サトタクNavigates バスケット・ラビリンス(13) 「DF&3P 確立した2025年」

バスケットボールは豪快で派手なプレーが目を引く一方、コート上の戦術面に目を向けると非常に繊細で難解でもある。信州ブレイブウォリアーズはどんなバスケットを目指していて、現在地はどこなのか――。2018年から3シーズン、勝久マイケルHCの元でプレーした佐藤託矢がナビゲートする。第13回は前半戦を終えたチームの成長と後半戦のみどころを紹介する。
構成:芋川 史貴、大枝 令
KINGDOM パートナー
年内ラストゲームも勝って12連勝
ディフェンス&3Pスタイルを確立
2025年12月27-28日に行われた熊本ヴォルターズ戦を終えて、レギュラーシーズン60試合のうち28試合を消化した。
前半戦はケガ人が増えたことで、信州がこれまで積み上げてきたオフェンスやディフェンスが100%発揮できない時間帯も多かった。さらに新加入選手も加わったことで、序盤は勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)のバスケに対するアジャストにも時間を要しており、負けが続く時もあった。

それでも11月23日の青森ワッツ戦GAME2からは連勝を続けており、クラブ記録の10連勝を超える12連勝を記録している。
勝久HCも熊本ヴォルターズ戦GAME2後の記者会見で「我々のバスケットがやっとできてきた」と評価している通り、僕もチームのクオリティが上がってきていると感じている。
ディフェンスもシーズン序盤と比べると、とても良くなってきている。数字で見ても、平均失点はリーグで2番目に低い71.3点。単純比較とはならないが、昨季の77.9点と比べても、勝久HCが表現したかったバスケができてきているのではないかと思う。

得点力のある選手も多い。一番目立つポイントはマイク・ダウム、土家大輝。ここがコンスタントに活躍するとチームとしてもかなり楽になる。他にもウェイン・マーシャルや、アキ・チェンバース、エリエット・ドンリーの活躍がチームの安定感を左右する。

戦術的にもボールを動かしたり、ペイントタッチをしてからパスをさばいたりと、チームバスケットにより磨きがかかっている印象だ。シーズンの序盤にもその傾向が見られていたが、練習や実戦を重ねたことで選択肢の幅が広がり、相手にとっても的を絞りにくい攻撃のスタイルになっている。

例えば12月10日に行われた福井ブローウィンズ戦。第1クォーター(Q)、残り4分54秒からのプレーを解説する。
石川裕大(宇都宮ブレックスからのレンタル移籍期間)がボールを運び、アンジェロ・チョルが高い位置でピックをかける。そこに東海林奨が切り込みパスを受けると、ペイントタッチから外で待つ石川にパスをさばく。

そこから石川がもう一度、チョルとのピックを作る。この時に、ピック・アンド・ロールからチョルという選択肢もあるが、ここでは逆サイドで上がってきたマーシャルへのパスを選択。アングルを変えることでより簡単にチョルへとボールが渡り、もっとも得点効率の高いゴール下での得点に成功した。
もっと注意深く見れば、チョルがシュートを打つ際には、ディフェンダーが2人寄っており、小玉大智が右サイドでフリーになっていることから、3ポイントシュートにも繋がるプレーとなっていた。

今季は3ポイントシュートがカギを握っていることは数字を見ても一目瞭然だ。昨季の平均試投数は27.4本で、成功率は33.3%。それに対して今季は平均試投数が33.7本で、成功率は36.1%。この数字はリーグ1位であり、それぞれの数値が昨季と比べて大幅に上昇している。

この高確率の背景には、今解説したようなプレーでズレを生み出し、自分たちのリズムで打てているシーンが多いことも関係している。
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数字に残らないプレーこそ重要
「ペイントタッチ」の効果とは
ペイントタッチの重要性についてもう少し説明させてほしい。
ペイントタッチとは、ゴール下の長方形で区切られているエリアに侵入することを指す。

そのエリアに侵入することで、ディフェンスを引き付けるきっかけになる。自らのシュートはもちろん、キックアウトから外角のシュートといった得点チャンスが生まれる。逆にペイントタッチをしないと、ディフェンスにとっても守りやすく、タフショットを打たされたり、リバウンドで数的優位を作れない。

名将で知られる三遠ネオフェニックスの大野篤史HCは、ペイントタッチをした人の評価をしっかりしているとのことだ。「スタッツには残らないけれど、ペイントタッチがあったから、このシュートが生まれた」。このような評価をしている。
最近は少しずつ、ブースターの皆さんも、スタッツには残らないルーズボール争いや泥くさいプレーに対しても拍手を送るようになってきた。そこに加えて、ペイントタッチにも注目して試合展開を追ってみてほしい。きっとバスケの面白さがさらに見えてくるはずだ。

年が明けると、いよいよ後半戦へと突入していく。
後半戦でも引き続き、ケガ人の有無が懸念点。ただようやくチームの歯車が回りだし、それぞれの役割が明確になってきた部分がある。ここからは、一つひとつのプレーの完成度を高めていってほしい。

ここまでシーズンを戦い、改めて今季のメンバーは、勝久HCが求めるバスケを体現できるメンバーだと思う。重きを置くディフェンスでも、オールコートディフェンスでアグレッシブにボールを取りに行く姿勢も見られる。
年明けには東地区首位の福島ファイヤーボンズや西地区首位の神戸ストークスとの試合も組まれている。そういった強豪チームとも勝ち切れる実力は期待していいと僕は思う。優勝を狙うことができる雰囲気も、ようやく出ていると感じる。

観戦者の目線からでも、前から当たる激しいディフェンスや、ゾーンディフェンスなどの多彩さは面白いのではないだろうか。選手たちのコート上でのキャラも立っている。チョルの成長や、チェンバース、ドンリーの活躍。小玉、横山悠人の意識の高さ。
僕も純粋にいちブースターとして、「信州を応援したい」と思えるチームだし、今季はその期待に応えてくれるようなチームだと思う。後半戦はプレーオフに繋がる重要な期間。ブースターの皆さんもさらに一丸となって、信州ブレイブウォリアーズを応援していただければと思う。

PROFILE
佐藤 託矢(さとう・たくや) 1983年8月25日生まれ、大阪府出身。東住吉工高(現・東住吉総合高)時代はウインターカップ、インターハイともに4強を経験し、青山学院大ではインカレ準優勝。卒業後は当時JBLの三菱電機からスタートし、千葉ジェッツ、京都ハンナリーズなどを経て2018〜21年に信州でプレーした。引退後はクラブの「信州ふるさと大使」となり、今季からはアカデミースーパーバイザーも兼任。「ど素人バスケ」と出張型パーソナルトレーナーを自主事業とするほか、養護学校などでのボランティア活動も実施している。好きなおつまみは梅水晶。
クラブ公式サイト
https://www.b-warriors.net/
















