満身創痍でのフルスロットルもわずかに及ばず “苦難の旅”は涙の終幕

「B1復帰、B2優勝」を目指して歩んできた信州ブレイブウォリアーズの旅は、黒き要塞・千葉ポートアリーナで幕を閉じた。2025年5月11日、B2リーグプレーオフ(PO)セミファイナル(SF)GAME2。満身創痍の中、背水の陣で挑んだ大一番。最終盤まで粘り強く戦ったものの、最後は66-75と力尽きた。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
背水の陣で挑んだGAME2
狩野富成がペイント内で躍動
死力を尽くした。
圧倒されたGAME1とは一転、第3クォーター(Q)終了時点で53-56。ぺリン・ビュフォードやウェイン・マーシャルを中心に得点を重ね、アキ・チェンバースや栗原ルイスも3ポイントシュートを要所で沈める。

ディフェンスはチーム全体の修正も見せつつ、GAME1から劇的な変化を遂げた選手がいた。
チーム最年少の24歳・狩野富成だ。
GAME1では試合後の取材で悔しさを滲ませていた狩野が、一夜明けて奮起。力強くリバウンドをつかんだり、つかめなくても味方へ弾いてセカンドチャンスを生み出した。

疲労が溜まる中でもチームを支える若手の活躍。ビュフォードやマーシャルからもグータッチや頭をポンと叩かれ、奮闘を讃えられるシーンもあった。
33分18秒の出場。7得点、12リバウンド。そのうちオフェンスリバウンドが9本と両チーム最多を記録した。

それでも、最後は届かなかった。
試合後、狩野はロッカールームで涙を流していたという。
勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)が、その労をねぎらう。
「バスケットの経験的な部分ではまだまだだけれど、シーズンを通してものすごく成長した」

「そして今日の33分はめちゃくちゃ誇らしい。ファイトしていたし、昨日より成長しようとしていたし、リングを守っていたし、リバウンドを頑張っていた。今日の彼、今シーズンの彼は本当に誇らしい」
それは勝久HCの信州が連綿と大切にし続けてきた「日々成長」以外の、何物でもなかった。
最後まで影響したコンディション
石川も「今後の課題」と言及
接戦に持ち込みはした。
均衡をギリギリ保っていたものの、第4Qの入りではA千葉に0-6のランを作られて一気に9点差まで広がった。

そこで使ったタイムアウト後は、石川の得点で繋ぐ。しかしA千葉の熊谷尚也に連続で3ポイントシュートを沈められ、スコアが縮まらない。
それでもタフに戦う。後がない。第4Q残り3分13秒には8点差まで迫ったが、万全とはほど遠いビュフォードや負傷した三ツ井利也がコートに立てない影響が徐々に現れてくる。

足が動かない信州。それに対してA千葉は万全のローテーションが展開され、ディフェンスの強度が最後まで落ちることはなかった。
66-75。
最後は相手のポゼッションで動きを止めた。抱き合って歓喜の涙を流すA千葉とは対照的に、信州の5人はがっくりと膝に手をつく。

渡邉飛勇、テレンス・ウッドベリー、エリエット・ドンリーの3人を負傷などで欠いた。その中でも最後の力を振り絞ったが、壁は高く、そしてどこまでも厚かった。
石川がシーズンを振り返る。
「まず自分たちが目標にしていたB1へ1年で復帰するというところができなかったのは、やっぱり悔しい。ただシーズンを通してチームとして、今日もすごくみんな、人がいない中でファイトしていたと思う」

「アルティーリ(千葉)さんは全員が健康で最後まで戦えていた。 僕らはそうじゃなかったというところも含めて、ずっとそこはチームとして課題にされているところ」
好きでケガをする選手などいない。好きで脳震盪を起こす選手もいない。この日のコートに立てなかった選手たちの無念は計り知れない。ただそれでも、万全であれば――という悔いは残る。

3位決定戦に向けて再起を誓う
このメンバーで戦うラストバトル
目標達成はできなかった。
ただ、全てが終わったわけではない。ライジングゼファー福岡との3位決定戦が残されている。
確かに目標とは関係ない順位決定戦。それでも応援を続けてくれるブースターや多くの関係者のためにも、再び立ち上がる必要がある。

栗原が気丈に前を向く。
「正直僕もすごく難しい心境というか、今までこういう立ち位置に立ったことがないけれど、まず第一にまだ応援してくださっているブースターさんはいるし、その人たちのためにもちゃんと試合をして勝ちたい」
「あとはこのチームでやれるのが最後だと決まっている。もちろん楽しくはやりたいけれど、自分たちのバスケを最後ちゃんと表現できるように頑張りたい」

石川の思いも同じだ。
「勝ってシーズンを終われるのは1位と3位だけ。シーズンを良い形で終えたい。勝って終えることが次のシーズンの弾みになるわけではないけれど、負けて終わるとどんよりしたまま終わってしまう」
「出られるメンバーでちゃんと準備して、ファイトできるようにしていきたい」

昨季の悔しい降格から、1年でのB1復帰とはならなかった。
いずれ「この試合があったから」「このシーズンがあったから」と笑って振り返れるように、まずは福岡との3位決定戦で有終の美を飾りたい。
それは今季だけのチームが見せる、今季だけのラストダンス。そして「日々成長」の集大成でもある。
