“開幕サプライズ”の立役者 ウルリック・ボ・ダールは高空から狩る

強烈なサーブを放つたび、黄色に染まったアウェイの体育館がどよめいた。VC長野トライデンツのオポジット(OP)ウルリック・ボ・ダールが、そのヴェールを脱いだ。10月13日のSVリーグ男子第1節GAME2、大型補強のジェイテクトSTINGS愛知を3-1で撃破。“サプライズ”の立役者となった若きデンマーク人OPの素顔に迫った。

取材:松元 麻希/文:大枝 令

SVリーグに鮮烈デビュー
サーブとバックアタックに強さ

無名のデンマーク人が、鮮烈なインパクトを与えた。

左腕から力強いサーブを繰り出してプレッシャーを与えたと思えば、高空からのバックアタックも冴えわたる。

第1節の2試合を終え、1セットあたりのアタック決定本数は5.12。オランダ代表ニミル・アブデルアジズ(ウルフドッグス名古屋)に次ぐ2位につけた。

「自分たちもSVリーグの中で戦えるんだ――ということを見せられた」。1-3と敗れたGAME1の後、ウルリックは会見で手応えを口にした。アメリカ代表トリー・デファルコとの競演にも負けず劣らずの存在感。「そのために日本に来た。印象付けられたのは良かった」と話す。

チームとしても修正した第3セットから自身にボールが集まり、強打を連発。1セットを取り返す。「打って打って乗るタイプ」という川村慎二監督の見立てに違わぬ活躍ぶりだった。

PROFILE
ウルリック・ボ・ダール(Ulrik Bo Dahl) 2000年11月18日生まれ、デンマーク出身。14歳の時、3歳上の兄の影響でバレーボールを始めた。年代別のデンマーク代表に選ばれ、19歳からイタリア、ベルギー、スペインでプレー。2023-24シーズンはサン・ロケ(スペイン)でサーブ賞を受賞した。今シーズンからVC長野に加入。強打のオポジットとして中軸を担う。201cm、97kg。最高到達点363cm。

そしてGAME2。さらにその存在感を強め、3-1の勝利に大きく貢献した。「サーブが武器なので(サービス)エースを取りたいし、あとはアタックももちろん得意。高いところからの攻撃を見せていきたい」。開幕3日前の取材に対して話していた通り、持ち味を存分に発揮した。

とりわけバックアタックが際立つ。決定本数は22本で堂々のリーグ首位。打数は31本となっており、決定率も71.0%でリーグ4位につける。パリ五輪でも活躍した強豪国のスタープレーヤーに注目が集まる中、十分な“サプライズ”と言えるだろう。

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昨季はスペインでサーブ賞獲得
「日本でのプレーは夢だった」

14歳の時に兄の影響でバレーボールを始め、アンダーカテゴリーの時代からデンマーク代表を経験してきた。

ただデンマーク自体はFIVBランキング42位(2024年8月30日現在)。五輪の出場歴はなく、欧州選手権やワールドカップ(W杯)など主要な国際大会で目立った成績を残したこともない。

自身は19歳から海外でプレー。イタリアで2シーズン、ベルギーとスペインで1シーズンずつを過ごす。昨シーズンはスペイン1部のサン・ロケでベストサーバー賞を受賞。そして今シーズン、SVリーグを戦うVC長野に加わった。

「SVリーグの存在は聞いていた。外国籍選手の枠が2人に増えてとても競争の激しいリーグになり、ポーランドやイタリアに並んで世界最高のリーグの一つになるだろうと感じていた。自分も参加したいと思っていた」

そもそも親日家だ。7年前に訪日し「日本の文化に触れて、人の良さや都市、自然、食べ物に惹かれた」とインパクトを受けた。それ以降は「日本でプレーするのが夢だった」。プロキャリアの終盤を日本で過ごせれば――と漠然と思い描いていたというが、望外のタイミングでその機会が舞い込んだ。

普段は伊那谷に住む。出身地はデンマークの首都コペンハーゲン。それに比べればずいぶんとのどかな場所だが、「長野県の印象は、美しい自然がある。街が高い山々に囲まれている」と快適に暮らす。ちなみに好きな日本食は「寿司、餃子、ラーメン」だという。

言語の壁も苦にせず新天地に適応
闘志あふれるパフォーマンス

もちろん言語の壁はあるが、それを感じさせない。むしろ自分から積極的に、新天地に溶け込もうとしている。

練習中は早坂心之介らセッター陣と綿密にやりとり。早坂はウルリックについて「毎日練習していく中で口酸っぱく言ってもらえるので、理想のトスを持っていけるように努力し続けてきた」と話す。

キャプテンの藤原奨太も「年齢的には若いけどアドバイスもしてくれるし、コミュニケーションが難しい中でもすごく馴染んでいる。真面目で頼りがいがある選手」と信頼を寄せる。

そしてチームに闘志も吹き込む。得点が決まれば雄叫びをあげたり、大きく両の拳を突き上げたり。自身も「コート上で感情を出してチームを鼓舞できることも、選手としての特徴だと思う。ファンのみなさんに驚きや喜びを表現するのが好き」とうなずく。

VC長野は2試合目で歓喜の初白星を挙げたものの、格上に挑み続けるシーズンは今後も続く。その上で大切なことは何か。ソリューションはすでに、欧州各国でプレーしてきた23歳の血肉に溶けている。

「VC長野はリーグのなかで予算が高いチームではないけれど、点を取って勝利するためには、全てのボールを追いかけることが必要だし、みんなで一丸となって戦う姿勢を見せることが大事だと思う」

「まずは自分のことを覚えてもらうことが目標。初めてデンマークから来たプロ選手だし、『ウルリックと言ったらあの選手だね』と認知されるようなトッププレーヤーになりたい」

伊那谷に来て感動を覚えたのは、青空を我が物顔で旋回する猛禽類の姿。そして自身の利き腕にも、翼を広げた鷲が刻まれている。

SVリーグ唯一のデンマーク人選手。大空の覇者さながらに、高空から獲物をハントする。


SVリーグ第2節 日本製鉄堺ブレイザーズ戦 試合情報
https://vcnagano.jp/match/2024-2025-sv-div2-1
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461

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