“粗削りの原石”が放つオンリーワンの輝き 左利きのMB岸川蓮樹が切り開く道は

中学3年生からバレーボールを始め、東亜大学を経てVC長野トライデンツに加入したミドルブロッカー(MB)岸川蓮樹。興味のなかった競技と出合い、わずか1週間でJOC(都道府県対抗中学大会)長崎県代表に合格した逸材は、左利きのMBという希少なポジションで独自の道を切り開く。「経験がないというのを言い訳にしたくない」。遅咲きの原石が、SVリーグの舞台で放ちたい輝きとは――。
文:大枝 史 /編集:大枝 令
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興味のなかった競技との出合い
自主性が育んだ独自の道
岸川のバレーボール人生は、中学3年生から始まった。
小学校時代は剣道や水泳、中学時代は2年時までサッカーに打ち込んでいた。もともと身長が高く、中学1年時に166cmあった身長は中学3年時には186cmまで伸びたという。

「もともとバレーボールという競技自体知らなくて、ルールも何もわからなかった」
体育の授業でやる程度で、それすらも興味がなかった。高い身長に目をつけた体育教師に執拗に誘われ、試しにやってみることにしたのはJOC選考会のわずか1週間前だった。

その選考会で合格し、そこから本格的にバレーボールの道を歩み始める。高校は長崎総科大附に進学。県内で1位のチームに行けるという話もあったが、自らその道を断った。
「1位を倒したい側だった。強いチームに行きたいと言えば行きたかったけど、それより他のチームで1位になりたかった」
その選択が、岸川の独自の道を形づくった。監督から強くは言われず、自分たちで自由にできる環境。「それが良かったのかもしれない」と振り返る。

1つ上の代では10年ぶりに県のベスト4に入る。「夜9時ぐらいまで体育館に残って自主練。その代の時は練習より自主練の方が断然多かった」。
いわゆる”バレーエリート”の道からは遠く離れた道を歩んできたが、その自由なスタイルこそが岸川とバレーを強く結びつけた。

PROFILE
岸川 蓮樹(きしかわ・はずき) 2002年9月9日生まれ、長崎県出身。中学3年生からバレーボールを始める。長崎総合科学大学附属高から東亜大を経て、24-25シーズンにVC長野トライデンツに内定、大卒1年目の25-26シーズンを迎える。高身長と左利きを武器とするミドルブロッカー(MB)。194cm、88kg、最高到達点350cm。
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基礎から学び直した大学時代
ポジション転換と成長の日々
大学時代はバレーボールの基礎から徹底的に学び直した。
元々スタートが遅かった岸川に必要な、基礎からきっちり学べる場所が東亜大学だった。

「毎日先生がちゃんと練習を見て、パスも基本も一から全部やる感じだった」
高校時代はMBとしてプレーしていたが、大学ではオポジット(OP)に転向。同じポジションのスター選手・宮浦健人(WD名古屋)や西田有志(大阪B)の動画を見ながら研究した。

同期には柳北悠李(広島TH)や髙梨海輝(広島TH)と、プロに進んだ選手もいる。「結構、仲が良かった」と話すメンバーと中国リーグでは1位を獲得したものの、西日本インカレや全日本インカレでは強豪校に阻まれた。
「練習はやったし、やらされた」。そう振り返る大学生活で、「成長できた」とうなずく。

左利きの武器とブロックへの執念
言い訳をしない成長への覚悟
昨シーズンは内定選手としてチームに合流。今季からMBとして本格始動する。
「ポジションも変わったし、また気持ちを入れ替えて貢献できるところで貢献したい」

武器は高身長から繰り出す左利きのスパイク。「OPが多いと思うけど、MBは少ないのでそこを持ち味にしていきたい」。そう話しながらも、岸川が最も意識しているのはブロックだ。
「このチームはめちゃくちゃ高いという選手がいないから、ブロックでも貢献できたらチームが楽になる」

真ん中のブロックは「苦手」と素直に認める。大学時代はOPをやっていたこともあり、他のMBに比べて経験が浅い。「動きも断然、他の選手の方が良い」と率直に語る。
「両方に行くのは難しい。最初に比べたら少しずつはできてきていると思うけど、まだまだこれから」

左右どちらに動くのか。当然、相手との駆け引きをするには絶対的な経験値が少ない。それでも「経験がないのを自分の中で言い訳にしたくない。ついていきながらも追いつけるように頑張っていきたい」と力を込める。
最初は興味がなかったが、執拗に誘われて始めたバレーボール。それでも今は「好き」だと言い切る。

「ブロックで相手を止めた時は楽しいし、スパイクも相手を騙すとか点を決めた時とか、練習の成果が出た時が楽しい。やって良かったと思う」
中学3年生から始めた遅咲きの選手。左利きのMBという希少性と、まだ磨かれていない高いポテンシャル。粗削りな原石が、SVリーグの舞台で輝きを解き放つ。
