“原点回帰”のエンジン点火 残り2分でエンジンブローした前回の無念を糧に

「原点回帰」を合言葉に、再びエンジンを点火した。2026年3月5日。国宝・松本城を背景に、オートバイレースの「信州Re:N with TOTEC」が新体制発表会を行った。昨季のFIM世界耐久選手権鈴鹿8時間耐久ロードレースでは、レース終了2分前のマシントラブルでまさかの未完走。名状しがたい無念を乗り越え、新シーズンは「初心に戻って完走を目指す」と誓いを立てる。モータースポーツを通じて信州の魅力を発信し続ける、地元プライベーターの取り組みを紹介する。

取材:大枝 令

終盤16位キープからトラブル発生
残り2分の悲劇、胸に刻み再出発

2025年8月3日、鈴鹿サーキット。灼熱の8時間耐久レースは最終盤を迎えていた。信州Re:Nは16位をキープ。チェッカーフラッグは目前だった。

しかし終了まで残り2分を切った頃、突然のピットイン。マフラーからは白煙が立ちのぼっていた。

エンジンブロー――。

走行不可能の状態でチェッカーを迎える。周回数は規定を満たしていたが、レース終了時点で走行不可能だったため「未完走」扱いの43位となった。

「終盤ずっと16位をキープしていて、このままチェッカーを受けられる…という、本当にもう手の届くところまでいって、最後の1周でエンジンブローをしてしまった。とても悔しい思いをした」

吉井勝行代表は新体制発表会でそう振り返った。24年には総合24位で完走してシード権を獲得し、15位を目標に臨んだ25年。チームは着実に力をつけていただけに、その悔しさは計り知れない。

「今年はどうするのか――。やはりもう一度初心に戻ってまずは完走をすると。世界耐久は本当に過酷なレースだと思う」。シード権を逃した今季は書類選考での出場となったが、チームの実績と活動内容などが評価されて出場権を獲得した。

ライダー陣は東村伊佐三と中島陽向の2人が継続参戦するほか、新たに奥田教介が加わる3人体制で挑む。

59歳を迎えた東村は、今年で鈴鹿8耐34回目の出場となる最多出場記録保持者。「この年で現役を続けられるのは皆さんのおかげ。期待に応えられるように頑張りたい」と感謝を口にする。

24歳と若手の中島も「去年すごく悔しい思いをしたので、今年は間違いなく完走してより良い結果で終わりたい。このチームの最大の利点でもあるチームワークを生かして、全日本でもトップ10を目指したい」と語った。

そして奥田は実績十分なライダー。直前に参戦が決まったためこの日は不在だったが、メッセージを寄せた。

「これまで4年間、BMWで耐久レースに参加してきた。その経験をしっかり生かし、チームの力になれるよう全力で取り組んでいきたい」。昨季は海外が主戦場だったため、「日本のファンの皆様の前で走れることをとても楽しみにしている」という。

新体制発表会には、メインスポンサーのTOTECアメニティ株式会社(名古屋市) の木村浩基・営業管理本部部長も列席。「チームの目標である完走を目指し、スポンサーやファンの皆さまとともに応援していく。チェッカーフラッグを受けるその瞬間まで、チーム一丸となって走り抜けていただきたい」と激励した。

ITソリューションなどを主軸とする同社。その特性を生かし、マシンの走行データをはじめとする各種データの収集・分析を通じ、チームのパフォーマンス向上を技術面からも支援するという。企業としても応援席を100席用意するなど、物心両面で強力にサポートする。

安曇野、駒ヶ根、東御から世界へ
マシンに凝縮した“Made in 信州”

信州Re:Nの特徴は、「地域密着・地域貢献」を掲げる活動理念にある。その象徴が、マシンに搭載された“Made in 信州”パーツの数々だ。

BMW M1000RR 2024年モデルには、株式会社GSユアサ安曇野が製造するバッテリーが搭載されている。国内のバイク用バッテリーは100%同社産で、26年間にわたって生産されてきた信頼性の高い製品。和根﨑誠・代表取締役社長は「確かな信頼性が強み。鈴鹿8耐でもトラブルのない安定した性能で、今シーズンもチームを支えていく」とあいさつした。

駒ヶ根市の塚田理研工業が手がけるのは、ウイングレットへのめっき処理。静電気を除去することで空気抵抗を軽減する。「最高速300km/hのレース車両に採用されたのは世界初だと考えている。今年も高品質なめっき技術でチームに貢献していく」と下島聡・代表取締役社長。CFRP(カーボン)のめっき処理は世界でも珍しく、人工衛星や航空機などの業界からも打診があるという。

さらに、東御市のNISSIN製のブレーキキャリパーも採用した。BMWワークスチームと同じ製品で、吉井代表は「本来であれば提供してもらえる代物ではないけれど、『地元のチーム』ということで提供していただいた」と感謝を口にする。

世界に誇る「ものづくり信州」の叡智が、マシンに凝縮している。

「長野県には本当に素晴らしいものづくりの企業がたくさんある。ものづくりが盛んなこの長野県で頑張っている若い方たちも、将来的には自分たちの夢の一つになってほしいと思っている」

「僕らは日本の小さな地方の、小さなプライベーターチーム。でもやっぱり世界の舞台で、この信州から世界を目指していく。世界の皆さんの目を、この信州に向けてほしい」

吉井代表の言葉に、チームの原点がある。

ジュニアチーム創設、未来へ繋ぐ
松本の高校生ライダーを育成枠に

さらに今季は、新たなチャレンジにも打って出る。若手の育成を目的としたジュニアチームの創設だ。鈴鹿サンデーロードレースなどの地方選手権に参戦し、将来的にはMotoGPを目指すライダーを育成していく。

地域貢献活動にも引き続き力を注ぐ。昨季は児童養護施設への訪問、専門学校での特別授業などを実施。マシンとライダーが地域に出向き、子どもたちに夢を届けたり、交通安全を啓発したりと積極的に活動してきた。そうした積年の取り組みなどが評価され、昨季の鈴鹿8耐で「ルマン・鈴鹿ポジティブアワード」の初代受賞チームに選ばれた。

「長野県信州の皆さんが、信州にはこんなすごいモータースポーツのチームがあるんだ…とみんなに自慢できるような、この信州の魅力の一つになりたいと思っている」

吉井代表は松本城を背にしながら、言葉に力を込めた。

松本城、善光寺、上高地——。信州に観るべき光は多い。そうした魅力に、モータースポーツを取り巻く人々も加えるために。小さなプライベーターチームは今年も疾走を止めない。

2026年7月、鈴鹿の地で。
無念を晴らすチェッカーフラッグが、彼らを待っている。


チーム公式サイト
https://shinsyu-ren.com/
鈴鹿8時間耐久ロードレース大会公式サイト
https://www.suzukacircuit.jp/8tai/


みなさんの「いいね」が記事の励みになります!
クリックでいいねを送れます

LINE友だち登録で
新着記事をいち早くチェック!

会員登録して
お気に入りチームをもっと見やすく

人気記事

RANKING

週間アクセス数

月間アクセス数