南長野からチャントが消えた日 揺らぐ“運命共同体”…それでも明日はやってくる

チャントも、大旗も、横断幕もない――。2026年3月21日、J2・J3百年構想リーグ第6節のいわきFC戦。AC長野パルセイロの選手たちは、異様な雰囲気に包まれた長野Uスタジアムで己を奮い立たせようと懸命だった。どんな時も温かく見守ってきサポーターが今回の意思表示に行き着いたのはなぜか、それをチームはどう受け止めたのか。“運命共同体”とも言える両者の葛藤と決意を探った。
文:田中 紘夢
KINGDOM パートナー
ダービー大敗、サポーターの葛藤
「何事もなかったようには…」
「この1週間はいろんな葛藤があって、傷が癒えなかった。このまま何事もなかったかのように試合を迎えてはならないし、選手たちにもそうであってほしくない」
2週連続のホームゲームとなったいわきFC戦。試合前の決起集会で、コールリーダーがサポーターの仲間たちに訴えかけた。

“傷”とは、前週のホームゲームで目撃した松本山雅FCとのダービーに他ならない。
Jリーグ参入後のホームゲームでは無敗を誇ってきたダービーで、まさかの0-5。屈辱的なスコアで打ち砕かれた。 前半だけで4失点を喫し、一方的な形に持ち込まれた試合展開もさることながら、コールリーダーの言葉を借りれば「戦う姿勢が感じられなかった」。

“走れ、戦え、力の限り”
ウォーミングアップ前と入場時に歌われるアンセム「Sky」。その歌詞に背信する試合内容に無力感だけが募り、いわき戦では「Sky」も封印された。
「悔しいし、情けないし、不甲斐ない」
PK戦での敗戦を含めると、昨季から実に11連敗。少なくとも4カ月にわたってくすぶっていた感情が、ダービーでの大敗を機に噴出した。

監督や強化責任者ら体制が一新されて迎えた2年目。目の前の現実は生みの苦しみか、はたまた絵に描いた餅か――。
チームと運命共同体として痛みを分かち合いながらも、傷の舐め合いはしたくない。そんな意思をサポーターが行動で表したのが、いわき戦だった。
KINGDOM パートナー
静寂に包まれた長野Uスタジアム
獅子たちが受け取ったメッセージ
試合開始2時間前。チームバスが長野Uスタジアムに到着したが、迎え入れたのはいつもの応援歌ではない。「示せ、『勝ちにこだわる』姿勢を。」と記された幕と、まばらな拍手だ。
1時間前にウォーミングアップが始まっても、響き渡るのはチームと選手の名前を呼ぶ「コール」のみ。リズムに乗せて歌う「チャント」が聞こえなければ、大旗や横断幕による鼓舞もない。いつもより静かなゴール裏には、横一列に並んだ白い幕が風に揺れる。
「貪欲なファイトこそがオレたちを狂わせる」
「ぶっ倒れるまで闘え」
「サポーターは見てるぞ」
「気持ち」

ウォーミングアップ前の“儀式”もなかった。選手とスタッフがゴール裏に赴き、肩を組んでサポーターの声援を噛み締める「Sky」。ピッチとスタンドの境界線を取り払う共同作業が、この日は行われなかった。
その決定は試合2日前に藤本主税監督に伝達され、前日には選手たちの耳にも届いた。チーム最年長のMF近藤貴司は「なんとなく察した」という。
「バス入りからアップまでのサポーターの振る舞いを見ても、この間の大敗に対して思うところはあっただろうし、だからこそ自分たちがやらないといけないという思いになった」

いわきとの古巣戦を迎えたFW吉澤柊は、「ダービーに0-5で負けて、自分がサポーターだったらもう応援しに来ないと思う」。それでもホームのゴール裏に駆けつけたサポーターたちの思いをくみ取り、「応えたい」と決意を新たにした。
奮闘も報われず、試合後は口論に
それでも「背中を押してほしい」
格上相手に0-0で折り返した試合は、後半に崩れて1-3で敗戦。サポーターとチームが求めていた結果は得られず、傷口は塞がれるどころか、むしろえぐられたのかもしれない。それでも、ピッチに立った獅子たちは横断幕の言葉通り「貪欲なファイト」を示し続けた。
松本山雅と同様にインテンシティを全面に出すいわきに対して引けを取らなかった。今季初先発のFW大﨑舜とMF長谷川雄志のフィジカルも借りながら球際やセカンドボールの争いに執着。ダービーで折られた牙は、わずか1週間で生え変わっていた。

「これをチームのベースにしたい。今日はみんな戦っていた」と長谷川雄志が言えば、藤本監督も「よく1週間でここまで戻してくれた。選手を誇りに思う」とリバウンドメンタリティを称えた。
ただ、突きつけられたのは昨季から12連敗という残酷な結果。試合後はサポーターと監督の間で激しい口論が交わされた。それでも、「背中を押してほしい」とサポーターから目を背けることはしなかった。
「こういう時だからこそ手を離さないでほしい。僕も強い口調で皆さんに伝えることはあったけれど、最後は皆さんが理解してくれたし、同じ思いということも確認できた。また次は一緒に戦えるという思いで終えることができた」

この日は90分にダメ押しの3点目を決められるまで、勝負がどちらに転んでも不思議でない展開だった。同点に追いついてPK戦まで持ち込めていれば、試合後は違う光景が広がったのかもしれない。
その1点を食い止め、その1点を生み出す後押しができるもの――。それこそ、サポーターだけが持つ力だろう。いわき戦で示された意思表示が正解かどうか、今は誰も「正解」を知らない。ただ一つ確信をもって言えるのは、サポーターとチームは、これからもこの先も運命共同体だということだ。
今節の結果をもって、J1を含む60クラブの中で未だ勝利がないのは長野だけになった。受け入れ難い現実だが、明日は待ってくれないし、すぐに試合はやってくる。ここからはアウェイ2連戦。敵地では過去1勝2分3敗のFC岐阜戦、2勝4分7敗の藤枝MYFC戦と鬼門が続く。

おそらく、手を離してはいないサポーターもいるだろう。ただ、熱は冷め始めているように見える。
千尋の谷から這い上がってきた子だけを育てるのか。それとも、強く握った手で獅子たちを引っ張り上げるのか。それぞれの胸に問いかける時は、今をおいて他にない。
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