夏のキャンプ地に飯綱高原を選んだJ2いわきFC “サッカーの聖地”へ大きな一歩

Jリーグのシーズン移行に伴い、新たに始まるシーズンは8月に開幕を迎える。開幕前のプレシーズンも冬から夏に移行。これまでは温暖な地域でトレーニングキャンプに臨んでいたクラブが、冷涼な気候を求めてキャンプ地を変更する動きが目立つ。夏場でも朝晩を中心に涼しく、湿度も低い長野県を訪れたのはJ2いわきFC。2026年7月1日から12日間にわたり、長野市の飯綱高原南グラウンドでトレーニングキャンプに臨んでいる。夏合宿の誘致を進める長野市にとっても大きな一歩。関係者の声とともに、その経緯や意義を掘り下げる。
文:田中 紘夢
KINGDOM パートナー
“いわき仕様”にカスタマイズ
サッカーに打ち込める環境提供
長野市はJクラブの夏合宿を誘致するにあたり、「スポーツを軸としたまちづくりの推進」という政策に沿って中⾧期的に関係性を築けるパートナーを模索してきた。
その中でビジョンが重なったのが、「スポーツを通じて社会価値を創造する」をミッションに掲げるいわきFCだ。冷涼な気候などクラブが求める条件とも合致し、長野県内では初めてとなるJクラブのキャンプが実現した。

標高1,000mを超える飯綱高原は、真夏でも最高気温の平均が30℃を下回る冷涼な気候が特徴だ。長野市街地から約25kmと近く、普段の練習は飯綱南グラウンドで、近隣クラブとの練習試合は長野市街地で――と、地理的特性を生かした“ハイブリッド型”のキャンプに臨むことができる。
ただ、今回のキャンプが実現するまでのハードルは決して低くなかった。
いわきは「ストレングストレーニング」と呼ばれる筋機能全般のトレーニングに特化している。練習を撮影するための環境整備などを含め、トレーニングを通じてパフォーマンスを高めるためには既存の施設をカスタマイズする必要があった。

ピッチ整備や撮影用のやぐらやテントの設置。管理棟の前にはクラブが持参したアイスバスを置き、練習を終えた選手たちが速やかにリカバリーできるようにした。
宿舎には即席のトレーニングルームを設けた。環境を整えたのは、クラブの要望を受けた長野市だ。“いわき仕様”にカスタマイズされた環境には、いわきの田村雄三監督も満足感を示す。

「このキャンプを実施するにあたって、いろんな方の協力があった。こちらの要望も叶えてもらって、良い環境を用意していただいた。気候も涼しいし、サッカーに打ち込める良い環境で集中してやれている」
KINGDOM パートナー
元AC長野の山中惇希が帰還
飯綱高原は「ぴったり」
「本当に懐かしいな…」
そう感慨を込めるのは、2021年にAC長野パルセイロに所属していたMF山中惇希だ。飯綱高原南グラウンドは当時の練習場の一つであり、懐かしさをかみ締めながら汗を流している。

所属時と比べてピッチコンディションも改善され、防球ネットや管理棟も建てられた。
「宿舎の近くにコンビニがあったら…」との本音は、裏返せば飯綱高原がトレーニングやコンディショニングに集中できる環境だと言える。「いわきにぴったり」と頬を緩める。

21年途中にザスパクサツ群馬(現ザスパ群馬)からAC長野に期限付き移籍したが、合流早々に左中手骨を骨折。リハビリに多くの時間を要し、半年間の所属で1試合のみの出場に終わった。当時20歳の山中にとっては試練の時間だったが、今となれば良い経験だったと受け止めている。
「あの時は初めての移籍ということもあって未熟で、苦しい時期を過ごしたけれど、あれから多くの試合経験を積んできた。長野に行ってよかったし、成長した姿でここに帰ってこられたと思う。もっと『長野にいたんだよ』と誇りに思ってもらえるような選手になりたい」

最終日の12日には、AC長野との練習試合が長野Uスタジアムで行われる。山中にとって長野市でのキャンプは、初心を思い返す特別な時間だ。
“サッカーの聖地”を目指して
Jリーグの理念推進にも寄与を
夏合宿の誘致を進める長野市にとっても、いわきのキャンプを実現できたことは大きな一歩だ。
Jクラブが県内でキャンプを張るのは初。飯綱高原にはJ1の強豪クラブも視察に訪れている。現在もグラウンドの新設を進めており、“ラグビーの聖地”と呼ばれる上田市菅平高原のように、長野市が“サッカーの聖地”となる日がくるかもしれない。

飯綱高原南グラウンドを管理する長野市開発公社の青木茂さんは「Jクラブが来てくれることによってまた課題が出てくるし、見つめ直すきっかけにもなる」と話す。
地盤が沼地であることに加え、今年は日照時間が少ないことで芝生の管理は困難を極めたという。キャンプ中も大雨で水たまりができた日があったが、「すぐに補修してくれるので助かっている」と田村監督。誘致して終わりではなく、中長期的なパートナーであり続けるために協力関係を築いている。

ハード面が充実すれば、地元の子どもたちがサッカーに打ち込める環境も向上する。Jリーグの理念にある「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」にもつながる取り組みだろう。

5日には飯綱高原南グラウンドで、いわきの選手によるサッカー教室が開催された。青木さんは「こうしてキャンプがきっかけとなってシナジーが生まれれば、Jリーグのあるべき姿を実現できると思う」と青写真を描く。

長野市に限らず、各地域で夏合宿の誘致に向けた動きが活発になっている。新たなキャンプ地の先駆けとして、長野市の取り組みは注目される事例になりそうだ。

















