若く、荒々しく、土くさく 最終節の工藤有史と醸す“トライデンツ・ワイン”

「円熟」「熟成」といった表現とは、ほど遠い。若さと勢いを押し出して42試合を戦い、10勝32敗の9位。2025年4月12-13日の最終節の結果に関わらず順位は決まっており、目標の10勝は到達済みでもある。だからと言って、歩みを止めていい理由は一つもない。自身の成長のため、来季へつなげるため、そして満員のファンに感謝を伝えるため――。今季チームの核として喜怒哀楽を味わい続けてきた23歳・工藤有史に、今季ラストゲームへの思いを聞いた。
文:大枝 令
コートにほとばしる臙脂色の情熱
若き俊才が表現する喜怒哀楽
強烈なジャンプサーブからブレイクする。いきなりノータッチエースからスタートし、勝利の予感を漂わせたことも。レフトから鋭角に打ち付けたと思えば、クイックを囮に後衛からのパイプ攻撃も繰り出す。
そして得点が決まれば、派手なガッツポーズとともに吼える。

アウトサイドヒッター(OH)工藤有史はそうやって、コートの熱源であり続けた。
「うちは試合中でも感情を出さない人が多いと思うけど、個人的には感情を出している人の方が観ていて楽しいだろうと思う」
「結果的に観ている人に楽しんでもらえたらすごくうれしいし、そういうパフォーマンスで持ってこられる雰囲気というのもあると思う」

今季は故障や体調不良などの時期を除き、ほぼ全ての試合に出場。デンマーク人オポジットのウルリック・ダールとともに、若きチームの象徴的な存在となった。
2024年10月、開幕節のSTINGS愛知戦。GAME2でいきなり白星を挙げてインパクトを与えた。
「思ったより自分のスパイクが決まって、サーブもすごくいい感覚で打てた。『案外やれるんだ』と開幕節で感じられたのは、個人的に自信になった」

25年1月18日、WD名古屋戦のGAME1。フルセットで26-24までもつれた試合を制した。死闘の果てに不敵な笑みを浮かべ、自身のサーブターンから終わらせた。

とはいえ、調子の波はある。開幕節で得た感覚から離れ、試行錯誤の日々も続いた。
良い時は鬼神のごとき無双ぶり。崩し、打ち下ろし、決める。時にはふわりと落とす巧打も。
その半面、悪い時も一目瞭然。サーブはネットにかかり、ブロックに捕まり、冴えない表情で肩を落とす。その人間くささもまた、若き俊才の魅力なのかもしれない。

目標達成の先に なお勝利を渇望
ファンと紡いできた臙脂色の絆
そうやって、SVリーグ初年度のシーズンを駆け抜けてきた。
42試合を消化し、10勝32敗。4月12-13日のサントリー戦を残すのみとなった。10月の開幕から7カ月。「あっという間でしたね」――と投げかけると、苦笑交じりにこう答えた。
「やっている側としてはすごく長かったシーズン。体力面も精神面も、どちらもすごく、想像以上にシンドかった」

心身を削りながらたどり着いた、ラストゲーム。すでに順位は決まり、目標に掲げた10勝も達成した。チャンピオンシップには進めない。何をモチベーションに、残り2試合を戦うのか――。
「10勝を達成できて、そういう意味ではすごく充実したシーズンではあったけど、本当は15勝ぐらいできてもおかしくない感覚だった。だから、目標を達成したとはいえ、悔しい。最後に一勝でも多く勝つのも一つの目標」

ヴォレアス戦の2敗を筆頭に東京GB、東レ静岡、前節のSTINGS愛知戦GAME2――。確かな勝機がありながらも、手のひらから白星がこぼれ落ちた試合も少なくはなかった。
そして次節が、このチームでできる最後の試合でもある。
糸山大賀と中村啓人の引退が発表された。「引退する人もいるし、このメンバーでできるのも最後。このシーズンのメンバーで楽しんでできれば」と力を込め、こう付け加える。

「『来シーズンも長野を応援したい』という気持ちになってくれればすごくいいと思う」
この言葉から浮き彫りになるように、工藤はファンとの絆を大切にする。

「こういう勝ちの少ないチームを必死に応援してくれていることは当たり前じゃないし、毎回ありがたいなと素直に思う。そういう人たちが喜ぶ顔を見るのが僕たちの一番のやりがい」
「強いチームのファンからすると『勝っていないチームを応援して何が楽しいの?』と思う人もいるかもしれない。でも、そういう自分たちにしかない魅力がVCにはある」

そう語る言葉は、自然と熱を帯びる。
格上相手に互角の勝負に持ち込む。1ラリーごとに歓喜したり、肩を落としたり。「やっぱりダメか…」と思わせておいて、驚異的な粘りを見せたり。
10勝すべてが決して簡単ではなく、スリリングな激戦の末にたどり着いた珠玉の白星。だからこそ、忘れ得ぬ鮮烈な印象を残す。だからこそ、気が付けば“臙脂色の沼”に深く浸かっている。

若く、荒くもオンリーワンの滋味
最後に背番号「11」をセンターに
そのアリーナ空間が提供するものは、さしずめ赤ワインだろうか。熟成されたフルボディではなく、若く荒々しく、瑞々しさを感じさせる。土とスパイスの気配を漂わせ、若い酸味が刺さる。

相手が強ければ強いほど、その味わいは引き立つ。最終節で迎えるサントリーは、集大成を示す意味でもうってつけの相手だ。髙橋藍、ドミトリー・ムセルスキー、アレクサンデル・シリフカ――。国内外のスーパースターが居並ぶ。

「強い相手と対戦する時は、自分たちの魅力を見せるチャンスでもある。自分たちしか出せない色を出していけば自然に、もっとファンも増えると思う」
「もちろん今いるファンにはすごく感謝しているし、支えてもらっている。来シーズンも応援してもらえるようにするのと、VC長野を応援していて誇らしく思えるようなチームになれれば」
そう話す工藤。昨季までは内定選手として試合に出場しており、今季から正式に1年目のキャリアを踏み出した。

試行錯誤しながら、悲鳴をあげる身体にムチを打ちながら、コートに立ち続けてきた。ファンとの絆を強めてきた。
昨季を大きく上回る10勝。次の白星を挙げれば、背番号「11」の自身がセンターポジションで記念写真に納まる。
もちろん、苦難の日々を紡いできたのは工藤だけではない。全員で熟成してきたオンリーワンの“トライデンツ・ワイン”。その臙脂色が、最後にもう一度、爆ぜる。

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