人事尽くして天命を待った残留劇 崖っぷちのボアルース長野が示した“善き光”

boa luz.“善き光”という意味のポルトガル語だ。縁あって人生の一片を注ぎ込んだこの街に、どれだけ恩返しをできるのか――。戦う理由は、それだけで十分だ。だからこそ、なのかもしれない。崖っぷちに立たされて、はい上がった。F1リーグのボアルース長野は、ファイナルシーズンを終えて残留。3連敗スタートで一時は最下位に転落したものの、2引き分けと追い上げて得失点差で踏みとどまった。
文:田中 紘夢/編集:大枝 令
KINGDOM パートナー
ファイナルシーズンに潜む魔物
「普段なら入るシュートが…」
人事を尽くして、天命を待つ。
できることは、それだけだった。
ファイナルシーズン初戦は地元開催の長野ラウンドを迎えるも、最下位の Y.S.C.C.横浜に 1-3。山蔦一弘監督が「ここがすべて」と位置づけた試合で、死に物狂いの相手に呑まれ、あっけなく敗れた。
仕切り直しを図ったファイナルシーズンの名古屋ラウンドも、バサジィ大分とボルクバレット北九州に敗れて3連敗。レギュラーシーズンの9位から、あっという間に12位(最下位)まで転落した。
内容自体は初戦から上向きながらも、ファイナルシーズンの“魔物”に襲われていた。山蔦監督が明かす。

「普段だったら入るシュートが入らなかったり、相手の気持ちに押し負けて止められなかったり。自分たちはチームとしてまだまだ経験値が足りないし、個人として突き抜けるのが足りない」
大分戦はシュート数で29対18と上回りながらも、スコアは1-4。内容と結果が比例せず、失点も流れにそぐわなかった。ただ、最後にスコアを動かすのは個人だ。

「自分の持っているものと、チームとして積み上げてきているものを、どうやったらピッチに100%で出せるか」とキャプテンの三笠貴史。山蔦監督も「一人ひとりが今まで+1の働きをしよう」と訴えかけたという。
「ABOVE THE LIMIT 限界を超えろ」。そのスローガンに則り、個々のクオリティの最大値を掛け算しなければ、明るい未来はつかめない。“善き光”はもたらせない。
KINGDOM パートナー
残り2試合で光ったベテランの力
それぞれの持ち味生かし勝ち点2
残り2試合の正念場。
そこでチームに光を照らしたのは、頼れるベテランたちだった。
3連敗で迎えた湘南ベルマーレ戦、第1ピリオドの残り5秒で先制。最年長の40歳・田中智基のアシストから、最古参の33歳・松永翔がゴールをこじ開ける。

敵陣で一度はボールを奪われるも、上林快人のプレスバックで奪い返して再び攻撃へ。相手の陣形が崩れた隙を逃さず、田中が得意の左足でラストパス。松永のトラップからトーキックまでの流れもなめらかだった。
フィクソとして守備に専念する時間が長かった松永だが、この日は「自分がやるしかないと思っていた」。カットインからシュートを放つなど、持ち前の馬力を発揮。アシストした田中も「自分たちのセットは攻撃というより守備だったので、今日は点を取れてよかった」と振り返る。

守備でも残り4分で同点に追いつかれるも、最少失点に抑えて勝ち点1。田中はチームの成長を実感する。
「いつもだったら後半に流れを持っていかれて、ボールを蹴るだけになって守備の時間が長かった。そこが今日はアグレッシブに前から行って、相手のピヴォに入っても思うようにはやらせなかった。4試合目でやっと引き分けて、次に繋げられたのは大きい」
連敗を3でストップし、残留への望みを繋いで最終戦へ。残留圏の11位・Y.S.C.C.横浜を勝ち点1差で追っており、負ければF2降格が決まる状況だった。

第2ピリオドの開始11秒、田中が自陣ゴール前で痛恨のパスミス。らしくないプレーから先制を許したが、それを救ったのもまたベテランだ。
2分後にすぐさま同点。野口茅斗のロングパスから、右サイドを抜け出した米村尚也が右足で鮮やかなハーフボレーを叩き込む。32歳のフィクソが「ここぞ」という場面で高い得点力を見せた。

同点後はコンディション不良のガリンシャをポイント起用した。強靭なフィジカルを頼りにチャンスを作るも、あと一歩届かず。それでも相手のパワープレー(GKをフィールドプレーヤーに代えての全員攻撃)を耐え凌ぎ、1-1のドロー。2試合連続で勝ち点1を持ち帰った。
人事を尽くして引き寄せた希望
ファミリー全員で勝ち取った
ファイナルシーズン5試合を終えて2分3敗。急転直下の3連敗から持ちこたえ、勝ち点2を積んだ。翌日に最終戦を控える横浜と勝ち点22で並び、得失点差で残留圏の11位に浮上した。

「なかなか思いどおりにいかないシーズンだったけど、自分たちができる100%は出し切った。あとは信じて待つしかないし、どんな結果になっても受け入れるだけ」
そう胸を張った山蔦監督。結果的には、自身の古巣にアシストを受けた。大分が横浜を5-3と下し、長野の残留が決定。最後は他力本願となったものの、残り2試合での追い上げが実を結んだ。

ただそれも、レギュラーシーズン22試合で得た「勝ち点20」の貯金がものを言った。うち12ポイントはホームで積み上げたもの。平均動員数1,000人を超えるリーグ屈指の環境に、キャプテンの三笠は背中を押されたという。
「シーズンを通して各地に行って、長野に戻って…という中で、ボアルース長野のホームゲームの素晴らしさを常々感じたシーズンだった。こういう集中開催の舞台で、ほかのチームの選手もそう言ってくれた」
「『落ちないでくれ』と。あの雰囲気のホームゲームができるチームが落ちてはいけないというのは、たくさん言ってもらった。このクラブが1部にいないといけない理由はピッチ内外で感じた」

F2からの復帰初年度で、絶対目標の残留を達成した。
これはチームに限らず、ファミリー全員でつかんだ勝利だ。ファイナルシーズンは平日開催かつ午前中の試合もありながら、サポーターは特急しなのに揺られて名古屋へ。赤く染まったゴール裏を目にして、山蔦監督は「自分たちはF1に残留する使命がある」と決意を改めていた。
そんな同志とともに守り抜いたのはF1という舞台だけでなく、この街の誇りと文化。それは長野に、計り知れないほどの意味を持つ。
善き光、ボアルース。
その名のとおり、この土地を明るく照らす、かけがえのない存在になっていく。

クラブ公式サイト
https://boaluz-nagano.com/
Fリーグ チーム紹介ページ
https://www.fleague.jp/club/nagano/
















