“縁ある地でまだバレーを” 引退後の選手らが集う新たな場「VC PTARMIGAN」

長野県北信地方を拠点とする新たな男子バレーボールクラブ「VC PTARMIGAN」が誕生した。長野GaRonsを引退した選手たちが中心となって立ち上げたこのチームには、「まだバレーがしたい」「仲間とつながっていたい」という思いが詰まっている。現役を離れても、バレーを続けられる場所。その立ち上げに込められた思いと、地域に根差したチームの形とは——。

文:原田 寛子/編集:大枝 令

引退は「バレーの終わり」にあらず
さまざまな境遇の選手を受け入れ

雷鳥が静かに羽ばたきを始めた。

2025年4月、新たなバレーボールのクラブチームが発足。長野GaRonsで活躍した引退選手を中心に、10人ほどが活動している。

「何か面白いことをしたい、と話したことがチーム発足のきっかけになった」

結成について語ったのは、セッターとして5シーズン長野Gに在籍した高井大輝。

「ガロンズでのプレーを振り返った時、苦しい時もあったが楽しかったシーズンが確かにあった。昨季引退した鰐川(怜児)さんや今季引退した松下(祐太)さんと相談して『声を掛けたら選手が集まるんじゃないか』と、何人かに声を掛けたらすぐにメンバーが集まった」

かつての仲間とバレーを続けたい――そう感じていた仲間は一人ではなかった。バレーを続けるスタンスは人それぞれだが、そのハードルを低くしたいというのもこのチームの根底にある。

「身体を動かせる場所を提供したいという意味もある。Vリーグを目指したい選手、家庭の事情などで決まった練習全てに出られない選手、そしてVリーグを引退してもバレーを続けたい選手。何らかの理由でチームに属しにくい選手が、バレーを続けられる場所を作りたかった」

かくしてVC PTARMIGANは産声を上げた。

“初陣”の中部総合ではベスト4
「積み重ねがあるから今がある」

チーム名の“PTARMIGAN”(ターミガン)は、雷鳥を意味する。長野県の県鳥。この地ならではの名前を掲げて新たな一歩を踏み出した。

長野GのOBのほか、新たに加入した選手もいる。一時的に所属したいという選手も、一緒にプレーを楽しむ。練習の取り組み方もVリーグのチームとは異なるため、決められた練習日程はない。

それぞれが無理なくプレーできるからこそ好きなバレーを楽しむスタンスはあるが、勝ち進む目標も持っている。選手は、限られた時間の中で信州大バレー部などとの練習試合を積極的に組み、実戦練習を行う。

特に中部日本6人制総合男女選手権大会長野予選までは練習時間も少ない状況で挑んだ試合だったが、決勝まで駒を進めて優勝を果たした。7月の本大会も2勝してベスト4入り。一つの足跡を刻んだ。

国民スポーツ大会県予選も含めて複数の大会を経験し、新たな気付きも得られた。

「Vリーグではわからなかった『負けたら終わる』という緊張感を味わった」と高井。さまざまな境遇の選手が属するということは「この試合が最後」の選手もいるということ。1試合ごとに、1球ごとに込められた熱がある。

「ガロンズでの積み重ねがあるから今がある。そして積み重ね続けることの中でこのチームを作ることができた。今選んだ道は間違っていなかったと感じた」

自信を込めて高井は語った。

縁に導かれた土地でバレーを続け
生産年齢人口増&地域貢献にも

特定のVリーグチームに所属してプレーするということは、チームがある地域で生活することにもつながる。

長野Gを例に挙げれば、2025-26シーズンの選手数は20人。そのうち県内出身の選手は6人で、そのほかは県外出身者だ。仕事を含めた生活の拠点を長野県へと移している。

「ガロンズで選手生活を終えても、仕事の関係などからすぐに地元に帰らない選手もいる。Vリーグのチームからは引退しても、バレーを続けたいという選手は多いと思う」

そう話す高井自身もそのひとりだった。引退してもすぐに長野県から地元へ戻る予定はなかった。自分の中で果たしたい仕事の責任もある。

そしてなによりもバレーが好きで「県内のバレーを盛り上げたい」という気持ちがあった。いろんなチームがあっていい。いろんなバレーのプレースタイルがあっていい。

「仕事にはセカンドキャリアという考え方がある。バレーでも同じようにセカンドキャリアがあっていい」

大事なのは、「バレーボールが好き」という共通項。ただプレーできるだけでなく、帰ってこられる、続けられる、始められる――。ターミガンは、そんな居場所を目指している。

長野GのOBが多いが、在籍していたチームと対立するのではなく、ともに県内のバレーボールを盛り上げたいという思いもあるという。

現に石坂ハスナヌと松下祐太は今季、長野Gスタッフとして活動することも決まった。OB以外の選手も含め、チームとして長野Gとの良好な関係を築きたい考えでいる。

「ずっとこのチームに関わり続けるかどうかはわからないけれど、長野県に残ってバレーをしたい選手が続けられる場所があれば、それは地域貢献にもつながると思う。そういった場所としてターミガンが続くのが理想」

高井はそう力を込める。

実際に中部日本総合長野予選での優勝後、「ターミガンに入りたい」という声が多方面からかけられているという。バレーボールへの情熱があれば、形を変えて続けていける。雷鳥の羽ばたきは、長野県に新たなバレーの風を吹かせている。



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