フットサル界騒然の“電撃加入” 元ブラジル代表ガリンシャ獲得の深層を探る

2025年9月3日、ボアルース長野の公式Instagram上で「重大発表」の告知が掲げられた。3日後に発表されたのは、ブラジル代表歴を持つガリンシャの加入。クラブにとって初めての“助っ人外国人”だ。フウガドールすみだとバルドラール浦安でも活躍した33歳は、なぜ2年半ぶりのFリーグ復帰に至ったのか。その経緯と背景を探ると、クラブとしての中長期戦略が横たわっていた。
文:田中 紘夢/編集:大枝 令
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クラブ初のプロ契約を締結
指揮官にとっても最適なカード
Fリーグ通算83得点。
2019-20シーズンには31試合で33ゴールを挙げるなど、助っ人ぶりをいかんなく発揮した。22-23シーズンには日本開催の国際親善試合で、ブラジル代表に初招集。実績は申し分ない。

そんな大物ストライカーが、F1リーグで残留を争う長野へ。発表後は古巣のサポーターを中心に、Fリーグ全体に反響が広がった。
「チームのベースを上げるために、既存の選手たちに影響を与えられる選手を獲りたかった。経営的にも黒字で、プロ契約を結べる状況にある中で名前が挙がった」
そう話すのは土橋宏由樹ゼネラルマネジャー(GM)。チームは開幕後も戦力アップを目論んでいた。若林順平・代表取締役社長(現会長)や山蔦一弘監督と協議を重ねる中で、ガリンシャに白羽の矢が立った。

クラブとして初めてのプロ契約。リスクテイクしながら、いかにリターンが見込める人材を獲るか。日本での実績も証明済みのブラジリアンは、33歳と老け込むにはまだ早い。山蔦監督にとっても最適なカードだ。
「この時期に獲得する選手として求めたのは、日本に早く馴染めること。クラブとして求めたのは、みんなと馴染める選手」
「彼は日本での経験もあるし、真面目にトレーニングを頑張るのも聞いていた。もちろんクオリティも持っているし、結果が見込める選手だと感じた」

Zoomで交渉を進め、クラブの置かれた立場やビジョンを共有。スペイン1部クラブとの契約を残し、他クラブからもオファーを受けていた中で、本人は「長野のプロジェクトを尊敬した。また日本でプレーしたいという思いもあった」と加入の決め手を明かす。
所属クラブを双方合意のもとで退団し、2年半ぶりにFリーグの舞台へ帰ってきた。
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キャプテン三笠も獲得に一役
練習では味方として取り合いも
獲得に一役を買った選手もいる。キャプテンの三笠貴史だ。
フウガドールすみだとバルドラール浦安でともにプレーし、ガリンシャも信頼を置く存在。「キャプテンとしてすごくリスペクトしている。ここに来る前もセミ(三笠の愛称)と話をして、いろいろと聞いて安心したところはある」と白い歯を見せる。

クラブとしても加入前から三笠と情報共有し、コンタクトを促していた。来日した際も土橋GMは三笠とともに迎えたといい、「彼が間に入ってくれたのはすごく助かった。本当にいろんな人の思いと繋がりがあって実現した」と明かす。
渡辺ロドリゴエイジの存在も大きい。ブラジルにルーツを持つ21歳は、ガリンシャとポルトガル語で会話ができる。加入会見の際には通訳として一役買い、ピッチ上でも常にコミュニケーションを図っている。

合流当初はチームに緊張の色もあったように、ガリンシャがいるだけでも影響は大きい。今となってはゲーム形式の練習で、心強い味方として“取り合い”も行われているという。

浦安時代にも同僚だった稲葉柊斗は「ボールが入ると絶対に時間を作ってくれるし、走ったところにパスを出してくれる」。以前は自身のフットサル経験が浅く「雲の上のような存在だった」とのことだが、対等な立場で再び共闘できることを喜んでいる。

ポジションは最前線のピヴォ。得意の左足でゴールを奪うだけでなく、味方を生かすチャンスメイクにも長けている。左利きのピヴォは希少価値も高い。
エース上林快人が得点ランク4位タイの8ゴールと奮闘する中で、さらなる得点源として期待がかかる。
“電撃補強”は地域密着の成果
稀代のレフティーとともに新章へ
Fリーグを揺るがす“電撃補強”。戦力としてはもちろんだが、土橋GMは「クラブとして次のフェーズに向かうための大きな一歩」とも捉えている。
「観客動員や経営も右肩上がりに来ている中で、ようやくプロ契約ができる状況になった。ここからもっと結果を残すことができれば、より多くの助っ人を連れてこられるかもしれない」

ビザや交渉の手続きなど、かつてない経験値を得られたのも財産と言える。
過去2シーズンはF2に所属したが、観客もスポンサーも大きく離れることはなかった。F1に復帰した今季は、スポンサーから増額の支援を受けるなど、地域密着の成果が表れつつある。

「『長野はお客さんも入ってすごく盛り上がるよね』とか『Fリーグの中でもちょっと違うよね』とか、そう思われるクラブを作りたい。今でもそう思っているけど、もっと大きなものを作れると感じている」

その一翼を担うガリンシャも、「長野は環境が整っている。このチームはF1にいるべき」と力説。名産のシャインマスカットを堪能するなど、街の雰囲気も気に入っている様子だ。
「長野は将来のことをすごく考えているチーム。自分は経験を持っている選手なので、長野の目指しているところに貢献できれば」
F1残留に向けたラストピースの加入は、クラブが新たなフェーズに入った象徴でもある。稀代のレフティーとともに、ここからどんな弧を描いていくのか――。
クラブ公式サイト
https://boaluz-nagano.com/
Fリーグ チーム紹介ページ
https://www.fleague.jp/club/nagano/























