北の大地で沸いた燕脂の歓喜 “BREAK IT” 体現する珠玉の2連勝
“BREAK IT”――限界を打ち破る。VC長野トライデンツは、今季掲げたそのスローガンをコートで体現している。ヴォレアス北海道のホームに乗り込んだSVリーグ男子第7節、2戦とも紙一重の勝負を制して今季初の2連勝。昨季わずか2勝に終わったチームが、12試合を終えて早くも4勝に乗せた。全員の力を結集させた珠玉の白星を振り返る。
文:大枝 史/編集:大枝 令
崖っぷちからの大逆襲で2連勝
復活のエース・ウルリックが躍動
燕脂色の咆哮が、北の大地にこだました。
11月24日、第7節GAME2。セットカウント0-2から逆襲し、最終第5セットは15-8と逃げ切った。最後は復活を遂げたエース、ウルリック・ボ・ダールの強打がブロックアウトとなった。
工藤有史は吠え、何度も飛び跳ねる。
安部翔大は右の拳でコートを叩く。
そして歓喜の輪ができた。
「トータルで見ると完成度はまだまだだと思うが、5セット目は気持ちの部分で勝った。選手が本当に頑張ってくれた」と川村慎二監督。大仕事をやってのけた選手たちに賛辞を送った。
ヴォレアスとの過去の戦績は3勝3敗。2021-22シーズンは入れ替え戦で激闘を繰り広げた相手だ。
23日のGAME1はトレント・オデイと安部翔大のミドルブロッカー(MB)陣のクイックと、完全復活を遂げたオポジット(OP)ウルリックの力強いアタックが何度も決まる。
チームのアタック決定率は57.3%。高水準の数値を叩きだし、セットカウント3-1とした。古巣戦のアウトサイドヒッター(OH)池田幸太らに苦しめられながらも、幸先よく白星を挙げた。
「ウルリック選手の高さを殺さないように意識して上げた」「クイックはこだわって通している」。セッター(S)早坂心之介の強気のトスワークも光った。
しかきGAME2は、崖っぷちに立たされた。
序盤からヴォレアスの強いサーブと対策されたブロックに苦しめられて2セット連続で落とす。第3セットに入っても流れは変わらず、スタートから相手に連続ポイントを奪われる。
このままズルズルとビハインドが広がり、膝を折ってしまうのか――。実際、OH迫田郭志も「雰囲気は悪かった」と振り返る。
だが、ここから驚異的な粘り強さを発揮する。迫田のクロスに打ったアタック、トレントのクイックでサイドアウトを取ると、2-4からウルリックのサーブでブレイクを重ねて逆転に成功した。
そこから潮目が変わる。
良いプレーが出れば全員で喜び、ミスが出ても切り替えて前を向く。コートを支配するヴォレアスの鮮やかな赤が、少しずつトライデンツ・レッドに変わっていく。
攻めるサーブが決まり始め、ブロックディフェンスが効果的に機能。サイドアウトを取るだけでなく、今まで決め切れなかったブレイクチャンスをものにする。
相手のサービスエースを含む猛攻をしのいで、リードを譲らぬまま第3セットを取り返す。余勢を駆って第4セットも25-23としてフルセットに持ち込み、逆転勝利を収めた。
接戦の中でそれぞれ持ち味を発揮
歯車かみ合って「勝負強さ」示す
「泥くさく、全員で拾って繋いでいく」
指揮官がシーズン前に話していたように、チーム一丸となってつかんだ白星。トレントと安部のMBを軸としてブロックにしっかり付く。空いたコースに抜けてきたボールは――リベロ(L)備一真が構えている。
「ブロッカーがしっかりコースを限定してくれたので、来たボールを身体に当たられる回数は多かった。それで相手のオポジットにもプレッシャーを与えられたんじゃないかと思う」
GAME2でプレイヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に輝いた備も、ブロックディフェンスに手応えを感じていた。
サーブレシーブ成功率でリーグ2位の備(56.5%)と5位の迫田(47.6%)の2人は安定したレセプションを見せ、サーブで狙われた工藤有史も簡単にエースは許さない。多少乱れても、上げさえすればウルリックが高空から叩きつけてくれる。
前節でケガから復帰したエースのアタックが決まり始めると、チームはがぜん活力を取り戻す。クイックにバックアタック。1〜2セット目には防がれていた攻撃が次々と決まり、相手コートにボールが落ちる。
そして白眉は最終第5セット、7-7で迎えた場面だ。
工藤の強烈なサーブが相手を崩す。ウルリックと迫田がブロックを決め、備が拾う。迫田が軟打でかわす――。それぞれの持ち味を発揮し、一気に6連続ブレイク。勝負の行方を決定付け、2時間15分の激戦に終止符を打った。
一人一人の小さな輝きが重なり合い、大きなうねりとなって勝利に至った。思えば第5節の広島TH戦でもフルセットで白星。接戦をものにできずもどかしい思いをしてきた姿とは、明らかに一線を画していた。
最多勝利数を更新するペース
歴史を塗り替える道のりは続く
過去6シーズン在籍していた旧V1リーグでの最多勝利数は5。しかし今回はリニューアルされたSVリーグで、それを遥かに上回るペースで4勝目を挙げた。それでも“BREAK IT”を掲げるチームは、まだ何も満足はしていない。
GAME1では強気のトスワークで翻弄した早坂は「相手のブロックがはっきりと見えていなかったり、コンディションの部分でも(自分自身の)出来は本当によくなかった」と反省の弁。GAME2の迫田も「被ブロックの数、(相手の)サービスエースといった直接的なミスがたくさんあった」と矢印を自分に向ける。
こうした言葉からも浮き彫りになるように、チームの目線は高い水準にある。
「リーグを通して成長してチームの基盤をしっかり作りたい」。川村監督がそう力を込めていたように、全44試合の長いシーズンはまだ3分の1も消化していない。
選手が、チームが、今後どんな成長を遂げるのか。その先に新たな地平が切り拓けるのか。11月30日〜12月1日の次節はホームに首位・大阪Bを迎える。西田有志ら日本代表がひしめき、日本代表監督の就任が内定したロラン・ティリが率いる圧倒的な格上だ。
「『勝てないだろう』と思われていると思うので、勝つ姿を見せたい」と迫田。前身のパナソニックパンサーズを率いた川村監督も、パンサーズジュニア出身の工藤も、気迫は十分だろう。
今年のVC長野は一味違う。
南箕輪村から直線距離で960km、遠く離れた北の大地でそれを証明した。次なる舞台は、チケット完売のホームアリーナ。さらなる進化を示し、新たな歴史を刻む戦いだ。
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461