勝利の好循環へ 松本山雅のベテランが持つ“最適解”の引き出し

シーズン開幕と同時に勝てないスパイラルに陥ってしまったJ3松本山雅FC。決して試合内容が悪いわけではなく、むしろ節を重ねるごとに主導権を握る展開が増えているが、勝てない。「チャンスはあるけれど点が取れていない。相手に1本のチャンスで決められてしまう」と石﨑信弘監督。理由はシンプルかつ厄介だ。スパイラルから抜け出す“正解”はないかもしれないが、“最適解”を持っているキーマンはいる。「24.73」から「28.09」へ――。その数字が示す意味とは。

文:板倉 就五

未勝利のまま9月の戦いへ
浮上の鍵握るベテランの存在感

「改めて勝つことの難しさを感じている。ただ、結果にとらわれすぎてネガティブになるのではなく、1個1個の勝負にこだわった中で、結果は後からついてくると思う」

2026年8月30日にアウェイで臨んだギラヴァンツ北九州との第4節。土壇場で追いついて1-1で引き分けた試合後、松本山雅FCのGK富澤雅也はゆっくりとした口調で現状への思いを語った。

8月8日に開幕したJ3リーグは、4試合を終えて3分け1敗。勝ち点3で17位に沈んでいる。6月下旬のチーム始動から2カ月。昨季の百年構想リーグで主力を担った複数の選手が移籍で抜けたことをマイナス要因に挙げる時期は、もう過ぎている。

「勝ち出したら間違いなく勢いに乗っていける」と富澤。4試合で勝ち点10に乗せた上位陣との差をにらみ、「連勝すれば上が見える。その意味では焦らないことも大事」と付け加えた。

このコメントに富澤の人間性を加味すれば、「希望的観測」ではなく「冷静な現状認識」と素直に受け取れる。

V・ファーレン長崎でキャリアを積んだ富澤は33歳。開幕スタメンの座は20歳のGK小林将天に譲ったが、第3節の愛媛FC戦から先発に戻ってきた。

北九州戦では、チーム最年長の34歳、DF北爪健吾が右ウイングバックで初先発。ともに31歳のDF高野遼とMF金子翔太はフル出場した。つまり、現時点で30代の全4選手がそろって先発メンバーに名を連ねた。

開幕戦は24.73歳だった先発11人の平均年齢は、北九州戦では28.09歳まで上昇した。

信じてやり続ける
豊富な経験が導く最適解

いずれもJ1やJ2で経験を積んできたベテランばかり。良い時も悪い時も知っている。

彼らが持っている引き出しの中には、現状を打破するための最適解も詰まっているはずだ。

横浜F・マリノスなどでJ1の舞台に立ってきた高野は「開幕から勝てないことは僕も経験してきた。ネガティブになっても仕方ない。内容が悪いわけではないのでチームとしてバラバラになることはないけれど、今まで以上に一つになって、ブレずに自分たちを信じてやり抜くことが一番」と力説する。

強烈な蒸し暑さが体力を削り取っていくような環境の中、左サイドでスプリントを繰り返す高野の姿を逆サイドから見ていた北爪は「改めて味方ながら刺激になる部分があった。両サイドが脅威になれるようにしたい」と力を込める。そして、「(内容が)良くても負けなくても、昇格できなかったら意味がない。スタートの選手がゲームを決めるくらい責任を持ってやらなければいけない。違いを見せらるように、やり続けるしかない」と、清水エスパルスから期限付き移籍で加入した自らに言い聞かせるように話した。

「焦らない」「ネガティブにならない」「ブレずにやり続ける」

ベテランたちの言葉からは、結果が出ないから何かを変えるのではなく、この2カ月間の強化や取り組みの方向性を維持して、さらに強度や練度、精度を高めていく必要性が見えてくる。

寄り添い、示す
金子翔太がもたらす好循環

普段の練習で一際、存在感を放っているベテランがいる。いや、存在感を消している、と言った方が正確かもしれない。

清水やジュビロ磐田でJ1の戦いに身を投じてきた金子翔太だ。

大声で指示を出したり、仲間に強い言葉で要求したりする場面は、ほぼ見ない。かと言って黙々と自分の世界に没頭しているわけでもない。

隣のポジションの選手に語りかけるように、味方から厳しい指摘を受けた若手に寄り添うように、穏やかに笑顔で声をかける姿が印象的だ。

プレーは激しい。

前に横に連続したプレスをかけ、狭い局面でボールを受けて打開していく。例え味方からのパスが来なくても、守備ラインの裏に抜ける動きを繰り返す。

副キャプテンという肩書きに関係なく、言葉で支え、プレーで示すことを実践している。

北九州戦に向けた練習を終えた金子翔太に、じっくり話を聞く機会があった。

「何人かの選手に『プレッシャーを感じているの?』って聞いたら、『感じています』と答える選手が多かった。それは当然のことかもしれないけれど、『戦っているのは1人じゃないよ』と伝えた。メディカルスタッフもマネージャーもボランティアの方も、それにサポーターも。『一緒に戦ってくれる人たちと団結しよう』と声をかけた」

アドバイスを送るだけではなく、接し方にも変化を加えた。

「良いプレーがあった時に褒め合う作業を意図的に増やした。愛媛戦ではアップの時や試合中に『タツ(白井達也)ナイス』とか『ヒグ(樋口大輝)スーパー』とか声かけをして、それが良い循環になって良い試合の入り方ができた。僕だって褒められたらうれしい。気持ちが乗ってくれば伸び伸びと良いプレーができる」

21歳のFW田中想来は北九州戦後、「そこ(ベテラン選手の姿勢)に対して、僕ら若手がどうやってついていって奮起して戦えるか。(金子)翔太くんの基準はもちろん、(北爪)健吾くん、トミくん(富澤雅也)、(高野)遼くんもそう。上の年代の人たちのクオリティについていければ、間違いなく強いチームになると思う」と言った。

勝てないスパイラルどころか、チームは既に好循環に入ろうとしているのではないか。

「自分の力で勝たせてあげたいと思うけれど、みんなで協力して勝つしかない。それがチームスポーツだから」

そう話した金子翔太の表情に、焦りの色はなかった。


松本山雅FCオフィシャルサイト
https://www.yamaga-fc.com/

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