宮田村から今度は“ニューヒロイン” 稲村雪乃が切り拓く未来
上伊那郡宮田村出身のMF稲村雪乃が、確かな成長を遂げている。高卒でAC長野パルセイロ・レディースに加わって4シーズン目。開幕から4試合連続で先発出場し、前節は強豪・INAC神戸レオネッサから豪快なミドルシュートを決めた。21歳。廣瀬龍監督のもとで欠かせないピースとなりつつある。
文:田中 紘夢
両足で自在にシュートを放つ
強豪INAC神戸に鮮烈な一撃
右、左、右、右――。
加入4シーズン目の稲村は、2シーズン目だけ利き足の表記が異なっていた。
誤表記ではない。「両利き」なのだ。
もともとは右利きだった。学生時代に左足の練習を継続していたところ、感覚が逆転したという。「今は左足のほうが蹴りやすい」。両足からパンチの効いたシュートを繰り出す。セットプレーでも左右で蹴り分けるなど、飛び道具はチームの武器となっている。
主戦場はサイドハーフ。両足の技術を生かしたドリブルも特長だ。今季は2シーズン連続の開幕スタメンを勝ち取ると、アルビレックス新潟レディースの堅守を単独突破で切り崩す。強気なシュートでゴールを脅かせば、正確なクロスで味方のフィニッシュもお膳立て。存在感を放った。
その後も4試合連続でスタメンが続くと、第4節・I神戸戦で今季初ゴールが生まれる。57分、左サイドからのスローインの流れでボールを受けると、DFをカットインで振り切って右足一閃。豪快なミドルシュートがゴール右隅に突き刺さった。
「ファーストタッチの段階で『打てる』と思ったので、思いっきり足を振り抜いた」。開幕から4試合で放ったシュートは7本と、チーム最多の数字。愚直にゴールを狙い続けた結果、WEリーグ初代王者に対して鮮烈な一撃が生まれた。
しかし、結果は2-3と惜敗。チームとしては内容に好感触を得ながら、1勝3敗と苦しいスタートを余儀なくされた。試合後、稲村の目には涙が浮かんでいた。
「もちろん勝つ気で試合に挑んでいるので、勝ちたかったという思いはある。攻撃で良い形が何度も作れていたので、そこでどう決め切るかにこだわっていかないといけない」
強豪相手に善戦した手応えよりも、悔しさのほうが強かった。
プロ入りから4シーズン目を迎えたが、開幕から定位置をつかんだのは初めて。指揮官からの信頼も厚い中で、主力としての自覚と責任感が言動に表れている。
ボランチ起用を経て新地平
技術に加えて「力強さ」を得る
ユーティリティー性も武器となっている。昨季の後半戦からサイドハーフとボランチを並行。試合中にポジションが変わることも珍しくない。
転機は異国の地で訪れた。昨季のウインターブレイクに行われたタイキャンプ。それまでサイドハーフを担っていた稲村は、急きょボランチにコンバートされる。中堅世代が定位置を固めていたポジションにおいて、新風を吹かせる狙いもあったようだ。
当初は驚きを口にしていた稲村だが、開志学園JSC高時代にもボランチを経験済みだ。憧れていたのは、バルセロナやヴィッセル神戸で活躍したアンドレス・イニエスタ。タイプこそ異なるものの、自分なりのゲームメーカーを形作ろうとしている。
だが、廣瀬監督はボランチに高い守備能力を求める。前線からのハイプレスに連動し、中盤で潰し役となり、その上でどれだけ攻撃に出ていけるか。ボールを奪われた後の戻りも含め、常に守備を念頭に置かなければならない。
「攻撃に関しては推進力を前面に発揮しているけど、守備では球際とかでまだ劣っている部分がある。体を張って取り切るところだったり、そこはやっていかないといけない」
指揮官も「ボランチとしての守備はまだまだ」と期待を込めて厳しく評価するが、稲村のボール奪取から攻撃が始まることも少なくない。157cmと小柄だが、簡単に競り負けることもない。ボランチでの起用によって、技術に加えて力強さが身についた印象だ。
PROFILE
稲村 雪乃(いなむら・ゆきの) 2003年2月19日生まれ、長野県上伊那郡宮田村出身。地元のサッカークラブ、トップストーン(U-12)とトップストーン・ロゼッタ(U-15)でプレーし、当時から北信越トレセンに選ばれていた。高校は新潟県の開志学園JAPANサッカーカレッジ高等部へ。卒業後の2021年、AC長野パルセイロ・レディーズに加入した。利き足は右だが、左でも遜色ないクオリティのキックを繰り出す。自認する武器は推進力。157cm、53kg。
目指すはゴールゲッター
“アスリートの宝庫” から飛躍
とはいえ、やはり稲村の魅力は攻撃。今季は開幕からサイドハーフとボランチを往来しているが、廣瀬監督が求めるのはサイドハーフとしての活躍だ。「点を取りに行ったり、左サイドを破ってクロスを上げたり、得点に絡む役割を期待している」
2列目の面々を見ると、右サイドハーフの髙橋雛はFWが本職。トップ下の伊藤めぐみは昨季、チーム最多となる7ゴールを挙げた。彼女たちと同様に、稲村にはゴールゲッターとしての期待がかかる。具体的な目標は明言していないが、「取れるだけ取る」という構えでいる。
諏訪市出身のキャプテン・伊藤とは、小学校時代から北信越トレセンで共闘した間柄だ。昨季はともにシュート練習を反復し、精度を高め合っていた。伊藤が7ゴールを決めた中で、稲村は2ゴール。
伊藤のほうがゴールに近いポジションではあるものの、本人からすれば「負けられない」。 その両足から放たれるシュートで、チームを高みに導けるか。
宮田村出身。人口9,000人弱の小さな村だが、アスリートを続々と輩出している。筆頭株はプロ野球・埼玉西武ライオンズの水上由伸。2022年にパリーグ新人王を獲得した右腕だ。さらに、松本山雅FCのFW田中想来は同じトップストーン出身の2学年下。そして稲村もまた、大きく飛躍を遂げようとしている。
クラブ公式サイト 選手紹介 稲村雪乃
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