んでいくことを意識している」と力を込める。
自身もフォワード出身の小林監督。信州大でも競技を続け、現在は母校で指揮を執る。

「近年は身体の大きい選手が来てくれているからやっている。まずは大きい選手を前面に出すのと、あとは1対1が強くないから、みんなで固まって押していく」
それ以外にも、相手ディフェンスを上回るための引き出しを増やしてきた。押し方を綿密にシミュレーションし、「選手たちがしっかり考えて試合中に変えていく。それは練習から意識してきた」と指揮官。その際には、キャプテンのNO8小池勇誠がブレーンとなる。
県大会決勝も、そのスタイルで勝利をつかんだ。相手はフィジーからの留学生2人を擁する松本国際。もちろん個の能力では後手を踏むものの、モールになれば押せる。留学生がモールに参加せざるを得ない状況を意図的に作り出し、スタミナを削って14-14で折り返す。

「(留学生は)中心選手なので、アタックもディフェンスも彼らがやってくる。そこを削っていきたい狙いがうまくハマった」
モール以外にこだわってきたもう一つの要素・タックルも生かした。突破力のある相手の脚を捕まえて前進を食い止め、ダメージを最小限に留める。26-19。1トライ1ゴール差ではあるものの、主導権を握ったまま試合を終えた。
「1年間ずっと悔いが残った」
2点差惜敗だった昨季の雪辱へ
そして迎える、集大成の花園。2〜3年生10人にとっては、前回大会の苦い記憶を払拭すべき舞台でもある。
1回戦屈指の接戦となった、盛岡工業(岩手)との一戦。24-26のまま後半30分を過ぎ、ラストワンプレーの時間帯で相手が反則を犯す。いくつかの選択肢があるなかで、飯田は3点が入るペナルティキックをチョイス。しかし無情にもゴールを外れ、逆転勝利を逃した。

キャプテンの小池が当時を思い起こす。
「(昨季の)キャプテンが決断して外れてしまったことには誰ひとり悔いはない。ただ、ああいう試合になってその決断をさせてしまったことに対して、自分たちは1年間ずっと悔いが残ってきた」
「そんな決断をしなくても絶対に勝ち切るチームを目指してきた。それを去年の先輩たちにも、去年見てくださった長野県の人たちにも、『今年は勝てるぞ』というところを見せたい」

雪辱への思いも原動力となり、10人の1年生を加えて力を蓄えてきた。初戦の相手は同じ公立校の倉吉北(鳥取)。磨き抜いてきたドライビングモールで押して、押して、勝利へ至るのみ。花園での悔しさは、花園でしか晴らせない。
第105回全国高校ラグビー大会(公式サイト)
https://www.mbs.jp/rugby/

















