しなやかにクレバーに 迫田郭志が描く“下克上”のロードマップ
身長183cm。アウトサイドヒッター(OH)としては目立ったサイズではないが、巧みな技術でチームの屋台骨を支える。VC長野トライデンツの迫田郭志。広島TH戦ではフルセットの激闘を制し、今季2勝目をもたらした。昨季の勝利数に並び、ここから先は塗り替えていくフェーズ。樋口裕希とともに日鉄堺BZから加入した28歳は、若手主体のチームをどこまで導けるのか――。
取材:松元 麻希/編集:大枝 史
“嫌がられる選手”を目指して
緻密に、したたかにプレーする
「このサイズでは強いキャラクターにはなれない。でも、嫌な選手にはなれる」
これまでの指導者から言われ続けた言葉を、迫田は自らの指針としてきた。
SVリーグの10試合を終え、サーブレシーブ成功率はリーグ6位の46.1%。2位の備一真などリベロを除けば、池田幸太、陳建禎(ともにヴォレアス)に続く3番目の数字をマークしている。ビッグサーバーがひしめくSVリーグにおいて、レセプションの安定性はサイドアウトを取るためにも大きなカギを握る。
迫田の存在価値は、それだけにとどまらない。しなやかに跳び、“後出しジャンケン”を仕掛ける。スパイクをぶつけるのではなく、プッシュやブロック裏へのフェイントなど、状況に応じた手札を跳びながらチョイス。巧打に活路を見い出しながら生き抜いてきた。
「嫌がられる選手」になるには、その分だけクレバーさが必要。その源流は、常に手本となる存在を見つけ、自身のプレーに取り込んできた姿勢にある。
例えばミハウ・クビアク(ポーランド)。2016-23年にパナソニックパンサーズ(現大阪ブルテオン)に所属した世界的なOHの名を挙げ、「Vリーグ全体にいろいろなものを持ち込んできてくれた」とうなずく。このほかイアルバン・ヌガペト(フランス)らのプレーからも吸収すべき点は多いという。
「2人とも世界的に見れば身長が高い方じゃない。だからこそ、そのプレーは僕たちにもマネできることがある」
経験を武器に若手にアドバイス
「小さいなりの戦い方」を伝授
そうして培ってきたノウハウとマインドを、若いチームにも惜しみなく伝える。
「自分たちは身長が小さいチーム。ミスを減らし、緻密なプレーをたくさんしていかないといけない」。例えばデンマーク代表ウルリック・ボ・ダールの負傷で出場機会が巡ってきたOP飯田孝雅に対しても、コート内外でアドバイスを送る。
「全員がそういう技術を持っていれば、誰が出てもいいチームになる」
チーム全体への緻密なバレーの浸透を目指す。「ミスを恐れずチャレンジすること」と「ミスを減らすこと」のバランスを取りながら、潤滑油としての役割も果たす。樋口と並び、日本人選手の中ではチーム最年長。その存在が、コートに安定と叡智を吹き込む。
「今は自分というより、チームがうまく回ってくれればいい」
若い選手が多いVC長野の中で、自身が経験してきた戦い方を紡いでいく。
PROFILE
迫田 郭志(さこだ・ひろし)1996年5月1日生まれ、鹿児島県出身。鹿児島商高2年時に全日本高校選手権(春高バレー)準優勝。福山平成大ではキャプテンを務め、4年時の2018年に全日本バレーボール大学男女選手権で準優勝した。FC東京から堺ブレイザーズに移籍し、2021-22から3シーズン在籍。副キャプテンも務めた。攻守とも高水準なプレーを繰り出すアウトサイドヒッター(OH)。183cm、73kg。最高到達点330cm。
クールに見えてもハートは熱く
伊那谷から投じたい「一石」とは
「上位チームに勝つことがこんなにうれしいことなんだ――と実感している」
2024年11月9日、ANCアリーナ(安曇野市)。広島TH戦でフルセットの末にホーム初白星を挙げた試合後、迫田はクールな面持ちでそう振り返った。
常に冷静沈着――。ウルリックや樋口、工藤有史ら「吠える」選手たちとはコート上での喜ぶリアクションが異なり、感情を爆発させるシーンは少ない。ただ、本人は「外からはそういうふうに見られがちだけれど、意外と僕なりにけっこう表現してはいるつもり」と笑う。
その言葉どおり、秘めたる思いは強い。
「強いチームはずっと強いという印象がある。下位のチームでも上位チームに勝つことでリーグ全体を盛り上げたい」。風穴を開ける、一石を投じる。その思いが、堺からVC長野への移籍を決断させた一因でもあった。
広島TH戦で2勝目を挙げた次の東京GB戦は2連敗。「流れが悪いときでもチームを鼓舞できるような役割ができれば、もっとうまく回していけると思う」とコメントした。チームにはサイズも、経験もない。白星に至るまでに越えるべきハードルは多い。
ただ、その環境を知ってなお飛び込んだのも確か。東京GBの前身・FC東京時代から“下克上”のノウハウは183cmの身体に詰まっており、VC長野で新たなチャレンジに身を投じる。オフの日も静かに過ごしたいタイプだといい、伊那谷の自然豊かな環境も気に入っているという。
「昨年は2勝だったけど、今季は確実に2桁は行きたい。ファンの皆さんに勝利する姿を見せたい。そうして、ファンの周りの方々にもVC長野の良さが伝わっていけばうれしい」と力を込める。まずは自分たちが好パフォーマンスを示し、機運を高めるのが第一歩だ。
そのためにもまず、ヴォレアスとの次節で白星を持ち帰る。
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461