低迷続くAC長野レディース トップが描く立て直しの道筋は

5年目のWEリーグを最下位で終えたAC長野パルセイロ・レディース。成績と連動するかのように入場者数も伸び悩み、1万人を目標に掲げて集客活動に力を入れた2025年12月20日のホームゲームには2,895人しか集まらなかった。国内トップの「なでしこリーグ1部」に参戦した16年にはリーグ最多の1試合平均3,647人の入場者数を誇った注目度は低下の一途。成績面でも運営面でも低迷が続くクラブをどう立て直すのか――。クラブトップの澁谷泰宏代表取締役社長に考えを聞いた。

文:田中 紘夢

強化阻む課題が山積
不十分な「環境」が招く悪循環

2026年5月10日のホーム最終戦。マイナビ仙台に0-1で敗れ、最終節を残して最下位フィニッシュが決まった。試合後のセレモニーでマイクの前に立った澁谷泰宏社長は、来場者が1,000人にも届かなかった寂しいスタンドに向かってメッセージを発した。

「フロントは現場が勝つための環境を用意することが大切。その環境を用意できなかったことは、私をはじめフロントの責任だと強く受け止めている」

澁谷社長が言う「環境」が十分でないことは、選手の契約形態からも見て取れる。

WEリーグは最低15人の選手とプロ契約を結ばなければならない規約があるが、AC長野のプロ契約選手数は最低基準と同等。他クラブが完全なプロ化、あるいはそれに近付いている中で、遅れを取っているのが現状だ。

アマチュア選手は午前中に仕事をこなし、午後から練習に臨む。日曜日にアウェイで試合があれば、試合後の深夜に帰宅し、翌朝には出勤するハードスケジュール。選手に休暇を取らせたくても、クラブには給料を補填できるだけの財政的余裕がない。

日常の練習「環境」も不十分だ。クラブハウスはトップチームの男子選手と共用。十分なスペースは確保されておらず、練習後の補食の用意もない。

全体練習の前後に筋力トレーニングに取り組む場合、提携先のジムまで自動車で向かう必要がある。仕事と競技を両立しているアマチュア契約選手が、コンディション維持やパフォーマンス向上に努めることは困難な環境だ。「ハード面もソフト面も何も改善されていない」と澁谷社長。「補強に動いても『あのクラブに行きたい』と思ってもらえる選手は多くない」と環境面がネックになっていることを認め、来季に向けて見直しに着手する考えだ。

WEリーグでは10代や20代前半の若い選手の台頭が進むが、AC長野はスカウト網やアカデミー組織の整備も進んでいない。女子選手は進学を機に都市部の有力校に流出する傾向もあり、地方都市に拠点を置くAC長野には有望な選手が集まりづらい側面もある。

「他県からも選手が来られるように寮を用意したり、学校と提携したり。本当の意味でサッカー文化を根付かせないといけない」と澁谷社長は危機感を強める。

不明確だったビジョン
刷新迫られる来季の方向性は

クラブは真剣にレディースチームを強くする覚悟があったのか――。これまでの強化部の体制を見ると、その本気度に疑問符が付く。

2024-25年シーズン途中までは村山哲也氏がスポーツダイレクター(SD)として男女の強化責任者を兼務したが、2チームの強化を同時に担う仕事は困難を極めた。後任には青木寿人氏をレディースチーム強化部長として専任で迎えたものの、25-26年シーズン途中にわずか1年で退任。26年1月に東海林秀明氏がレディースチーム強化部長に就任するまで、1年半の短期間で2度も強化責任者が入れ替わっている。

「クラブとして中長期的な計画やノウハウの引継ぎがあったわけではない」と澁谷社長。レディースチーム強化が場当たり的になっていたことを認める。

クラブがシーズン前に掲げた目標は、12チーム中5位以内、平均観客数2,000人以上。しかし、ふたを開けてみれば、順位は最下位、平均観客数は1,136人にとどまった。

置かれた現実を直視できず、目標の数字が絵空事だったと言わざるを得ない。成績低迷と平均観客数の伸び悩みは、クラブのビジョンが不透明だったことに起因する。

23-24年シーズンから3年間指揮した廣瀬龍監督が今季限りでチームを離れ、コーチ陣もそろって退任する。チームの中核を担ったFW川船暁海とMF菊池まりあは、今季2位の三菱重工浦和レッズレディースに移籍。来季は大幅な刷新を迫られる。

苦い経験を成長の糧に
国内最高峰で戦う誇りを持って

シーズンの全てが失敗だったわけではない。

昨年10月27日のクラシエカップで実施した「DREAM SCHOOL DAY」が、年度表彰式のWEリーグアウォーズで「Social Impact賞」を受賞した。クラブによる理念推進活動の社会的意義や効果の大きさが表彰された。

「DREAM SCHOOL DAY」は、長野市内の小中学生約4,000人をスタジアムに招待し、課外授業の一環としてスポーツ観戦や職業体験をする地域連携型の教育プログラム。試合に先立って選手たちが市内の小中学校19校を訪問し、講話やサッカーを通じた交流もした。

「ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的な幸福感)の高まりを実感できた」と澁谷社長。形を変えながら取り組みを継続し、チームと地域をつなぐ活動に力を入れる方針だ。

1万人プロジェクトのプロモーション活動として長野駅前でチラシ配りをした際、当初は大半の人たちに受け取ってもらえなかったという。そこで、チラシをポストカードに変更したところ、興味を示して手に取ってくれる人が増えた。

成績や観客数といった数字にばかり目が行きがちだが、それを追求するための活動や取り組みを工夫し、失敗を糧に新たなアイデアに挑戦することは、中長期的に見ればクラブの成長につながるはずだ。

WEリーグに所属する12クラブのうち、Jリーグに参戦する男子のトップチームと同じロゴの下で戦っているのはAC長野を含めて8クラブ。その多くは、浦和や東京ヴェルディなど経営規模の大きなクラブだ。

「限られたリソースの中で、どうしてもトップチームが優先されているけれど、もっとレディースチームに価値を見い出していかないといけない。今は弱くても、環境が整っていなくても、『長野からは良い選手が育つよね』と思ってもらえるようになりたい。この地域に女子サッカーの文化を作っていきたい」

澁谷社長はそう強調する。

「なでしこリーグ」時代から歴史を積み重ね、21年に創設されたWEリーグでは11クラブの初期メンバーでもある。なによりも、女子サッカーの国内最高峰リーグで戦うクラブは県内にAC長野しかない。

「街の宝となり、誇りになることで、人々はその街自体が誇りとなる」がクラブの活動理念。まずはクラブが先陣を切ってレディースチームに誇りを持ち、ファンやサポーターが宝だと思えるビジョンを示すべきだ。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/

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