絶対王者・名古屋に肉薄したF1開幕戦 “募る悔しさ”こそ伸びしろの全て

泥くさく、群れになって戦った。3シーズンぶりにフットサル国内最高峰のF1リーグに帰ってきたボアルース長野。2025年6月1日にアウェイでの開幕戦を迎え、最多優勝を誇る名古屋オーシャンズに1-2と食らいついた。絶対王者に対してF2リーグでの2シーズンの積み上げを発揮したが、誰一人として浮かれてはいない。目標とする残留に向けて、地に足をつけて走り続ける。

文:田中 紘夢/編集:大枝 令

名古屋に挑んで終始奮闘した40分
終盤のパワープレーで1点差に迫る

いきなり“絶対王者”が立ちはだかった。

リーグ最多16度の優勝を誇る名古屋。昨季こそ王者の座を譲ったものの、その二つ名は健在だ。

対するボアルースは3シーズンぶりのF1復帰。過去のF1在籍時は4シーズンとも最下位に沈んでいる。名古屋との対戦成績が9戦全敗であることを踏まえても、紛れもなく“チャレンジャー”だった。

――とはいえ、過去の9試合のうち5試合は1点差。タダで引き下がったわけではない。そして10試合目の顔合わせも、最後まで食らい付いた。

立ち上がりから名古屋の定位置攻撃(組織的に整った守備に対する攻撃)に対し、粘り強い守備で応戦する。

「相手をリスペクトしすぎないことは意識していた。1対1は自分の持ち味なので、どこが相手でもブレてはいけなかった」。チーム最古参の松永翔は言う。

6分には松永が自陣でボールを奪い、得意のドリブルから右足一閃。30秒後にも松永のインターセプトから岡本生成がシュートを放つ。

いずれも日本代表GK田淵広史に阻まれたが、守備から攻撃への素早いトランジションで畳み掛けた。

前半の終盤にもトランジション攻撃から、昨季チーム得点王・上林快人の一振りがクロスバーを直撃。第1ピリオドは残り12秒で先制を許したが、攻守ともに奮闘が光った。

第2ピリオドに向かうにあたって、山蔦一弘監督は「もう少し勇気を持ってボール回しにチャレンジしよう」と共有。第1ピリオドは単調なロングボールが目立った中で、より強気にポゼッションする姿勢を求めた。

27分、相手陣地での定位置攻撃。石川昇永と稲葉柊斗の城西大出身コンビによるパス交換から、石川が上林とのワンツーで抜け出す。最後はGK田淵に阻まれたが、第2ピリオドはボールを保持しながらチャンスを作れていた。

名古屋のハイテンポなポゼッションに食らいつきながら、随所に決定機を創出。31分に追加点を許したものの、2点差は“想定内”でもあった。

「昨シーズン終わりの(全日本)選手権で湘南(ベルマーレ)と戦った時から、自分たちのパワープレー(GKを前線に上げて5人全員での攻撃)が通用する自信はあった」

キャプテンの三笠貴史はそう話す。2月に行われた全日本選手権1回戦・湘南戦では、終盤のパワープレーで同点に追いつき、延長戦まで持ち込んでいた。

2点差で終盤を迎えても、追いつける自信はあった。GK橋野司がフィールドプレーヤーの田中智基に代わり、5人全員での攻撃。37分に三笠が1点を返し、「自分たちの武器だと改めて思った」。

惜しくも同点まではいかずとも、最終スコアは1-2と僅差。シュート数も18対23と大きな差はなかった。

ただ、2失点はいずれもセットプレーから。流れの中では崩されなかっただけに悔やまれる。

「自分たちの作ってきたものが通用する手応えはあった中で、レベルの高いセットプレーを抑えていかないと勝てない」と就任3シーズン目の山蔦監督。

Fリーグを牽引してきた絶対王者は、わずかな隙も見逃してはくれなかった。

善戦した手応えはありながら
悔しさが募る開幕黒星スタート

「『名古屋に勝つために』というのは、昨シーズンが終わってからずっと思って準備してきた。勝てなかったことはすごく悔しい」

絶対王者を相手に善戦はしたが、三笠の表情に一切の緩みはなかった。キャプテンに限らず、選手たちの口からは「悔しい」という言葉が飛び交う。

ピッチ上で試合終了のときを迎えた5人のうち、ひときわ悔恨の念に駆られる者もいた。ボールを静かに地面に叩きつけ、その場にうずくまったのは、バサジィ大分から加わった背番号11の野口茅斗。F1で7シーズン目を迎えた26歳だ。

「誰からも相手が格上と見られていたけど、自分はそうは思っていなかった。大分でずっとF1でやってきた自信はあるし、勝てると思っていたからこそ悔しさが出てきた」

「負けたら毎試合本当に悔しいし、その共通認識というのはチームとして持っていたい」

守備では1対1でボールを刈り取り、攻撃となれば推進力をもって駆け上がるハードワーカー。パワープレーの際はゴール前でつぶれ役となり、三笠の得点をお膳立てした。

気持ちを前面に押し出し、ボアルースの泥くささを体現する新戦力。6シーズン在籍した地元クラブの大分を離れ、「このチームにどうやってプラスを落とし込むか。自分にプレッシャーをかけて開幕までやってきた」。まさに勝利への執念が実ったアシストだ。

新戦力が台頭すれば、最古参も意地を見せた。在籍7シーズン目の33歳・松永は、持ち前の馬力を駆使して攻守に奔走。そのボール奪取から多くの決定機が生まれた。

「自分は長く在籍させてもらっていて、F2に降格したときの悔しさも忘れてはいない。本当に苦しかったけど、こうやってまたF1に戻ってこられたので、何がなんでも残留しないといけない」

合言葉は“ABOVE THE LIMIT”
アクシデントも力に変えて

本来はアラ(サッカーのサイドハーフに相当する位置)に入ることの多い松永だが、この日は1列下がってフィクソ(同センターバック)での起用。米村尚也の不在を受け、急きょ攻守の舵取り役を担った。

日本代表のエース・清水和也と対峙し、同じフィクソの三笠とともに完封。かつて選抜活動をともにした戦友を前に、「戦うところはいつも通りに出せた」とうなずく。

米村は開幕週のトレーニングで負傷し、長期離脱となる見込み。2023-24シーズンにはキャプテンを務めた精神的支柱で、貴重な得点源でもあるだけに、チームとして大きな痛手だ。

とはいえ、松永の言葉を借りれば「起きてしまったことを嘆いても仕方がない」。

「ヨネ(米村)がいないのは痛いけど、帰ってくるまでに一つでも多くの勝点を積み上げたい」と決意を固める。昨季に米村からキャプテンを引き継いだ三笠も「より自分の責任が重くなるし、フィクソとして活躍できるチャンスも広がる。そこはポジティブに捉えたい」

絶対王者に挑む試金石の一戦で、F2での2シーズンの積み上げが間違いないことは証明できた。

それをブラッシュアップしつつ、「ABOVE THE LIMIT」というスローガンにもあるように、己の限界を超えられるか。米村の離脱は、チームの底力が試される局面でもある。

次節もF1優勝経験のあるシュライカー大阪とのアウェイゲーム。一筋縄ではいかないだろうが、誰が相手でも泥くさく、群れになって戦い抜くまでだ。


チーム公式サイト
https://boaluz-nagano.com/
Fリーグ チーム紹介ページ
https://www.fleague.jp/club/nagano/

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