“10年越しの宿題”が一気に解決 クラブが地元企業を繋いで急展開
スポーツクラブが地域に提供する価値とは何か――。試合で示す卓越したパフォーマンスが全ての根源となり、さまざまな価値が副次的に派生していく。その中で初回は、地元の企業同士をつなぐ媒介役となった事例を紹介。アルピコ交通株式会社のオリジナル商品「松本山雅なめらかチョコクッキー」の発売に至るまでの経緯から、クラブが果たした役割の可視化を試みる。
文:大枝 令
商品化を再三阻んだハードル
「県内での大量ロット生産」
それは10年越しのプロジェクトだった。
アルピコグループは2010年、松本山雅のJFL時代からスポンサーとして協賛を開始。2018年からは練習着に加えてユニフォームスポンサーとして現在に至る。
一定の条件を満たすオフィシャルスポンサーは、松本山雅を活用した商品開発が可能となる。そこで2013年、グループ全体でオリジナルグッズの開発プロジェクトが立ち上がった。
当時のクラブはJ2参入2年目で、右肩上がりの勢いが増してきた時期だった。札幌から岩沼俊介が加入して色めきたち、今や競輪界で名を馳せた北井佑季が金髪でピッチを奔走。船山貴之のスプリントや岩上祐三のロングスローがピッチを沸かせていた。
アルピコ交通株式会社サービスエリア事業部・和田敏昭部長が明かす。
「(サービスエリアで)土産品を販売している関係もあり、特にお菓子には力を入れようとしていた。それでも色々な問題があって、納得感のあるものができずに頓挫した経緯がある」
諸問題の中で最もネックとなったのはロットに関する折り合いだったという。アルピコ側が求める生産量などを満たせる業者が県内に見当たらない――という難題。長野県の土産として販売する以上、「製造者」表記はもちろん長野県内の業者でありたい。
「まず当然、製造は県内の業者を探していた。その中で山雅さんのオリジナルとして発売するには製造のロットが多すぎて合わなかったし、味についても折衝する中で合意に至るものはなかった」
いったんはペンディングとなり、数年後に機運が再燃した。「2回目のときは、県内の製造業者を全部洗い出したぐらいだった」と和田部長。しかし話を詰めていくと、結局は同じ問題がハードルとして立ち現れ、商品化はその際も見送られた。
クラブがスポンサー企業を紹介
味も生産量も納得して商品化
暗礁に乗り上げ、風化しても不思議ではなかったプロジェクト。しかし株式会社松本山雅の提案によって、事態は一気に動き出す。
今年4月、同じくスポンサーである「あづみ野菓子工房 彩香」をアルピコ交通側に紹介したのだ。前2回の頓挫した経緯を踏まえ、その障壁をクリアできるのではないか――と見立てての仲立ち。これがぴたりとハマった。
「山雅さんの方から、『彩香さんと組んだらどうですか』と話があり、3社が集まったところ、非常に話がスムーズに進んだ。今まであった課題がほとんどクリアされていくような形だった」
「こんなにうまく進むのか、今までは何だったのか…と思う部分もあった。お膝元の安曇野市に製造をマッチングできる企業があったことは本当に非常に大きな驚きで、感動した」
そして10月20日のマッチスポンサー「アルピコデー」に合わせての販売スタートに至った。「最初から地元の業者さんとやりたい我々の思いがあったし、山雅さんも含めて納得いく商品を作りたかった。本当に今回の3回目はベストマッチだった」と和田部長。三度目の正直が成就した。
一方、「あづみ野菓子工房 彩香」を経営する株式会社彩香の荻原隆之会長も話す。
「私どもは基本的に店頭売りの洋菓子なので、おそらくそもそも論として選択肢に入っていなかったのではないかと思う。ただ意外と製造量はあるので、お話を伺った時に『できますよ』と二つ返事をさせていただいた」
「お菓子を作るのは当然専門なので召し上がって、ご了解いただけて、実現した。繋げていただいたのは山雅さんだったので、本当に感謝している」
ちなみにクッキーは直径約6cmほどのドーム型。表面はサクサクとした軽い食感で、中には滑らかなチョコレート。荻原会長は「香ばしく、全く新しいクッキーに仕上がっている。ぜひ皆さまに愛される商品に育っていただければ」と自信をのぞかせた。
菓子のように「甘く」はない現実
低迷期のクラブを支援する理由は
そもそもビジネスの観点から見ても、発端は松本山雅だ。
一般的に、何かしらの価値が見い出されているからこそスポンサーがつく。クラブがまず存在して人と視線が集まり、価値が生じるのが基本構造。そうして20年来、多くの企業とスポンサーシップを育んできた。だからこそ最適なマッチングを提案でき、ボトルネックを解消するに至った。
しかしパワーソースとなるべきピッチ内は近年、苦戦が続く。現在はJ3で3年目となり、今シーズンも大詰めを迎えてなお中位に甘んじている。企業経営は菓子のように甘くはない。その中でたとえ熱心に支援したとしても、ピッチ内の結果を左右することはできない。
それでも――と、彩香の荻原会長は言う。
「もちろん1部や2部に上がればうれしいし当然ファンも増えるだろうけれど、やはり良い時も悪い時も、チームは松本にあるもの。何としても頑張ってもらいたいし、応援したい」
「応援することによって我々も勇気をもらえる。そういう相乗効果を期待してやってきたし、(クラブスローガンの)“One Soul”という考え方にも共感している。これからもずっとファンであるし、スポンサーであり続けると思う」
「松本山雅なめらかチョコクッキー」発売のお知らせ
https://www.yamaga-fc.com/archives/459184
アルピコホールディングス株式会社
https://www.alpico.co.jp/
あづみ野菓子工房 彩香
https://shop.saica.co.jp/