信州BWの心優しき“クラーケン” マーカス・リーがもたらす影響とは

バスケットボールBプレミアの信州ブレイブウォリアーズに今季加入した米国出身のマーカス・リー。NBAのGリーグ(下部組織)を皮切りに欧州や東南アジアなど10カ国を渡り歩いてきた。チーム最長身の211cmから繰り出す豪快なブロックやリバウンドでチームを支えるゴール下の守護神だ。笑顔を絶やさない温厚な性格で、練習中だけでなく試合中でもコート上でのコミュニケーションを欠かさない。開幕まで2週間を切る中、リーがチームにもたらす影響とは何か――。本人やジャッド・フラベル・ヘッドコーチ(HC)へのインタビューから探った。
文:芋川 史貴
KINGDOM パートナー
長い腕でゴール下を支配
チームのリズムを支える番人
高い身長と長い腕を生かしたリバウンドやダンクなど迫力満点のプレーが持ち味のマーカス・リー。そのスタイルから、巨大な頭足類(タコやイカ)の姿をした伝説の海獣「クラーケン」の愛称で呼ばれる。

2026年9月5日に千葉ジェッツ(Bプレミア)と対戦したプレシーズンゲームでは、20分9秒の出場でオフェンスリバウンド(OR)5本、ディフェンスリバウンド(DR)5本を記録。ORはセカンドチャンスを生み出す重要なプレーであり、得点こそ6得点にとどまったが、チームのリズムを支える重要な役割を担った。
高さだけでなくフットワークも兼備する。オフェンスでは何度もスクリーンをかけ、ディフェンスでは広いエリアを守るべく目を光らせる。ディフェンスリバウンドを取ったかと思えば、すぐに攻撃に参加する。
「コート上のどこにでもいるような選手になりたい。”クラーケン”は手足が何本もあって、激しく動けるようなイメージ。存在感があるプレーをしたい」

ゴール下のリーダーとしての自覚も口にする
「ディフェンス全体をコントロールし、ペイントエリアを守ることが自分の仕事。その役割をうまく果たせていると思うし、日々学びながら取り組んでいる」
ラグビーの本場、ニュージーランド出身のジャッド・フラベル・ヘッドコーチ(HC)は、相手を圧倒するようなフィジカルなスタイルを目指している。
速いテンポで、激しくリバウンドを争い、簡単にはフロントコートへボールを運ばせない。サイズも速さも兼ね備えるリーの持ち味は、フラベルHCが目指すスタイルにはフィットしている。

一方で、バスケットボールは冷静な判断の連続でチームプレーが成立する。激しい余りに周囲が見えなくなってしまっては本末転倒だ。
「マーカス・リーのことは『コネクター』と呼んでいる。小さいことを徹底して賢くやってくれる選手。チームの架け橋になってくれる選手だと思う」とフラベルHC。高いコミュニケーション能力でチームに勢いも冷静さも与えることができるリーの存在感は、激しさと落ち着きの両立を図る上で欠かせない。
KINGDOM パートナー
笑顔を絶やさない理由
「楽しまないと損」
練習から笑顔の多いリーだが、プレシーズンゲームでも相手選手と称え合ったり笑顔で交流したりする場面が目立った。その笑顔にはどのような意味があるのだろうか。

「単に自分の性格だと思う。バスケットボールを含め、人生のあらゆる時間を楽しもうと心がけている。『試合中、どうしていつも笑っているの?』と聞かれることもあるが、『楽しいから。人生で一番素晴らしい時間』と答えている。自分のやっていることを楽しまないと損」
このスタンスはシーズンが始まっても、優勝の懸かる場面でも変わらないという。普段から多くの仲間と話し、時には相手選手が披露したプレーの方法も直接聞く。真剣勝負でありながら、バスケットボールを楽しむことを忘れない。

オーストラリアのリーグでは、フラベルHCが率いるチームと何度も対戦してきた。ただ、日本でのプレー初めて。慣れない環境や味方との連係が深まらない段階では小さくないストレスを感じても不思議ではないが、リーは「まるで1年間ずっと一緒にいたかのような感覚」と笑顔を見せる。
「チームメイトに恵まれていることが大きい。一緒にプレーしやすく、コミュニケーションも取りやすい。お互いのことを理解し合おうとする雰囲気が出てきている」
信州で新しい文化を構築
「カルチャー作りの助けに」
「バスケットボールの面だけじゃなくて、文化を作る時のスタンダードをどこに置くかという時に、『良いスタンダードは何か』を教えてくれる選手。だから声をかけた」
フラベルHCは、リーを獲得した理由について、こう話す。

Bプレミアには成績による昇降格がない。勝ち負けだけでなく、バスケットボールを観戦する文化やクラブを応援する文化など、勝敗以外に価値を見出すことが重要になってくる。
もちろん結果は求めなければいけないが、どのような姿勢でバスケットボールに取り組み、バスケットボールを通して地域にどのような影響を与えていくのかという部分には、これまで以上に力を入れる必要がある。

これまで多くの国でバスケットボールのキャリアを積んできたリーは、リーグやクラブの理念に共感して信州にやってきた。
「カルチャーを作る時の助けになりたい。オーナーもチームも大きな野望を持っていて、勝つこと以上の価値をチームに求めているし、『作りたい』という話もしてくれる。カルチャーを作るために必要なことは全てやりたい」

言葉や行動だけではない。リーの信念は、右腕に刻まれたパズルのピースのタトゥーにも込められている。
「これは大学時代に入れた。当時は小児がんや自閉症の子どもたちをケアする病院で働いていた。フラベルHCがよく言うように、たった1つのピースがパズル全体を完成させるのと同じで、『自分らしくあること』を忘れないための、自分へのメッセージ」
世界を渡り歩き、たどり着いた新天地。フラベルHCやチームメイトとのケミストリーは、どんな光景となって信州ブースターの目に届くのか。心優しき”クラーケン”が大暴れするのは、もうすぐだ。
信州ブレイブウォリアーズ 公式サイト
https://www.b-warriors.net/


















