スタートダッシュ決めるために 静岡県で夏季キャンプに臨んだ松本山雅の狙い

J3松本山雅FCが、静岡県御殿場市を拠点に2026年7月10日まで12日間にわたって取り組んだトレーニングキャンプを終えた。21年夏にリーグ戦中断期間を利用して岩手県遠野市でミニキャンプを実施したことはあったが、Jリーグのシーズン移行に伴うオフシーズンの強化としては初めての取り組み。降雪や天然芝養生といった理由で県外に練習環境を求めるしかなかった冬季キャンプとは異なり、松本市や塩尻市の練習拠点でもトレーニング可能な夏に、信州より気温も湿度も高い静岡県でキャンプを張ったのはなぜか――。クラブの試行錯誤と、チームの受け止めから狙いと効果を検証する。

文:板倉 就五

充実した練習環境求め
費用かけてでも県外へ

「松本でトレーニングすることも検討した」

松本山雅FCの都丸善隆スポーツダイレクター(SD)は、シーズン移行に伴う開幕前の強化プランについて、その検討過程を明かす。

「(移動費などの)お金をかけずに松本で練習することもできた。新加入選手も多いので、みんなで松本市内のホテルに泊まって、ここ(信州グリーンフィールドかりがね)に練習に通うことも考えた」

今夏は、J2いわきFCが長野市飯綱高原をキャンプ地に選定。J1クラブを中心に冷涼な北海道にキャンプ地を求めたクラブも多かった。練習効率を高めるための気候条件を重視すれば、松本山雅が松本よりも暑い地域に移動する理由はない。

「ただ…」と都丸SD。「みんなで松本市内のホテルに泊まるとなっても、すぐ近くに自宅があれば家族がいる選手もいる。松本に残るデメリットも考えなければいけない」。選手たちがトレーニングに集中するために、県外に出ることを選択肢に加えた。

「新しい選手たちと既存の選手たちが同じ釜の飯を食べてコミュニケーションを深めることや、(栄養面を考慮した食事や温浴施設での回復が期待できる施設で)午前と午後の2部練習に取り組めることが大きかった」と都丸SD。天然芝と人工芝のグラウンドを複数保有し、スポーツ合宿の受け入れ実績も豊富な御殿場市の時之栖スポーツセンターでの夏季キャンプが決まった。

鬼門となる真夏の戦い
カギ握る「暑さへの順化」

御殿場キャンプの主目的は「コミュニケーションの深化」と「充実した練習環境」の二つ。そこに「(検討段階の)途中から考えるようになった別の目的がある」と都丸SDが打ち明ける。三つ目の目的は「暑さへの順化」だ。

新シーズンは8月に開幕する。日中の猛烈な暑さを避けるために当面はナイトゲームが中心だが、それでも選手たちは過酷な条件の中で試合に臨むことになる。

8月8日の開幕戦は高知市でのアウェイゲーム。9月にかけて北九州市や熊本市でのゲームもある。シーズン前に冷涼な地でトレーニングを積み重ねても、本番の暑さに対応できなければ事前強化の効果は薄れる。

松本山雅の8、9月の戦績に着目したい。

2カ月間での8試合で勝ち点16を積み上げた2022年のようなシーズンがあった一方で、2021年は8試合で勝ち点8、25年は6試合で勝ち点7。試合後の記者会見で「(ホームより)気温も湿度も低くくて選手たちの身体が動いた」と話した相手監督は何人もいたし、アウェイでの試合後に「松本では経験できない暑さに身体が重かった」と話した松本山雅の選手は1人や2人ではなかった。

真夏の戦いは、松本山雅にとって鬼門であり続けた。

この夏に北海道など冷涼な地域にキャンプ地を求めたクラブが増えた一方で、都道府県別で最多のクラブを受け入れたのは南国の宮崎県だった。宮崎県をキャンプ地に選んだ理由の一つに「暑さへの順化」があったことは想像に難くない。

今回の御殿場キャンプは天候に恵まれず、日差しが出て真夏の暑さを体感した日は数日だけだった。クラブは、21年の遠野市でのミニキャンプでは冷涼な気候に期待していたが、現地は連日の猛暑でゲリラ豪雨も相次いだ。

夏のキャンプ地選びの難しさは、クラブが新たに得た知見だろう。

「良い意味で意識しない」
白井達也が語る成功体験

天候面での誤算があったことを差し引いても、12日間の御殿場キャンプは実りが多かった。

キャンプ後半は4日連続となる2部練習を敢行。石﨑信弘監督は「ケガ人も少なく、予定していたトレーニングを消化できた」とうなずく。

現地で練習を見守った都丸SDも「キャンプ後半に向けて練習の質が上がっていった」と受け止め、「やって良かったと思っている」と強調した。

2025年シーズンは当時J3の八戸でプレーし、石﨑監督と共にJ2昇格を果たしたDF白井達也。御殿場キャンプ終盤に聞いた話が、真夏の開幕戦に向かう松本山雅にとって最適解を示していると感じた。

「夏の八戸(青森県)は湿度が高いけれど、やっぱり他の地域と比べて気温は低い。それまで今治(愛媛県)と相模原(神奈川県)でプレーしていたので、余計に涼しく感じた。だから八戸は夏のアウェイに弱いという話をよく聞いた」

白井の八戸での体験談は、松本山雅と類似性がある。

「だからと言って、選手がそのイメージを持ってしまうと(ネガティブな)結果に出てしまう。その環境でも絶対に勝てる。それは八戸で証明した。良い意味で意識しないことが大事になる」

暑いから身体が重い、走れない、勝てない。たとえ事実であったとしても、失った勝点を補填してくれる優しいルールは存在しない。

松本の環境が成績を残す上で不利ならば、2度のJ1昇格を果たした実績の説明がつかない。

暑くても寒くても、目の前の相手に全力で挑み、走り、戦い、打ち勝つのみ。

御殿場キャンプの実施が正解だったかどうかは、シーズン終了後の成績で証明するしかない。


松本山雅FCオフィシャルサイト
https://www.yamaga-fc.com/

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