初日から妥協なく、挨拶がわりの“愛のムチ” 獅子を導く小林伸二監督の流儀

サッカーJ3のAC長野パルセイロを率いる指揮官としてシーズン途中に就任した小林伸二新監督。2026年3月31日の合流初日から一切の妥協を見せず、ピッチ内外で誰よりもバイタリティを発揮している。自信を失ったように見える獅子たちを巻き込み、どんな集団へと再起を図るのか――。近くで目を光らせる“右腕”の存在を含め、4月4日のアウェイ藤枝MYFC戦に向けて再始動したチームの現状を報告する。

文:田中 紘夢

初日から計6kmのペース走
中堅の忽那喬司が浴びた“洗礼”

「ホンマにきついけど、その分だけ自分たちにも返ってくると思う。全然ネガティブにはならないし、むしろポジティブにやっている」

小林伸二監督が就任して2日目のトレーニング。MF忽那喬司は疲労を隠せなかったが、表情には充実感がにじみ出ていた。

初日はミーティングを終えると、大半の選手たちはランニングシューズを履いてグラウンドへ向かった。計6kmのペース走が組み込まれたためだ。

ペースが異なる3グループを作り、それぞれのグループに同程度の走力を持つ選手を配置。28歳の忽那の名前があったのは、大卒らが若手選手が集められたグループだった。運動量が求められる左サイドバックを主戦場としているだけに「若いやつらと走らされるんやろうな…」と覚悟はできていた。

前半の4本は元気な若手に食らいついた。しかし、後半の2本は失速。覚悟はできていても、若手との走力差を痛感させられることになった。

ボールを使わない素走りがトレーニングに取り入れられたのは、長野を2019年から3年間率いた横山雄次監督の時以来だろうか。忽那は初対面の小林監督から「アップダウンをやらないといけないよ」と指摘されたという。

ペース走が毎週の恒例となるかは分からないが、分からないだけに身構えざるを得ない。選手間でも「オフの過ごし方が変わってくる」という会話はあったそうだ。指揮官も、そうした心理的効果を狙って初日の練習に取り入れたのかもしれない。

「どう準備するかで変わっていくと思う。サッカーを中心に捉えるから、日常の生活もちょっと変わってくる。そういうことを教えられるようになればいい」

2日目はフルコートの4分の1サイズで5対5の実戦練習。同じ5対5のフットサルが9分の1サイズであることを踏まえれば、選手に求められる運動量の多さは容易に想像できる。65歳の名伯楽は、挨拶がわりに愛のムチを入れている。

ピッチ内外で見せるバイタリティ
「自分から寄っていかないと…」

選手の顔と名前は、まだほとんど一致していない。戦術ボードを用いて説明する際には、忽那(くつな)を「つくな」と呼び間違え、周囲にツッコまれた。

「空元気でもいいから、やっぱり明るくやるべき」

そう話した指揮官だが、一番明るいのは本人かもしれない。

クラブハウスからグラウンドに向かう際は、選手と談笑しながら芝生に足を踏み入れる。練習中も細部に目を光らせ、フィードバックは決して後回しにしない。練習を途中で止めてでも伝えることは伝える姿勢が印象的だ。

練習後はFW陣のシュート練習に付き合う。自身もFW出身で、ギラヴァンツ北九州時代には後に日本代表となる町野修斗(ボルシアMG)を鍛え上げた。ストライカーの育成には定評があり、選手たちも前のめりだ。

「(最初は)向こうからは絶対に来ないし、自分が寄らないと来ないので。『監督に質問があります』というくらいになってくると、良い関係になる」

「自分からどんどん喋って『ああだこうだ』というふうにしていくと、今日も終わった後に『シュート練習がしたい』と言ってきた。ただボールを出すだけなんだけれど、そこで付き合うことが後々に響いて良いものになっていく」

小林監督の反対側のサイドには、必ずと言っていいほど長島裕明ヘッドコーチがいる。過去に4クラブで共闘してきた“右腕”の招聘は、指揮官が長野の監督に就任する上での条件でもあった。

「知っている人がいると自分だけでは足りないことを言ってくれるし、間に入って動いてくれる。自分が攻撃のことを言うと守備のことを言ってくれたり、守備のことを言うと攻撃のことを言ってくれたり。ずっと違う側面で見てくれているので、ものすごく楽」

藤本体制の“遺産”を残しつつ
より大局的な「繋がり」を求める

百戦錬磨のタッグのもと、未勝利が続くチームは結束を深めようと動き始めた。それは人間関係だけでなく、プレーもそう。あらゆる局面において「繋がり」がキーワードになりそうだ。

「攻撃の時にボールサイドと逆サイドが繋がる。守備のボールサイドでプレッシャーをかけている時に逆サイドの意識がある。そういう繋がりがあるチームにできれば」

藤本主税前監督も繋がりを重視してきた。狭い局面でのコンビネーションなどは藤本前監督のカラーを残しつつ、小林監督はより大きな局面での繋がりを求めている。密集と分散を使い分けたり、相手を手前に引きつけて奥に縦パスを当てたり――。約束事で縛るのではなく、105×68メートルのピッチ幅を生かせる関係性を構築しようとしている。

忽那は「(藤本)主税さんが置いていってくれたものもある」と話しつつ、新体制に期待を膨らませる。

「本当に勝手なイメージだけれど、もっと堅くやるのかなと思っていた。意外と柔軟性が求められるし、一個一個のプレーに対して喜怒哀楽を表現してくれる。やりやすいし、伸び伸びできる感覚はある」

一方、守備においては規律を重んじる。ハイプレス志向は前体制と変わらないが、アプローチの基準は一段階高い。忽那は清家芳樹コーチから「(藤本)主税さんの時よりもう一個速くしないといけない」とアドバイスを受けたという。

新体制での初陣は4月4日。アウェイでJ2の藤枝MYFCと戦う。昨季から数えて13連敗と苦しい状況だが、小林監督は格上に対して「かかっていけばいい」と強気だ。

例えそれが空元気だとしても、サポーターの目に「変わった」と映る姿勢を体現したい。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/

たくさんの方に
「いいね」されている記事です!
クリックでいいねを送れます

LINE友だち登録で
新着記事をいち早くチェック!

会員登録して
お気に入りチームをもっと見やすく

人気記事

RANKING

週間アクセス数

月間アクセス数