石﨑信弘監督就任でどう変わる 都丸善隆SDの“松本山雅版グレート・リセット”

松本山雅FCの新監督に、石﨑信弘氏が就任することが2025年12月8日、発表された。Jリーグ通算858試合指揮と歴代最多の場数を踏んでいるだけでなく、今季のJ3ヴァンラーレ八戸を含めて昇格経験は5回。「経験と実績」という観点からは申し分なく、選手の顔ぶれも大きく変わりそうだ。青写真を描いた都丸善隆スポーツダイレクター(SD)の、“山雅版グレート・リセット”を解説する。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
都丸SDが描いて実行する“変化”
石崎監督の招聘ににじむ方針転換
「変化が必要だと思う」
都丸善隆スポーツダイレクター(SD)の囲み取材で、印象的だった一言だ。チーム編成を大幅に入れ替えるのか――という主旨で問われた際の回答。ワンテンポ置いてから決然と語ったその口調に、覚悟がにじんだ。
その後、石﨑信弘監督の就任が発表された。67歳。サッカー界でその名を知らぬ者はいないほど、超有名な「昇格請負人」。表現するであろうサッカーも徹底したストロングスタイルで、その熱量は就任コメントからもうかがえる。
私は、ただの勝利では満足しません。
前へ出る。奪いに行く。走り倒す。倒れても立ち上がる。
アグレッシブで、貪欲で、執念むき出しの山雅をつくります。
観る者の心臓を掴み、魂を揺さぶるサッカーを、このピッチに叩きつけます。
(※クラブHPのコメントを一部抜粋)
巻き戻せば11月2日の第34節鹿児島ユナイテッドFC戦でJ2昇格が消滅した直後、小澤修一社長が現地で語った言葉が最初の「予兆」だった。
「『時計の針を戻す』という言い方はしたくないが、山雅らしいサッカーを体現できる仕組み作りはしていかなければいけない」
ここで意味する「らしさ」は、ピッチ内で示す「ハードワーク」「球際」「規律」「勝利への執念」――など。「それはもう標準装備」と霜田正浩・元監督が話していたように、当たり前であるがゆえにクローズアップされる頻度が少なく、いつしか組織の色から消えた要素だ。
すんなりと思い出せるのは、2012〜19年の記憶。当時の反町康治監督が率いたハードワーク集団は、大小の紆余曲折はありながらも急ピッチで右肩上がりの成長曲線を描いてきた。当時の“ドライブ感”が再現されるのではないか――と、いやが上にも期待は高まる。
そしてそれは、反町監督退任後の2020年以降(22年を除く)に「さらなる積み上げ」を志向してきたクラブの文脈からは一線を画する。結果的に「主体性」を追求した取り組みを、一旦脇において立て直す格好だ。
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スカッドを整えるのは困難の連続
理想に近付けるタクティクスとは
とはいえ、全てが順風満帆に進むわけではないだろう。編成に関しては28人前後を目指しているとみられ、このうち半数以上が新しい顔ぶれになりそう。しかし都丸SDの青写真や石﨑新監督の手法に合わなくても、契約が残っていれば在籍する。
では期限付き移籍――といっても、相手クラブも含めた3者の合意が必要。実際に今シーズン途中も出番の少ない選手数人に期限付き移籍を勧めたものの、首を縦に振る者はいなかったという。
つまり来季の全貌が明らかになったとしても、残った選手の全員が「合っている」わけではない公算が現時点では大きい。大ナタを振るいつつ理想のスカッドにどれだけ近付けられるか、都丸SDの腕の見せどころと言える。
「さまざまな制約があって全てを100%完璧にそろえられるとは思っていないが、与えられた資源を最大限に活用してそこに近付けたい」。都丸SDはそう話す。
もちろん、新指揮官のもとでガラリと姿勢が変わる選手も少なからずいるだろう。メンタリティだけでなく、スタイル的にも迷う要素が少ない。
実際にシーズン中、ある中堅選手が苦しげに吐露したことがある。「走れ、戦え、と言われるけれど、(フィジカル的に)走れないのではなくて、何をしたら良いのかわからないから身体が止まる」。こうした悩みは、新体制のもとで解決できる可能性も高い。
このほか石﨑監督就任の報を受け、すでに身体を動かし始めている選手も。実現の可否は未知数だが、新監督のもとでプレーした経験のある加入志願者もいるという。
同様に、去る選手の全員が「合わなかった」わけでもない。予算規模の問題で折り合いがつかなかったり、ステップアップを考えたり、引退後のセカンドキャリアを見据えたり。契約満了以外で移籍先を模索する理由はいくらでもある。
大きな「変化」加えて「変貌」へ
ハーフシーズンは貴重な助走期間
いずれにせよ、「グレート・リセット」さながらの大きな変化を加えて新シーズンに臨む。2026年2月7日から始まるハーフシーズン「明治安田J2・J3百年構想リーグ」は、文字どおりの「土台」を再構築する4カ月間となりそうだ。
実際、都丸SDはそうした運用を示唆する。
「次のレギュラーシーズンに向けて、しっかりとした戦力をチームに組み込める戦い方、準備期間みたいなことも主眼に置いて過ごした方が、レギュラーシーズンに繋がる」
「安直に若手の選手に経験を積ませるだけではなく、本当に昇格するためのピースをそろえて、その選手たちで準備をしていくシーズンだとイメージしている」
J2とJ3の40チームを東西南北の4地域に分けて争う百年構想リーグ。昇降格はない。幸いにしてJ2クラブとも多くのカードが組まれることが予想され、現在地を確認するにはもってこいの環境でもある。
そもそも、新指揮官の目指すスタイルを実現するためには一定の時間も必要。指揮したクラブを1年で昇格に導いた実績も過去3回あり、その再現に助走期間が設けられている――という考えも成り立つ。ハーフシーズンは変貌に向けた「鍛えるフェーズ」という割り切りも必要かもしれない。
私は覚悟しています。
このチームを、更に誇り高く、胸を張って語れる存在に押し上げる。
そのために全てを懸けます。
松本山雅FC、ここから本気でぶち上げます。
ともに走り、叫び、闘い、歓喜をつかみ取るシーズンにしましょう!
(※クラブHPのコメントを一部抜粋)
石﨑監督の就任コメントは、こんな言葉で締めくくられている。一節を借りれば、「本気でぶち上げる」ための準備が粛々と進んでいる――。そんな期待を持たせるに十分なだけのオフシーズン序盤と言えるだろう。















