“キマジメブロッカー”安部翔大 バレーができる幸せを噛み締めて
「バレーをよく続けているな――と思う」。硬い表情を少しだけ崩して、安部翔大は笑う。幾度となく、バレー人生に関わる試練に直面した。2度の右アキレス腱断裂、所属チームの休部――。しかしその度に苦難を乗り越え、今季からはVC長野トライデンツで戦う。25歳のミドルブロッカー(MB)は新天地のコートで、その存在感をじわりと強めている。
取材:大枝 令/編集:大枝 史
「どっこいしょ」と構えるサーブ
職人のようにこだわって磨く武器
「どっこいしょ」
そんな声がどこからか聞こえてきそうなのは、あながち気のせいではないのかもしれない。
安部翔大のサーブルーティン。腰を落とし、両の手でボールを深く下げてモーションに入る。左手で高くトスを上げ――右手は添えるだけ。
「特に考えてはないけれど、ルーティンは同じような感覚になるので大事だと思っている」
元々はフローターだったが、大学4年生からジャンプサーブを打ち始めた。チームの強化ポイントでもあり、自身の武器でもあるサーブ。そこに対するこだわりは強い。
「相手を崩していくようなサーブを意識している。とりあえずパワーで打つというよりは、ある程度コースも狙っていけるように、7〜8割で打っていけたらベストだと思う」
事実、ここまでの試合で取れたセットのほとんどはサーブが走っているセットだ。
今季これまで10試合に出場。サーブ効果率こそ3.9と数字としては物足りなく見えるかもしれないが、その裏には数々の思考が織り交ざっている。
ウルリック・ダールなどストロングサーバーの前に打つ場面では、ミスをなるべく避けることで次が打ちやすいように繋げる。シチュエーションを考え、序盤は攻める。中盤から終盤にかけてはコースを狙い、緩急を使う。細かな工夫がなされている。
PROFILE
安部翔大(あべ・しょうだい)1999年11月3日生まれ、福岡県出身。東福岡高では1年時に春高制覇を果たしたものの、2年時にアキレス腱断裂で離脱。東海大では関東大学リーグ1部で活躍。大分三好ヴァイセアドラーを経て2024年からVC長野トライデンツに在籍している。クイックとサーブを武器とするミドルブロッカー(MB)。190cm、88kg。最高到達点335cm。
求められる役割はサーブだけではない。
MBとして、ブロックやクイックも重要だ。
川村慎二監督も「サイドアウトが取れる能力が高い選手」と期待を寄せる。実際、アタック決定率は63.8%と高水準の数値をマークしている。
「MBが攻撃する時はAパス、Bパスが返っている状態なので、クイックは確実に仕留めないといけないシチュエーションという認識でいる」
「ブロックもつき方、出し方や連係を考えて、締めるところと通すところをはっきり出していくのが自分の役割だと思う」
淡々と、訥々と言葉を紡ぐ。
その姿はまるでベテラン職人のようだ。
チームメイトからは「真面目」と評される安部。迫田郭志は「真面目さが強すぎて、振り切って面白いところまでいっている」と評する。
しかし本人は「頭が固いという捉え方もできるし、あんまりよくない真面目さ。もう少し柔軟な思考を持ちたい。トラッシュトークをしかけるぐらいでいかないと。さすがにそれはダメだけど」と真顔で応える。
「まだやれる」という思いを胸に
数々の岐路で選んだバレーの道
中学入学の当初は、美術部に入ろうとした。しかし身長が当時174cmほどあったためクラスメイトに執拗に誘われ、根負けして始めたのがバレーボールだった。
高校は東福岡に進学。家から近い九州産業大付属と迷っていたものの、最終的にはハイレベルな環境を選んだ。
「レベルの高い人たちと一緒にやれた方が自分のためになる。そういう人を教えている指導者のところで自分も教えてもらいたい」
東福岡は入れ違いの3学年上に永露元稀(大阪B)、2学年の世代には金子聖輝(広島TH)と古賀健太選手(ヴォレアス)が在籍し、安部が中学3年生の時に春高で優勝した。安部も1年時から試合に出場。春高バレー2連覇に貢献した。
しかし、高校2年生の春高前に右アキレス腱を切る大ケガを負った。
「最初は後ろから蹴られたと思って後ろを見たら、誰もいなかった」
そして復帰直前、再びアキレス腱断裂に見舞われる。以降は高校卒業まで、ほとんどプレーすることができなかった。
「バレーをよく続けているな――と、今になって思う」
それでも大学は「関東1部でプレーしたい」という思いを胸に東海大へ。卒業後は大分三好ヴァイセアドラーでプレーしていたものの、2024年5月に休部となった。大分県のバレーボールを牽引してきたオーナーの医師・三好博氏の急逝に伴い、存続が困難になったためだ。
「ちょっと現実味がなかった。いざ現実になってどうしようかと考えた時に、とりあえずバレーを続ける気はあった。チャンスがあるならSVリーグでやりたいし、それならVC長野しかないと思った」
今季からは、燕脂色のユニフォームに身を包む。
2度のアキレス腱断裂、チームの休部。
競技人生に関わる難局を味わっているからこそ、バレーボールができている幸せは人一倍噛み締めている。
「本当にバレーができなくなってしまう可能性もあった中で、こうしてご縁があって試合に出させていただいている。非常にありがたい話だし、それに応えないといけない立場。何かしら貢献していきたい」
「自分が言われた役割を全うして、チームが一勝でも多く勝っていけるように。そして怪我なく最後まで戦い抜けることが今シーズンの課題」
今季の加入後もケガで出遅れた。ただでさえ温暖な九州から寒冷地の長野へ来て、冬の寒さも本格化してきた時期。ケガが多かったからこそ、アップには人一倍気を遣う。
何度も何度も、バレーの道が閉ざされそうになった。
それでも諦めない気持ちが縁を結び、
安部をバレーの世界に繋ぎ止めてきた。
やめようかな…。
でも、もう少しやってみよう。
まだやれる。
「『やりたい』という気持ちがなくなるまではやりたい」
内なる対話を何度となく繰り返しながら、ここまで来た。それはおそらく、納得するまで延々と続く道のりなのだろう。
「どっこいしょ」
そんなフレーズを、見る者の脳裏にリフレインさせながら。
SVリーグ第10節 東京グレートベアーズ戦(12月28-29日)試合情報
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クラブ公式サイト
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