“10minutes”で街なかに感動を 元信州BW・武井弘明が信じる3×3の可能性

信州ブレイブウォリアーズでも活躍した松本市出身の武井弘明が、新たに「LAW from shinshu」の名称で3人制バスケットボール3×3の全国リーグ・3XS(トライクロス)に参戦している。5人制バスケとは一味違い、街なかに融けてパフォーマンスを披露する3×3。「長野県の特徴を生かせるスポーツとして、すごく魅力的なものを感じている」と語る武井に話を聞いた。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
KINGDOM パートナー
新たな3×3のプロチームが誕生
「長野県全体を盛り上げたい」
目まぐるしく動く選手たち、次々と入る得点、激しいコンタクト――。
そのどれもが、ただでさえ激しいと言われる5人制バスケットのそれを遥かに上回る。
11m×15mのハーフコートで次々と飛び出すプレーは、まるでハイライトを見ているかのようで、一瞬たりとも目を離すことができない。
これが3×3の醍醐味の一つだ。

武井は信州を退団後に地元・松本市で3×3の普及活動をスタート。2025年6月7日には自身のSNSで「FROM SHINSHU合同会社」の設立と、3人制プロバスケットボールチーム「LAW from shinshu」の運営を行うことを発表した。
団体の理念は「10minutes〜街中で今までになかった感動を〜」とし、日本一、日本代表選手の輩出、街なかエンターテイメントの創出を目的とする。
「街なかで今までになかった感動を生み出すことが僕たちとしての一つの目的。『LAW from shinshu』に地名を入れなかったのは、長野県全体を盛り上げたいという意思がある」

この活動に至った背景には、友人からの衝撃的な一言が理由だったと語る。
「ウォリアーズにいた頃、友人に『松本に来たら観に行くよ』と言われたことが衝撃的だった。友達ですらそうなんだと思って…。自分が所属しているから舞い上がっているけれど、他の人からしたらそうでもないのかということがショックだった」
「永住するのは長野県内だろうと思っていた時に、土日にさまざまなイベントをやってくれているのがうれしい半面、スポーツがなかった。『それなら自分でやってしまおう』と思った」

自分が生まれ育った街、これからも住んでいく街。その環境を、自分が楽しめる場所になるように色をつけていく。
「自分が生活して楽しいところを作るには、3×3やアーバンスポーツ、他のスポーツを巻き込んで、土日にそのような環境を作っていく。その街のことを自分でも楽しめるように環境づくりをしたいという思いもあった」
KINGDOM パートナー
手軽に誰もが楽しめるバスケ観戦
“プロスポーツの空洞化問題”に寄与
そもそも「3×3」とは3人制バスケットボールのことを指す。以前よりストリートを中心に世界各地で自由なローカルルールの下で親しまれてきたスポーツだ。
日本には現在3つのリーグが存在し、2021年に行われた東京五輪で正式種目にも選ばれたことで、名前を聞いたことがあるという方も多いのではないだろうか。

いくつかルールがある中でも特徴的なのは勝負の決着方法。10分間の試合で相手よりも多く点数を重ねるか、21得点を先取するかのどちらか。
5人制バスケのような時間制に加え、テニスやバレーボールのような得点到達制の性質を併せ持つ。
それゆえに、例えロースコアの展開であったとしても、一つ一つの攻防に対して手に汗を握り、その逆で、得点が次々と入り10分間を待たずして決着するパターンも往々にしてある。

得点も5人制で言う2点が1点、3点が2点扱いとなり、一発逆転やジャイアントキリングも起こりやすく、選手たちの思いに加えて、エンターテイメントを考えられている競技性も3×3の魅力だ。
さらにコンパクトなコートで行われる競技であることから、商業施設内やイベント会場の一角など、限られたスペースでも行え、基本的に無料で観戦できる。
これが大きな要素だ――と武井は語る。

「スポーツ観戦に慣れていない方からすると、体育館へ行くこと自体がハードル。でも買い物に行くついでとか、観光で街に出かけるついでに『何かやっている』と目に留まりやすくなる。新しいスポーツファンを増やすコンテンツとしては、とても魅力があると思う」
「スポーツ観戦をしてそのまま街中でお酒を飲んで帰る――みたいな動きはやっぱり理想的。それがなかなか今の長野県ではどこもできない状態だけれど、うちはそれに近いことができる」
少しのスペースさえあれば、たちまちそこが興奮の熱源に早変わり。このように“プロスポーツの空洞化”にも一翼を担うことができるのが、3×3の強みだと言える。

子どもたちの夢の後押しへ
“10minutes” で作り出す世界とは
3×3の世界に足を踏み入れて今年で5年目の武井。
「LAW from shinshu」の代表兼選手として社長業にも汗を流しながら、7人の選手とともにさらなる普及活動に努めている。
普及活動の手応えはどのように感じているのだろうか。

「『まったく3×3を知らなかった長野県』というのが最初だと思うけど、イベントに呼んでいただけるだけで賑やかしになることを認めてもらっていて、手応えを感じている状況」と頷く。
今年の6月にはメンバーの宮岡凪が地域おこし協力隊で活動している高森町での「山吹天伯峡ほたる祭り」、7月には塩尻市の「玄蓄祭り」に参加。バスケットボールの体験や、エキシビションゲームなどを通じて観客を盛り上げた。

「バスケットに関連のない人たちとか、『どの分野でも良いので賑わいを創りたい』というところに呼んでいただく。これに関しては僕たちの指針に合った行動を取らせていただいていて、それに合った評価をもらっている。すごくありがたい」
徐々に長野県にも浸透してきた3×3。
今後の展望を武井は語る。

「今、高森町でも活動をさせていただいているけど、南信地方は特にプロ活動をしている方が少ないし、そもそもいない。そういったところでは、僕たちの影響力や必要性を『いなきゃマズいよね』というぐらい高森町は言ってくれている」
「そうしたエリアでなかなかできなかったプロスポーツの活動をやらせていただいて、しっかり子どもたちに夢を与えて、その一歩をどうやって進むか。バスケットに限らず今年の選手たちにはやってほしい」

もちろん中南信地方に限らず、見据えるのは長野県全体への普及だ。
「人口が密集している地域ならそこでイベントをやれば良いと思うけれど、長野県は散らばっているから(1つの競技が)全てをカバーするのは難しい。でも僕たちは小スペースさえあればイベントができる」
「箱がない場所や、なかなかプロスポーツが進出できないようなところにも顔を出していける。そういったところではすごく長野県の土地柄に対して(相性が)良いスポーツチームだと思っている」

新たに立ち上がった3×3のプロ集団。5人制バスケよりも試合時間は短く、コートも小さい。それでも生み出す満足度や興奮は引けを取らない。5人制とは別種のエンターテイメントがそこにはある。
勝負は一瞬。“10minutes”で最高の満足度を提供する。
「LAW from shinshu」が所属する3XS(トライクロス)のシーズンは5月から2月。Bリーグのオフシーズンでも楽しめる日程となっており、チームは最高峰のDivision1に所属する。

このほか女子で、佐久平に本拠地を置くSAKU REGION POWERが3XSに参戦中。母体のクラブとしては国際リーグの3×3.EXE Premierにも参加している。
早さと効率を求める現代社会にもマッチする3×3。長野県で今後どのように根を張り、花を咲かせていくのか――。地元プレーヤーでもある武井の新たな挑戦が幕を明けた。
