“臙脂の若武者”工藤有史 充実感と危機感が交錯する日本代表合宿の日々

バレーボール男子日本代表登録メンバーに選出された、VC長野トライデンツのアウトサイドヒッター(OH)工藤有史。今シーズン主力としてチームの躍進を支えた若武者が、日本代表としてどのような経験を積み、糧とできるのか――。代表合宿地である味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)に赴き、本人に話を聞いた。

文:大枝 史/編集:大枝 令

ティリ監督に示された新たな扉
小中学生時代の先輩大塚とも再会

練習開始前のコートには、ボールが弾む音が響いていた。

2025年5月29日、味の素ナショナルトレーニングセンター。日本男子代表のロラン・ティリ監督が見守る中、数人がサーブレシーブの自主トレーニングに取り組む。

その中に工藤有史の姿もあった。

「パスだとティリさんは『足をそろえるな』とか、打たれる前の腕を組む構えだったり、普段なかなか聞くことがない話で、すごく参考になる」

「自分の形を否定されずに、いい方向に変えようとしてくれている」

軽いウォーミングアップの後、この日合宿に合流した大塚達宣(パワーバレー・ミラノ)との対人練習も行った。

「対人したのが中学ぶりだったので、10年ぶりで結構緊張した」

大塚は小中学校時代をパンサーズ・ジュニアでともに過ごした1学年上の先輩。高校進学以降は別々の道を歩んでいた2人が、日本代表の舞台で再び交わった。

練習後半。

より実戦に近い形での強度の高いトレーニングを終えた後には、充実感に満ちた笑顔をのぞかせる。

「どのポジションもトップの人たちなので、すごく楽しい。簡単に決まらないし、自分だけではなくて『決まった』と思ったスパイクが落ちなかったりと、レベルの高さを痛感している」

普段一緒にプレーすることのないスタッフや選手たちとの連係。自分になかった感覚を互いに伝え合い、選手同士で高め合える環境の価値を実感していた。

「休みを犠牲にする価値がある」
継続選出されるためのシーズンへ

「代表には縁がないと思っていたので『まさか』と。最初は喜びよりも驚きだった」

チームスタッフからの連絡を受けた時の率直な心境を、そう振り返る。

過去には中学時代の年代別代表、大学でのユニバーシアード合宿参加の経験こそあったものの、フル代表は全くの想定外だった。

実際に合宿へ参加してからは、その価値を明確に感じ取っている。

「今年だけではなく、継続して選ばれないと意味がないと思う。ここでやるのはすごく楽しい。休みはなくなるけど、それを犠牲にしてまで来る価値がある」

代表入りによって生まれた新たな責任感は、来シーズンへの強い危機感となって表れている。

「次のリーグ戦はより自分にマークがついたりサーブが来たりすると思うので、昨シーズン以上に数字を残さないと選ばれないと思う。いい危機感を感じながらできている。それはすごくありがたいこと」

代表合宿では同世代の選手が多く、「最初の方はほぼ同期と1個上だったので、知っている人たちばっかりだった」という環境も、良い方向に作用した。

緊張しながらも、それまでの人間関係が心の支えとなった。

浮き彫りになるスパイクの課題
「最低限」の基準が上がる日々

代表レベルでの練習は、自身の課題を鮮明に浮き彫りにした。

「オフェンス面で改めて課題を感じている。シーズン終盤に『選択肢の幅が増えた』と言っていたけれど、それがあまりできていない」

特にスパイクについて、より深刻な問題意識を抱いている。

「納得のいくスパイクが打てていない。普段やっていないセッターのトスと合わせるという面もあるけど、個人的にはスパイクは一番の課題だと思う」

レベルが上がることで、判断力の重要性も痛感している。

「セッターのクセが分からないのはあるけれど、トスを見ての判断がまだ遅いと感じている」

それでも、毎日のタフな練習環境に確かな成長の実感を得ている。

「最低限の基準がすごく上がっている。それもすごく楽しい」

VC長野に還元したい「緊張感」
濃厚な日々を糧に新たな領域へ

代表での貴重な経験を、どのようにVC長野に持ち帰るか――。

工藤は現実的な視点でその価値を捉えている。

「技術面で言えば正直、大きくは変わらない。こういう緊張感を伝えるのは難しいけれど、長野に帰って一緒にやって、より感じることが多くなると思う」

現時点で明確な変化を実感できているわけではない。しかし、真価が問われるのはVC長野に戻ってからだろう。

「向こうに帰ったときに、自分がどれぐらいできるのか。帰ったときが楽しみ」

臙脂色のユニフォームから日の丸を背負うユニフォームへ。新たなステージで得た経験、課題を糧として、工藤有史の挑戦は始まっている。

日本代表Bチームは7月5~6日に岩手・奥州市総合体育館Zアリーナでオーストラリア代表と親善試合を行う。

そこではVC長野で2シーズンをともに戦ったミドルブロッカーのトレント・オデイとの対戦が実現する可能性もある。

「まだ聞いていないのでわからないけれど、いたらうれしい」

代表活動の期間は残り1カ月。継続選出という次なる目標へ掲げた若武者が、新たなステージでどのような成長を見せるのか。

その答えが明らかになる日は、そう遠くない。

PROFILE
工藤 有史(くどう・ゆうじ)2001年9月24日生まれ、大阪府出身。パンサーズジュニアでプレーし、JOC都道府県対抗大会の大阪府選抜では、同期入団の中島健斗(天理大出身)とチームメイト。清風高(大阪)では春高バレーで準優勝と4強を経験し、明治大でも絶対的エースとして中心的な役割を果たした。VC長野には3年時から強化指定選手としてレギュラーシーズン通算44試合に出場。攻守ともに安定した力を発揮するアウトサイドヒッター。190cm、80kg。



工藤有史 2024-25 SVリーグ男子 個人成績
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/player/detail/4687
日本代表・髙橋藍と8年ぶりの“再会”へ 工藤有史が示す意地(2024.9.24公開)
https://shinshu-sports.jp/articles/8214
若く、荒々しく、土くさく 最終節の工藤有史と醸す“トライデンツ・ワイン”(2025.4.11公開)
https://shinshu-sports.jp/articles/20835

たくさんの方に
「いいね」されている記事です!
クリックでいいねを送れます

LINE友だち登録で
新着記事をいち早くチェック!

会員登録して
お気に入りチームをもっと見やすく

人気記事

RANKING

週間アクセス数

月間アクセス数