“フェアウェル・ソング”は爽やかな苦みとともに 来季にバトン繋ぐ

44試合を駆け抜けてきた。2024年10月のSVリーグ開幕から、およそ6カ月を経てたどり着いた最終節。2025年4月12-13日、VC長野トライデンツはホームのANCアリーナでサントリーサンバーズ大阪と対戦。今季の集大成としたい対戦だったが、両日ともにストレート負けと苦杯をなめた。10勝34敗でシーズンは終了。セレモニーとともに、試合を振り返る。
文:大枝 史/編集:大枝 令
一所懸命のプレーで体現した感謝
それでも訪れた「別れの時間」
大切な時間を惜しんでいたかのようだった。
コートで組まれた最後の円陣。試合終了の笛が鳴り止んでも、ほどかれることはない。その間、およそ15秒。永遠よりも長く感じられるような、惜別のひとときだった。

「このメンバーでやるのは最後になる。楽しんでやれたら」
セッター(S)の中島健斗が口にしていたように、GAME2が終われば今シーズンの戦いは終幕。リベロ(L)備一真は試合を終え、「楽しむことを今日はコートの中で話しながらできた」と振り返る。

実際、選手たちの表情からは笑顔も多く見られた。
「ファンの皆さんがたくさん会場に足を運んでくれたので、恩返しをする意味で一生懸命やった」
備の言葉通り、全員が全力だった。そのことに疑いを挟む余地はないだろう。

例えばアウトサイドヒッター(OH)迫田郭志。コンディションに問題を抱えながらも、今季ラストの舞台に強行出場した。サービスエースをはじめ、力強いスパイクを何度も見せて躍動する。
GAME1で「考えすぎてしまっていた」と反省の弁を述べていた中島も、ラリー中に中央を通す攻めのトス回しで相手ブロックを翻弄した。

一つ一つのプレーが自分たちにとっての集大成であり、ファンやチームメイトへの感謝を体現していた。
強豪サントリーの圧倒的な実力
苦杯から浮き彫りになる課題は
きれいなドライブ回転がかかったサーブは、まるで狙いすましたかのように白帯に当たって勢いを失い、ポトリとVC長野のコートに落ちる。
GAME1。
サントリーのOH髙橋藍が放つ、緩急をつけたサーブに幾度となく苦しめられた。オポジット(OP)ドミトリー・ムセルスキーとOHデアルマス・アラインの強烈なサーブは、レシーバーを大きく弾く。

前回対戦では中央からの攻撃を有効に使えていたが、この試合では多くブロックにかかる。中島は「真ん中を通したかったが通らず、何もさせてくれなかった印象」と振り返る。

GAME1の開始前、サントリーはセットカウント3-0か3-1で勝利すればレギュラーシーズン2位以上が確定する状況だった。混戦模様の上位争いの中、2位以上になればチャンピオンシップ(CS)がセミファイナルからの出場。1試合少ない優位性を得る。

「ランキングを確定させるのにこの1日がすごく大事だった」と髙橋藍。GAME1はサントリーのチーム全体のサーブ効果率が15.4%、セット平均のブロック決定数は3.67と、それぞれ極めて高い数字を残す。
セットカウント0-3。圧倒的な強さをまざまざと見せつけられる敗戦となった。

逆に、VC長野はこれが無上の糧となる。たとえ今季のチームは最終節で終わりだとしても、未来につながる貴重な経験の場でもあった。
「最高のパフォーマンスをする上位チームにどこまで自分たちの力が試せるのか」。川村慎二監督はそう話す。シーズン最終盤にギアチェンジしてくる上位チームとの戦いが、簡単であるはずがなかった。

それでも、個々に爪痕は残した。OH工藤有史はサーブ効果率23.1%と強みを出し、途中から出場したS早坂心之介とOP飯田孝雅も好パフォーマンスを発揮する。
セットを追うごとに修正や対応といった組織の力を出すことはできていた。その半面、要所でスパイクが決め切れない、レシーブが上がらない――といった課題も、改めて浮き彫りになった。

「1年でも早くCSへ」と指揮官
道筋がほのかに見えたシーズン
20人で戦い抜いた44試合。GAME1終了後には今季限りの引退を表明したOP中村啓人とS糸山大賀の引退セレモニーの場が設けられ、GAME2終了後には最終戦セレモニーが行われた。

「このチームになれてよかった」
「みなさんからの声援が活力になっていた」
「これまで一緒戦ってくれたチームメイト、支えてくれたファンの皆さま、家族、友人に心から感謝したい」

それぞれに感謝を込めた言葉を紡ぐ。花束贈呈は、縁の深い2人がプレゼンターを務めた。
中村には、サントリーのL藤中颯志。同じ専修大でVC長野に同期入団した、かつての仲間だった。糸山にはMB山田航旗。福岡大-VC長野という所属歴だけでなく、勤務先も同じ伸和コントロールズ株式会社という間柄だった。

コートの中央でチームメイトに胴上げされ、宙を舞う。
人が去り、チームはまた変わりゆく。ただし、チームやクラブに経験は残る。ノウハウも記憶も残る。全てがゼロにリセットされるわけではない。

今季は10勝を挙げた。ただ、川村慎二監督も選手たちもその数字に満足はせず、異口同音に「課題を多く残した」という。
「どのチームに対しても勝つ術はあった」
「それが見えたのはすごくいい手応え」
指揮官が話すように、得られた成果も決して少なくない。

「1年でも早く、『来週からCS頑張ります』と言えるようにしたい」
川村監督が口にする思いは、確実に選手も抱いている。VC長野が目指す頂は、遥か雲上かもしれない。ただし、決して届かなくはない。おぼろげながらも、その道筋が見え始めたシーズンでもあった。

セレモニー終了後。横田光幸MCの先導で、会場には「VC長野」コールがとどろいた。臙脂色をまとって、挑戦を支え続けたファンとともに――。
それは今季の感謝を示すフェアウェル・ソング。それと同時に、来季へのリスタートを告げるウォー・クライでもあった。
GAME1 監督・選手コメント(クラブ公式サイト)
https://vcnagano.jp/match/2024-2025-sv-div3-1
GAME2 監督・選手コメント(クラブ公式サイト)
https://vcnagano.jp/match/2024-2025-sv-div3-2
SVリーグ男子 順位表
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/round/ranking