ドイツ・ボルシアMGのコーチに学び 小学生40人が刺激を得た夏休みの2日間

本場ドイツのサッカーが長野県にやってきた。2025年8月13日-14日の2日間、佐久市の望月温泉緑の村グラウンドでトレーニングキャンプが開催。ブンデスリーガに所属するボルシア・メンヒェングラートバッハのコーチ2人が来日し、40人の小学生に向けて指導を行った。一般社団法人アルコイリスの取り組みで、今後も海外との接点を増やしていく構えだ。
文:田中 紘夢/編集:大枝 令
KINGDOM パートナー
海外から3年連続で指導者招へい
代表者のブラジル留学が原体験
一般社団法人アルコイリスにとって、海外の指導者を招へいするのは3年目。一昨年はアトレティコ・マドリード、昨年は久保建英が所属するレアル・ソシエダから、スペイン人コーチが佐久市を訪れた。

「今年は子どもたちにも指導者にも、また違った刺激を感じてほしかった。そこでボルシア・メンヒェングラートバッハのコーチに来てもらうことになった」と石井運馬代表。本場のスペインとドイツから異なるメソッドを吸収し、サッカーの幅を広げる狙いだ。

きっかけは自身の経験にある。
佐久市出身の石井代表は、現役時代にブラジル留学を経験。当時は20歳だったが、「遅い」「なんでもっと早く来ないんだ」と言われたという。
「早いうちにそういう環境を知るのはすごく大事。その一つがこうやってコーチを呼んで、指導してもらうことだと思う」

普段は女子チームの佐久インテンザで監督を務める。国内に海外の指導者を招へいしつつ、スペインで開催される国際大会「MAD CUP」にも出場。その前後で選手たちの変化も感じたようだ。
「学校の英語の勉強はやらされている感があっても、海外に行くとなると自分から話さないといけない。帰ってきてから取り組む姿勢が変わった」
「海外の選手は試合になったら一気にスイッチが入る。そこは真似しているところもあって、キックオフの笛が鳴った瞬間から戦い出すようになった」

その変化を自チームだけでなく、地元の子どもたちにも提供したい――。そんな思いから今回のトレーニングキャンプも立ち上がった。
KINGDOM パートナー
「楽しむこと」をモットーに
コーチ陣は日本人の課題にも言及
ボルシア・メンヒェングラートバッハは、ブンデスリーガで5度の優勝を誇る名門だ。古くはFW大津祐樹が在籍し、近年もDF板倉滉(現アヤックス)、FW福田師王、FW町野修斗がユニフォームに袖を通している。
日本人にも馴染み深いクラブから、2人のコーチが来日。国際プロジェクト部門のダニエル・ブレンネルとレア・レンツが、2日間で3回のセッションを行った。

「私たちの理念を伝えながら、サッカーを楽しむことに重点を置いた」とダニエル・ブレンネル。県内外から集った40人の小学生たちは、初対面も多いことから硬さが見られた。その中でコーチ陣は、表情を和らげるように投げかける。
「エンジョイ!」
「スマイル!」
多彩なメニューで飽きを感じさせず、笛を吹いてプレーを止めることも少ない。その上でポジティブなフィードバックを心がけた。

「日本人は感情を表に出しづらいところもあるけど、1日目より2日目のほうが笑顔も見えた」とレア・レンツ。彼女自身もボディランゲージを交えながら、子どもたちとともにゲームを楽しんだ。
「サッカーを楽しんだり、情熱を燃やしているときは、マインドがオープンになって大胆に動ける可能性がある。逆にマインドがクローズだと、プレーも縮こまってしまう」

2人は保護者に向けても、日本人の課題を指摘した。
非日常のトレーニングで得る刺激
佐久から世界へルートを切り拓く
ドイツを代表する用語も飛び出した。
「ゲーゲンプレス」だ。
同国の名将、ユルゲン・クロップ監督の代名詞でもある守備。ボールを奪われた後に全員でプレッシャーをかけ、即座に奪い返す――組織的な守備を促した。

それもあくまで、1対1という個人戦術を養った上での取り組み。主宰の石井代表は、2人の指導から学びを得た。
「日本では1対1の守備がおろそかにされがちだと思う。個人に対してしっかりアプローチするからこそ、集団になったときに強くなる。ゲーゲンプレスも一人ではできない」
技術面でも多角的なアプローチが見られた。

参加者の一人である倉島文太郎くんは、「ワンタッチのシュートだったり、細かいタッチのドリブルだったり。そこはチームの練習でも生かしていきたい」と話す。日常とは異なるメニューに刺激を得た様子だ。
バルセロナのラミン・ヤマルに憧れる4年生。コーチ陣の「サッカーを楽しむ」という言葉に感化され、自己表現を意識していた。総勢40人の中からMVPに選出され、板倉、福田、町野のサイン入りユニフォームを受け取った。

普段は南佐久郡の小海FCでプレーしているが、決して目立つ存在ではないという。母の彩香さんは「努力が実を結ぶ体験ができたと思う。これを自信に変えて頑張ってほしい」とエールを送る。
佐久インテンザの選手がそうであるように、世界に目を向けるきっかけにもなるだろう。

近年は地元の佐久長聖高校女子サッカー部が、国内外にプロの選手を輩出。石井代表は身近なモデルケースも参考にしながら、可能性の土壌を耕している。今後もサッカーに限らず、佐久市から世界へのルートを切り拓いていく考えだ。