アキ・チェンバースは静かに燃える 言動に滲む“仕事人”のプライド

“3&D”。その用語がしっくり収まるように、アキ・チェンバースは3ポイントシュートとディフェンスを武器とする。職人のように淡々と、確実にプレーを遂行するいぶし銀のSF。ルーズボールにも鋭く反応し、ファストブレイクになれば先陣を切るように走っていく。信州のスタイルにもカルチャーにも親和性が高い、その魅力を解きほぐす。

文:大枝 令/編集:芋川 史貴

経験豊富な守備のエキスパート
スタッツに表れにくい「真価」

スタッツだけでは、その存在価値を測れない。

ディフェンスに定評のある34歳。マンツーマンで対峙した相手に自由を与えず、ローテーションのずれも極めて少ない。ボール保持者を前に、表情ひとつ変えずスッと腰を落とす。その立ち姿からは、静かな迫力がにじむ。

それだけではない。半歩先に動いてスティールするし、ルーズボールの奪い合いにもめっぽう強い。実際、勝久マイケル・ヘッドコーチも「何よりも闘争心と、それに伴う球際の強さ。去年課題だった部分の一つを、彼の補強で補いたかった」と獲得の狙いを口にする。

その能力を解きほぐしていくと、根源は「先を読む力」に行き着く。構造的にリアクションとなるディフェンスでも、相手が嫌がることを鋭敏に察知。読む力があるからスティールに成功するし、ルーズボールにも先に触れる。切り替えの早さとも無関係ではないだろう。

もう一つの特徴は3ポイント。表情ひとつ変えず、精密なシュートでゴールを射抜く。「自分のプレースタイルを(勝久)マイケルHCも好いてくれていると思うし、それをこのチームで表現することが求められていると思う」。やるべきことは明確だ。

PROFILE
アキ チェンバース(Aki CHAMBERS)1990年9月19日生まれ、アメリカ合衆国出身。アメリカ人の父と日本人の母を持つ。カリフォルニア大学マーセド校から当時bjリーグの浜松・東三河フェニックス(現三遠ネオフェニックス)に入団。サンロッカーズ渋谷、千葉ジェッツ、横浜ビー・コルセアーズ、群馬クレインサンダースを経て昨季は渋谷でプレー。2021年には日本代表にも選出された。粘り強いディフェンスと正確な3ポイントシュートに定評のあるSF。191cm、90kg。

過去のケースに照らし合わせてみても、信州に加入して1年目の新戦力は戦術習得に苦戦しがち。特に若手だとその傾向が強かった。しかしチェンバースは現在のところ、新天地でもスムーズに順応しているようだ。

元来の特性とパーソナリティがぴたりとスタイルに符合する上、昨季プレーしたサンロッカーズ渋谷ではルカ・パヴィチェヴィッチ監督の徹底したディフェンスを経験。もちろん細部は異なるものの「厳しい遂行力とか似た部分もあるので、そこはやりやすい」と話す。

さらに信州では、過去のチームメイトとも再び手を携える。石川海斗とは同学年で、2014年に当時NBLの日立サンロッカーズ東京(現渋谷)でプレー。生原秀将とも2019-20シーズンからの2季を横浜ビー・コルセアーズで戦った。

「今まで一緒にプレーした選手とまた新しいチームでプレーできている。このチームで孤独を感じずにいられている」

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淡々と目の前のタスクをこなす
プロとして好不調の波を少なく

とはいえ、プレシーズンここまでの自己評価は“OK”。飛び抜けて良いわけでもないが、悪いわけでもない――という意味だ。

「すごい才能を持ったプレーヤーが多いし、いいチームだと思うけれど、まだプロセスの途中。HCのやりたいバスケットボールをどう表現するのかが大切」。実際にプレシーズンゲーム2試合を振り返って、「少し違う2試合だった。その中で誰とプレーする時にどうプレーしたらいいのか、どうフィットするか」と課題を口にする。

発言で雰囲気を締めることも、少しおどけて明るくすることも。取材には物静かに応じる。職人気質のプレースタイルも相まって、さながら“カリフォルニア育ちの修行僧”のようでさえある。

プロとして大切にしていることは、「波がなく一貫性を持ってプレーすること」。自分にコントロールできることを最大限コントロールし、継続的にパフォーマンスを発揮する。そのために、丁寧な毎日を送ることを重視してきた。

「若い時からしっかり食べて、しっかり寝て、しっかりストレッチをしていた。そういう毎日のルーティンが大切」。長じた現在は身体のケアにいっそう心を配っており、「ハードワークはするけれど、いつ休みが必要なのかを理解して、しっかり身体のコンディションを整えている」と話す。

継続は力なり――。

価値観が練り上げられてきたバックグラウンドに耳を傾けると、そんな言葉が自然と浮かぶ。プレースタイルも、パーソナリティも。信州のバスケットを表現するにはうってつけのピースと言えるだろう。

来日12年目で初めてのB2リーグ
決断を正解とするシーズンへ

B2でプレーするのはキャリア初となる。Bリーグ開始以降は渋谷、千葉ジェッツ、横浜ビー・コルセアーズ、群馬クレインサンダースに所属。特に千葉ジェッツ時代は活躍目覚ましく、2017-18と18-19シーズンで2季連続チャンピオンシップ決勝の舞台を踏んだ。

昨季は7シーズンぶりに渋谷へ帰還したものの、思うようなプレータイムは得られなかった。レギュラーシーズン45試合に出場した中でも先発はゼロ。1試合当たりの平均プレー時間も12分16秒と、Bリーグ開始以降の8シーズン中で最も短かった。

不本意なシーズンを終えた後に届いた、勝久HCからのラブコール。

「マイケルHCは、自分が実際に話をすることができたコーチの一人。そこでブレイブウォリアーズの将来がどうなるかについて話ができた」

新天地の黄色に身を包み、自身としても捲土重来のシーズンを迎えるチェンバース。日々フィットしながら開幕に備える中で、今回の移籍に対する確固たる自信も芽生えてきた。

“I’m really liking my decision so far.”
「今のところ、自分の決断が本当に良かったと思っている」

シーズンの最後にはおそらく、“so far”(今のところ)が取れているはず。その瞬間を迎えるためにこれまで通り、丁寧な毎日を積み重ねていくのみだ。

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