サーキットのない信州から 世界を視野に疾走する“愛すべき傾奇者たち”

鈴鹿8時間耐久ロードレースは、世界的にも有名な真夏のオートバイ耐久レース。毎年、三重県の鈴鹿サーキットで開催され、46回目を迎える今もなお“完走すら難しい”過酷な舞台として知られる。その世界に挑むのが、長野県を拠点とする「信州Re:N(れん)with TOTEC」だ。 常設サーキットすらないものの、国内最高峰の全日本ロードレース選手権JSB1000クラスにも参戦。活動の源泉となるパッションを、吉井勝行代表に聞いた。

文:井桁 美栄/編集:大枝 令

信州Re:Nの新しい旗印で再出発
「信州を世界に見てもらう」ため

チーム名の「Re」は、「再び」でもあり、「変革」(Revolution)の意志でもある。
再出発に懸ける決意の象徴だ。

「一般社団法人信州活性プロジェクトTeam長野」が運営するオートバイレースのチーム。2024年、現在の名称としてリスタートした。

吉井勝行代表が語る。

「やっぱり“好きだから”。信州が、バイクが。前身のチームでレースを続ける中で、“一緒に戦っていきたい”と思える仲間に出会えたことも大きかった。そうした仲間と、世界の舞台で挑みたいという思いが自然と強くなっていった」

「今では二輪(バイク)、四輪(クルマ)を問わず、モータースポーツに関わる多様なメンバーが自然と集まってきている。同じ夢を追いかけられる仲間が増え、支えてくれる人たちができて、人と人とのつながりが生まれ、チームも少しずつ成長してきた」

長野県内には国際サーキットがない。心技体の粋を尽くしたパフォーマンスを、身近に見せることはかなわない。ただ、そんなことは問題ではなかった。

「本格的な国際サーキットがない信州だからこそ、逆にその魅力をもっと多くの人に伝えたい。今後はバイクレースに限らず、自動車レースも含めてモータースポーツ全体を信州に根付かせていきたい」

「そして、さまざまな垣根を越えて僕たちが活動を続けることで、いつか若い世代にとって“夢の一つ”になれたらと願っている」

ただし、レースはあくまでも手段にすぎない。こよなく愛するオートバイレースを通じて、どのように信州を元気にしていくか――を真のミッションに位置付ける。

吉井代表が続ける。

「私たちは、ただレースだけをしたいわけではない。地域に人・モノ・お金を呼び込むような仕組みを、モータースポーツを通じて作りたい」

「信州から世界に」よりもまず、「世界に信州を見てもらう」。視点を変えることで、地方から世界とつながる新たな可能性を模索している。

手弁当で休日を捧げる。
こよなく愛するオートバイのために、地域のために。そして尖ったプロジェクトに賛同してくれる、支援者に報いるためでもある。

信州Re:Nを支えるのは、地域や企業の力に他ならない。

TONE RT SYNCEDGE4413 BMWからの技術支援。メインスポンサーのトーテックアメニティ株式会社、ともにプラチナスポンサーのSDG株式会社、かつら綜合法律事務所。地元のGSユアサ、日立Astemo(ニッシン)――。

「関わってくれるすべての人の想いに応えるには、結果を出すしかない」

吉井代表の言葉には、責任と感謝がにじむ。

あえての未知に果敢なチャレンジ
全日本の最高峰クラスに若手抜擢

信州Re:Nは2024年の鈴鹿8耐を完走。総合24位となり、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)ポイントを1獲得した。メーカーが運営するワークスチームとは異なる「プライベーター」としては、とてつもなく大きな「1」だった。

そして25年、全日本ロードレース選手権の最高峰・JSB1000クラスにスポット参戦。吉井代表はその理由を「チームのレベルアップのため」と語る。

地方選手権での好成績に満足せず、より高いレベルでの実戦経験を積むことで、チームの底力を高めたかったという。「メンバー全員が同じ方向を向き、レースという舞台で実際に戦うことが、最大の成長につながる」

観客の多い「もてぎ2&4レース」を選んだのも、スポンサーやチームの知名度向上を狙った戦略だった。

起用されたのは24歳の若手ライダー・中島陽向。チーム、マシン、サーキット――すべてが初めてという中での挑戦だった。

チームには鈴鹿8耐で歴代最多31回の出場歴を持つ58歳の東村伊佐三に加え、ル・マン式スタートでトップを取れる身体能力の高さを持った25歳・中村修一郎も在籍する。

中島は最も若く、経験も浅かった。

それでも、だからこその決断だったという。

「未知だからこそ、お互いに成長できる。一から信頼関係を築くことで、全員のレベルを底上げできると信じていた」

結果は予選23位、決勝19位。
順位以上に、チームに確かな手応えをもたらしたレースだった。

もちろん、初の全日本参戦は課題も多かった。経験の差、準備の不十分さ、連携の甘さ――。「個々の役割を自覚し、先を読んで行動できる力。これが足りなかった」

しかしその中でも、各メンバーが実戦を通じて成長する姿が見られたという。「昨年より、次のステージが見えてきた」。それが最大の収穫だった。

「去年の自分たちを超えていけ」
覚悟を胸にサーキット内外で奮戦

吉井代表が掲げる目標は「昨年の自分たちを超えること」。順位よりも、成長を実感できるかどうかを大切にしているという。

「ライダーは命を懸けて戦っている。それなら、メカニックもサポートも、同じ覚悟で挑もう。全員が“自分の立場で勝負する”チームにしたい」

その積み重ねが、やがて世界をつかむ力になると信じている。

「サッカーやバスケのように、信州にモータースポーツ文化を根付かせたい」

そのために、活動を広く知ってもらうことも重要なファクターとなる。

鈴鹿8耐はBS12で放送される予定で、塩尻市でのパブリックビューイングも計画されている。全日本選手権はYouTubeでも視聴可能だ。

「“信州にも、こんなチームがある”。そう思ってもらえるだけでもうれしい。できれば、他の人に教えてもらって一緒に応援してほしい」

信州Re:Nの小さくて大きな挑戦。
静かに――しかし確かに、世界に向かって走り出している。


チーム公式サイト
https://shinsyu-ren.spo-sta.com/
鈴鹿8時間耐久ロードレース大会公式サイト
https://www.suzukacircuit.jp/8tai/


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