迫田郭志×樋口裕希「炎を纏いし2人のOH “実力×経験”で勝利への旗手に」

若きチームを先導する、頼もしい実力者が新たに加入した。日本製鉄堺ブレイザーズから移籍した、迫田郭志と樋口裕希だ。ともに日本人選手では最年長の1996年生まれで、ポジションも同じアウトサイドヒッター(OH)。ブレイズ――灼熱の炎からトライデンツレッドに着替えた2人は、VC長野を新たなステージに導こうとしている。

取材・構成:大枝 令

「打倒・上位」に強い意欲
若いチームをタフに引っ張る

――まずはそれぞれ、VC長野に移籍してきた経緯や理由などを聞かせてください。

樋口 僕自身は堺(ブレイザーズ)で内定シーズンを含めて6シーズンやらせてもらいました。その間に日本代表とか色々な経験をさせてもらいましたが、環境に慣れて少し甘くなっていた自分がいた部分もあります。だから環境を変えて新たに厳しいところにあえて身を置いて、「自分でどれだけ頑張れるか」をもう一度試したくて移籍したのが一番大きな理由です。

あとは大学時代から川村(慎二)監督から声を掛けて頂く機会がありました。僕自身も川村監督とやってみたい思いがあったので、声を掛けて頂いて、悩んだ末に決断しました。

PROFILE
樋口 裕希(ひぐち・ゆうき)1996年4月27日生まれ、群馬県出身。高崎高から筑波大を経て2018年、V1堺ブレイザーズに入団内定。18-19シーズンから内定選手として試合に出場した。2019、20、22年には日本代表登録メンバーに選ばれ、22年はアジアカップ準優勝に貢献した。ブロックに定評があるアウトサイドヒッター(OH)。192cm、85kg。最高到達点344cm。

迫田 僕も堺で3年間プレーさせてもらっていましたが、その中でも(旧)V1リーグは昔から順位の差がハッキリつくイメージがあります。強いチームはずっと強い。でもリーグ全体が盛り上がるように、「下位のチームでも上位のチームに勝つ」というところをみせたいという思いで移籍しました。

樋口 サッカーのJリーグやバスケットのBリーグでも結構、トップ選手が下位のチームに行ったら強くなった…という構図を見たりもします。バレーでもそういうことをできるかな、という思いもありました。

迫田 あとは出場機会が常にあるわけではなかったし、今年からSVリーグになって(外国籍選手が増えるなどして)出場機会が減少すると思いました。(鹿児島商業)高校時代に一緒にプレーしていた備(一真)選手の存在も、理由の一つです。

PROFILE
迫田 郭志(さこだ・ひろし) 1996年5月1日生まれ、鹿児島県出身。鹿児島商高2年時に全日本高校選手権(春高バレー)準優勝。福山平成大ではキャプテンを務め、4年時の2018年に全日本バレーボール大学男女選手権を制した。FC東京から堺ブレイザーズに移籍し、2021-22から3シーズン在籍。副キャプテンも務めた。攻守とも高水準なプレーを繰り出すアウトサイドヒッター(OH)。183cm、73kg。最高到達点330cm。

――確かに、現状では強いチームが勝ち続ける構図になっているかもしれませんが、そうではないチームが一石を投じるために必要なものは何か。それぞれ何か考えを持っていますか?

迫田 僕は社会人1年目にFC東京に所属していて、その頃から勝てない時期が結構ありました。当時経験した「勝てない…どうしよう…」という気持ちを分かっているからこそ、VC長野でその忍耐力を後輩の選手たちに伝えていけたらと考えています。

どうしても負けが続いていくとモチベーションが下がってしまう部分もあると思うので、スイッチを切り替えて自分たちのバレーを続けていけたらいいと思っています。

――負けてもなお自分たちのやっていることを信じて貫くのは簡単ではありません。チーム内でもさまざまな意見が出てくるものですが、それも含めて乗り越えた経験をしてきたのでしょうか?

迫田 乗り越えた…というよりは、あっという間に2年間が過ぎていましたね(笑)。FC東京のときは(年齢が)上の方たちが多くて、その方たちが何年も経験してきたので弱音とかを全く吐かなかったんですよ。今となっては僕がもうこういう歳なので、そういう立場に回っていけたらと思っています。

樋口 堺はある程度勝ってはいましたが、V1リーグの優勝や準優勝は経験していません。1〜2年目はファイナル6に行けるか行けないかの瀬戸際で戦っていて、3〜5年目は迫田も入ってきてある程度安定はしていたけれど、5位4位は簡単ではない状態でした。

そうやって「勝てる時」と「勝てない時」の両方を経験したうえでVC長野に来ましたが、すごく大きな差があるとは思っていません。勝てている時はこうだった、負けている時はこうだったというのは正直あまりないです。タイミングや選手の調子、その年の外国籍選手のタイプだったり…というところが関係していると思っていて、堺で勝てているときでもあまり良くない時ももちろんあったし、逆に負けているけど「この取り組みやチームの感じはいいんじゃないか?」と思う時もありました。チームとしての大きな差はあまりないんじゃないかと思っています。

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「惜しい」から「勝利」へ
勝負強さは日々の積み重ねから

――「頑張った」「惜しい」まではしばしば行きます。その先に「勝てるかどうか」という部分では、わずかな差を埋めるために大きな違いがあるようにも感じます。その部分を埋める存在になってもらえるのではないか?という期待があります。

樋口 大学生上がりの選手が多い若いチームですが、僕がそうだった時ももちろんあります。その当時は若さというか…ミスがすぐ出たり、ミスした後にそれを引きずってしまったり。口で言うのはありきたりな内容にはなってしまうんですが、日々の積み重ねなんです。すぐ切り替えられることだったり、ミスを出さないようにしていくことだったり。「勝てる」「勝てない」は、そうした少しのところに積み上げてきたものが出せるかどうかだと思います。

勝っているチームはレベルが高いというけれど、ミスとかダメなときの下のボーダーが多分高いんですよ。うちはいい時はいいけど、ダメな時との落差が大きい。その下のアベレージをどれだけ上げていけるか。それは日々の練習の積み重ねであって、その観点からすると課題はあると思います。

迫田 「惜しい」というその差はシンプルに、僕はメンタルの部分だと思っています。勝負強さで負けているケースが多いのかなと。場面によって攻めた方がいいのか、一歩引いて様子を見た方がいいのか。練習試合やゲームを通じて、感覚的な部分を一緒に学んでいけたらと思います。

――そもそもVC長野は旧V1でも10位か9位が定位置でした。当然クラブも変えようとチャレンジをしてはいますが、対戦相手として外から見たときの印象は率直にどうだったか、それをどうしていきたいか…という部分はいかがでしょうか?

迫田 やっぱり負けが多くて、チームの雰囲気があまり良くないイメージが外から見てもありました。だからこそさっきも言った通り、メンタルの持ち方が重要になってくるんじゃないかと思います。

樋口 さっき「大きな差はない」と言ったんですが、それでもひとつ差があります。惜しいところまでいった時、例えばジュースになったりセットを取れそうになったり、フルセットになったりした時。14-14で「あと2点取ったら勝ち」という場面で、見ている側としたら「これ多分VCは行けないだろう」と何となく思われてしまっていたと思います。

それってなぜなの?と言ったら、「勝負強さ」。拮抗した場面、緊迫した状況で誰がどう点を取る?と考えたときに、消極的というかミスをしてしまうイメージが強かったです。強いチームだとそれが、「大丈夫だろう」と思えるイメージはあったので、やっぱり勝負強さ。取るべきところで取り切る。

今回のパリオリンピックでも、日本代表が1点を取り切れず負けてしまいました。レベルは違えど、この「1点を取り切れるかどうか」は勝負の世界では大事だと思うので、そこを取り切れるチームにしたいし、なりたいと思います。

――シーズンが始まってからどんどん判明してくる部分はあるとは思いますが、現状でのチームの雰囲気はどう感じていますか?

樋口 若くて仲がいいなー、と感じています。練習外でもみんな一緒にいたりとか、チームみんなでバーベキューをしたりとか。仲いいなってすごく思うのですが、仲良かったり普段は元気なのに、たまに練習でその元気が出なかったりするときがあります。「なんでこんなに静かなんだろう…」って思うときがあるので、そこはもっと普段みたいにフランクにやったらいいのになと。結構考えすぎちゃう選手も多いのかなとは思うのですが、全体の雰囲気としてはいいんじゃないかなと思います。

迫田 僕も一緒。プライベートのときは結構わちゃわちゃしている選手が多いのですが、バレーボールになるとちょっと黙り込んだりする場面も多々見受けられますね。

――お二人はブレイザーズ時代からチームメイトでした。プレーの上での持ち味と、「実はこんなキャラです」というのを紹介してもらえますか?

樋口 (迫田は)同い年で高校生のときから存在を知っていました。大学生のときももちろん知っていますし、歴が長いです。そのときからバレーはスペシャリストで、守備はうまいしスパイクもよく跳ねるしという感じで「すごいな」と思っていました。

プレー中も寡黙というか、見た感じ普段も寡黙という感じなんですけど、たまに仲いい人たちと一緒にいるときとかは普段見せないはっちゃけている姿をみせたりするので、ギャップがあって面白いです(笑)。ボケが多かったり急に無茶ぶりをすることがあるんですが、そのレベルがもうとんでもないですね。慣れてないと「おぉ…!?」ってなっちゃう。

迫田 (樋口は)バレーの面では攻撃力がめちゃくちゃ高くてブロックはめちゃくちゃうまい印象ですね。性格とかではなく、プライベートの過ごし方は全く180度逆です。僕がもし女性だったら、樋口とは絶対に付き合いたくないですね…。やたら外に連れ出してきます。僕は家にいたいのに(笑)。

樋口 僕は基本的にアウトドアなんですよ。キャンプをやったり釣りに行ったり。最近はゴルフもやっています。キャンプとかでなくても、カフェに行ったりドライブしてどこか買い物にいったり、基本的に家にいることがあまりないです。

本当に真逆です。(迫田に)「昨日、何してたの?」って聞くと、「ずっと寝てた」とか「ずっとNetflix見てた」とか…そういう感じですもん(笑)。

――よく外に出かける樋口選手は、近隣で気付かれたりとかもするのでしょうか?

樋口 お店とかの至るところに「VC長野トライデンツを応援しています」というステッカーが貼ってあったりとか、電柱にも看板が出ていたり。それは大阪では見なかったことですし、地域に根付いている証拠だと思います。この間は洗車をしていたら声をかけられましたし、買い物中にも2回ぐらい声をかけてもらったことがあります。大阪と規模は違うけど、そうやって知られているのはすごいことだと思います。

迫田「がむしゃらさを表現する」
樋口「勝ちを貪欲に求めたい」

――ブレイザーズ時代との大きな違いというのは、他の選手が午前中働いて午後は練習というサイクルでシーズンを過ごすことになります。その部分の難しさは感じますか?

迫田 僕はFC東京の時は、午前中に仕事をして午後からバレーボールをする社員契約でした。結論から言うとキツいです。でもそのキツい部分を知っているからこそ僕が伝えられる部分もあります。移籍してきてチームや個人にアドバイスをしていますが、素直に聞いてくれる選手が多いのでバレーボールには前向きな子たちが多いのかなという印象ですね。

――大阪の堺市から南箕輪村だと、大都会からのどかな田園地帯に来たことになります。そこのギャップはどうですか?

樋口 僕は群馬県出身で、迫田も鹿児島の出身。割と田舎の方なので、来てからも「地元に似てるなー」ぐらいしか思わなかったです(笑)。引っ越してきてすぐ2週間くらいはバタバタしていたときがありましたけど、慣れるのは早かったですね。車移動が基本なのもそうだし、「似てるな」って思いました。

練習環境に関してはメインの体育館が使えないときがあったりとか、冷房のない体育館にいったりとかするときはちょっとシンドいなと思ったりもしましたけど、そんなに差があるかと言えばそうでもありません。冷房がついていたりフロアがきれいだったり、トレーニング施設もしっかりとしたところがあったり。そういう部分では全然差がなくてバレーボールに打ち込めると思います。

――これから始まる新しいSVリーグに対する期待や意気込みなどを聞かせてください。

樋口 やっぱり何といっても、SVリーグにスーパーな選手がたくさん集まりました。外国籍選手も世界のトップ選手、日本代表も海外でプレーしていた髙橋藍選手が戻ってきたり。日本代表が注目されてバレーの人気や注目度が上がっている中で、SVリーグも注目されると思います。

そこで「外国籍選手がいるからすごいな!」じゃなくて、「彼らはすごいけど、それに対抗する日本人選手もすごいな!」と思われるようなリーグになればいいとすごく思っています。上位のチームは資金力があるのでトップ選手を取ってきたりしますけど、その中で下位のチームはどう立ち向かっていくのか、どう勝つのか。僕の中でも、チームとしてもリーグ全体としても期待しているところです。

迫田 SVリーグになって、昨年より試合数が増えます。昨年は2勝だったけど、目標としては確実に2桁(勝利)は行きたいと思っています。

あとは勝つ試合もあれば負ける試合もあると思うんですけど、どちらにしてもファンの人たちに「VC長野ってすごくいいチームだな」と思ってもらえるのが一番大切。オリンピックの効果で観客も増えるでしょうから、VC長野のファン獲得のために「いいチームだ」というところを見せられたらいいと思います。

ファンをたくさん獲得できたらクラブとしても力がつくと思うので、今後のVC長野の強化にも繋がってくるでしょう。平均年齢は若いので、がむしゃらさを試合で表現できれば、見ている方たちに感動を与えられるんじゃないかと思います。

樋口 スポーツは勝ち負けがつくことなので、やっぱり勝ったら見ている人も僕らも楽しいしうれしい。負けても頑張っている姿を見てもらうというのもありますけど、やっぱり勝つことが一番近道だとは思います。勝ちに向かってどれだけ歩めるか。勝ったら自然とファンは増えるだろうし、「VC長野って最近強くなったらしいよ」という声が出てきたらまた盛り上がるとも思います。

地域密着のチームだからこそ、より地域密着を強めていきつつ、あとは近隣にももっと広げて深めていく。そういう意味でも、勝ちを貪欲に求めていきたいです。

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