“最高の西が丘”を目指して―― 松本山雅の裏方がホーム最終戦の準備に奔走

2025年のJ3リーグは11月29日に最終第38節を行い、レギュラーシーズンが終了する。J3残留が確定済みの松本山雅FCはアルウィンの使用停止に伴い、ホームゲームを東京都北区の味の素フィールド西が丘で開催。イレギュラー続きのシーズン。最後に待ち受ける困難なミッションに、どのような準備をしているのか――。クラブ社員を取材した。

取材:大枝 令

パートナーバナー掲出はどうなる
四苦八苦する営業担当の本音

最初にハードルとなるのが、スタジアムの席割とパートナー(スポンサー)の露出だ。

会場となる西が丘は収容7,258人のコンパクトなスタジアム。席をつぶしてバナーを置けば、その分だけ収容人数は減る。しかしバナーを設置しなければ、当該パートナー企業との契約に差異が生じてしまう。

ジレンマだ。営業部長でもある柄澤深・取締役が事情を説明する。

「基本スタンスからすると年間通してお約束していることなので、もれなく全てのパートナー企業さまの露出をしなければならないと考えているのが大前提」

「ただ、我々の経験の中では一番小さなスタジアム。物理的に無理なところは出てきてしまうかもしれないので、普段と違う場所への掲出もあり得る」

そもそも今季はスタジアム露出が中心のオフィシャルパートナーが183社と過去最多。チームベンチを覆うマクセルイズミのシートキャップなど物理的に掲出できない場合は、個別に説明して対応してきたという。

「座席を潰してまで看板を出さなきゃいけない――という立場ではなくて、やっぱりより多くの方たちに観戦していただきたい」

「営業は契約事だから出したいけれど、運営の立場もある。営業だけの理屈だけで進めず、どうするかは確認し合いながら進めていった」

運営部チケット担当・松本竜平さんとすり合わせながら配置を決める。

ただ、今度は搬入・搬出の難題がある。持ち込み予定のLED看板を設置するために、作業スペースは確保できるのか。搬入車両の大型トラックが入る場所はあるのか――。こうした問題点を一つずつ解決していく必要があった。

今回は、バックスタンド側にあるJリーグの看板も持ち込む必要性が生じる。

今季ホームゲームを行った長野UスタジアムではAC長野パルセイロ、JITリサイクルインクスタジアムではヴァンフォーレ甲府のものを借用。ただ、西が丘を日常的に使用するJクラブはないからだ。

搬入出や運搬などを手掛ける山添シート内装、アルプス運輸などパートナー各社の協力も得ながら、前日準備から当日の撤収までに想定されるオペレーションを整えた。

サポーター優先で席数は確保も
招待チケットの着席率が未知数

では、そこに何人が入るのか――は未知数だ。

この試合は公平性担保などの観点からシーズンパスや子ども夢チケット対象外とした。本来はシーズンパスを有効にすべきところだが、すでにホーム自由席の総数をシーズンパスの枚数が上回っているため、この選択はとりようがなく、苦渋の決断となった。チケットの売れ行きは好調だというが、変数となるのは「パートナー招待券」。パートナー企業が譲渡したりした場合、全てを追跡できない。

アルウィンでの開催であれば、過去のデータ蓄積があるため一定の予測は立つ。しかし今回は、初めてホームゲームを行う遠隔地の西が丘。どのように見積もるかは誰も数字を持っていない。

「パートナーの皆様と契約時に定め、お渡しした招待券すべてが利用された場合パンクするけれど、ある程度を見込んで今は進めている状況」

チケット担当の松本さんはそう明かす。1社ずつ確認しようにも、パートナー企業の手元を離れている招待券は追跡しきれない。過去、2013年のJ2第34節ガンバ大阪戦だけは1社ずつ全ての確認作業を行ったというが、今回はそれだけの人的リソースと時間的猶予もない。

ホーム自由席の数を絞って指定席を多く設定したのは、待機列を形成するスペースの確保が危ぶまれたのが大きな要因。これはただでさえ手狭なスペースに必要以上の待機列が生じ、近隣に迷惑をかけないためでもある。加えて冬場となるため厚着でかさばる可能性もあり、ホーム/アウェイの各自由席がどれだけの密度になるかは予測が立てづらいという。

初の「西が丘開催」に専門部隊
現地調査や協力取り付けに奔走

そうした準備のベースとなる現地情報を提供する「別働隊」がいる。業務サポート部・曽根原克朗部長と宣伝広報部のボアンポン賢さん。大学サッカーの運営などで西が丘を使った経験がある2人が主に現地調査を行い、細部の写真を撮影するなどして、目となり足となる。

「調整も必要だったので、(アルウィンが使用できないホームゲーム)4試合をやり切るために分業して、西が丘のホームゲームは私とボアンポンで中心になってやろうという話になった」

そもそも開催地が東京都。都サッカー協会や西が丘を使用するWEリーグ日テレ・東京ヴェルディベレーザ(以下東京NB)のほか、FC東京、東京ヴェルディ、FC町田ゼルビアと都内に本拠地を置く全てのサッカークラブの了承を得た。

とりわけこの時期はスタジアム使用のニーズが高い。

「『会場が空いているからJリーグなので開催させてください』という話ではない。東京は長野県よりも、スポーツ施設を借りたい人はたくさんいらっしゃる」

「その中で貸してもらう。しかも4月〜翌年3月期で(年単位の)施設予約をする中で、11月にポンと入れさせてもらうのはなかなかできないこと」

Jリーグ、都サッカー協会などとの折衝を行い、ソフトランディングの道筋を敷いた。とはいえ各所とも事情は承知済み。曽根原部長は「サッカー界のいいところというか、困っている時に手を差し伸べてくれた。行くところ行くところ、さまざまな方に非常に助けられた」と感謝を口にする。

曽根原部長は10月2日にアルウィンの鉄骨部材落下が発覚した今回の事象を受け、長野県松本建設事務所などとの折衝役も務めた立場だ。最も早く情報をキャッチしながらクラブ内で共有。当初からさまざまなパターンを想定して準備のオペレーションを整えてきた。

「普段とは違う観戦体験」を
全員で作り出すホームゲーム

今回の西が丘開催。ぎりぎりまでアルウィンが使用できることに望みを懸けつつ、最終的には2つの選択肢の中から絞って決定した。当初は北陸地方の陸上競技場も最終候補の一つだった。

しかし同日開催のJリーグが同じ県内で行われるため、警備や運営などのリソースを食い合う可能性が出て断念。残った西が丘は東京NBの運営リソースを一部拝借して実施する見込みだ。

東京NBは翌11月30日のWEリーグ・クラシエカップのAC長野パルセイロ・レディース戦との連動企画を実施。松本山雅FC-ギラヴァンツ北九州戦のチケットを持っている人は優待割引が適用されるという。

史上初めて東京都内での開催。コンパクトなスタジアムで、観客席とピッチの距離はアルウィンよりも近い。屋内アップゾーンがないため、間近で選手たちのウォーミングアップを見られるのも普段とは異なる。スタジアムグルメも普段とは違う。

全体を統括する運営・笹川佑介部長が話す。

「西が丘だから来ていただける方がいるかもしれないし、新たな発見があったりするかもしれない。そういうチャンスとポジティブに捉えるようにしている」

遠隔地開催のためボランティア団体チームバモスは「現地集合・現地解散」となるが、それでも30人以上が来場する見込みだ。

「多くの方がサポートしてくれていることを、改めて身をもって感じる機会にもなった。西が丘でもみんなで、北九州の皆さんも一緒に、最高のホームゲームを作り上げていければ」

松本山雅はすでに昇降格の可能性が消えているが、対する北九州はJ2昇格プレーオフの可能性が残る。現在は17勝5分15敗(勝ち点56)で、6位ツエーゲン金沢とは勝ち点も得失点差も同数。命運を懸けて乗り込んでくる相手に対し、意地を示して白星でフィニッシュできるか――が、最大の見どころとなる。


11/29(土)松本山雅FC vs ギラヴァンツ北九州 ホームゲーム情報
https://www.yamaga-fc.com/archives/516755
11/30(日)AC長野パルセイロ・レディース戦 Jリーグ・松本山雅FCとの連動企画実施のお知らせhttps://www.verdy.co.jp/beleza/news/14501

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