VC長野×松本大×旬菜花 “クラブ+産学連携”が生んだ「おやきパニーニ」

松本大学、おやき工房旬菜花、VC長野トライデンツ――。プロクラブの要望からスタートし、スポーツ栄養学を専門とする松本大学の研究室が学生と開発し、地元企業が製造技術で応える。県内の三者連携から生まれた「おやきパニーニ」が、今季のSVリーグ男子・ホームゲーム会場で相次いで完売した。選手の補食から着想を得た「食べるスポーツ体験」。プロクラブを起点とした産学連携の一つのかたちを示している。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
おやきを「潰す」新たな手法
選手の食卓から観戦シーンへ
2025年10月、VC長野トライデンツのホームゲーム会場に見慣れない商品が並んだ。長野県の郷土料理であるおやきを鉄板でプレスし、焼き目をつけたパニーニスタイルの一品。「おやきパニーニ」と名付けられたオフィシャルフードだ。
企画の起点は、松本大学人間健康学部健康栄養学科・長谷川尋之専任講師のもとに届いた一つの相談だった。VC長野側からオフィシャルフードの開発を打診されたのが2025年の夏頃。長谷川氏は長年、アスリートの栄養サポートに携わっており、信州ブレイブウォリアーズの補食提供などに取り組んできた。

そうした現場で繰り返し耳にしていたのが、「増量をしたいけれど、練習後にお腹が空いていない状態で食べるのがつらい」という選手たちの声だった。それに対して「私が昔からよく伝えていたのが、ホットサンドのようにプレスしてかさを減らす方法だった」
プレスすれば片手で持ちやすくなり、試合会場での「ながら食べ」にもフィットする。選手の補食サポートで培った知見が、そのまま観戦客向けの商品設計に転用された。

10月はまず定番の山賊焼きとピリ辛なすの2種類でスタートし、年明け以降は毎月新味を追加。2月に野沢菜、3月に白あんとあんずのコンポート、4月に舞茸バター醤油をそれぞれ企画した。あんずは会場となった千曲市にちなんでの選定で、70個を持参して完売となった。
KINGDOM パートナー
アイデア、技術、栄養学…
三者の叡智がパニーニに結集
おやきパニーニが他の会場グルメと一線を画すのは、三者がそれぞれ不可欠な役割を担っている点にある。
長谷川ゼミでは約15人の学生が参画した。まず「長野県らしい食べ物は何か」「試合会場で食べられるフードは何か」「トライデンツのチームカラーであるえんじ色の食べ物は」――といったブレーンストーミングから着手。サラダやスープなど多様な案が出る中で、小ロットでも製造可能な形態としておやきに着地した。

試作段階からレシピ提案に関わったゼミ生の竹内理子(人間健康学部健康栄養学科4年生)さんは、「皮になじませることや、後味の調整などが課題だった。具材の味を濃くした方が良いのではないかと考え、バランスを検討した」と苦労した点を振り返る。
学外の企業やプロクラブと連携しながら、自分たちのアイデアが商品になる経験。竹内さんは「本当にここでしか体験できないこと」と意義を口にする。

一方、製造を担ったのはおやき工房旬菜花を運営する有限会社各務製粉。稗田憲司・業務課次長にとって、「潰す」製法は初めての挑戦だった。
「潰すと具材がはみ出てしまう。バランスを取ることが一番難点だった」
長谷川氏を介した学生たちとのやり取りの中で試行錯誤し、生地を厚めにすることで解決。旬菜花は複数のプロスポーツチームとの商品開発実績を持つが、今回のプロジェクトが同社にもたらした変化は技術面だけではなかった。

「以前は『おいしければ何でもいい』という感じだったけれど、長谷川先生と出会って、カロリーや栄養面も考えるようになった」と稗田氏。栄養学の専門家が加わったことで、「おいしさ」の先にある基準が商品開発に組み込まれた。
3000〜4000人が集まる場で
食・健康・地域の接点をつくる
長谷川氏がこの取り組みに込めた構想は、一つの商品を売ることにとどまらない。スポーツ基本計画が掲げる「する・見る・支える」の枠組みの中で、「見るスポーツ」の体験を食で豊かにするという設計がある。
「管理栄養士が『健康教室をやります』と言って3,000人〜4,000人を集めるのは不可能。でもトライデンツでも3,000人以上が集まる場で栄養や食を考えるきっかけを提供し、そこから健康づくりに展開していけたらいい」

3000人規模の会場に、栄養学の専門家が設計した商品を届ける。プロクラブの集客力が、食と健康を考える接点として機能し得ることを、この取り組みは示している。
来シーズンもおやきパニーニの継続は内定済み。長谷川氏は「今シーズンは中身の具材だけだったけれど、もう少しステップアップして、学生と一緒に企画を練りたい」と青写真を描く。季節やイベントに合わせた商品展開も視野に入れる。

長谷川氏にはもう一つ、見据えているものがある。スポンサー企業と学生が会場で接点を持つことで生まれる就職マッチングの可能性だ。長野県の人材流出が課題とされる中、プロクラブの試合会場が若者と地元企業をつなぐ場にもなり得る。
プロクラブが人を集め、大学が知を持ち込み、地元企業が形にする――。それぞれが強みを持ち寄って初めて成立する循環が、おやきパニーニという一つの商品に結実。スポーツと地域をつなぐ、新しい回路が駆動し始めた。

松本大学プレスリリース
https://www.matsumoto-u.ac.jp/press-release/docs/20260406_press001.pdf
おやき工房 旬菜花
http://www.shunsaika.com/
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/















