節目に至ったウェイン・マーシャル バスケへの“LOVE”がある限り
通算8000得点のシュートは決して、記憶に残りやすい派手なものではなかった。相棒・石川海斗からパスを受けてゴール下からの得点。何度も見てきた形だった。来日15年目で節目に至った、信州ブレイブウォリアーズのウェイン・マーシャル。再三のケガを乗り越えての積み重ねた記録だが、自身は個人のレコードよりもチームの勝利と成功を願う。心優しきビッグマンの軌跡をたどる。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
豪快で繊細、技巧派のセンター
勝久マイケルHCから全幅の信頼
”ウェイン・マーシャル”
信州ブレイブウォリアーズの大黒柱。
彼なくして、信州は語れない。
2010年にアメリカから来日。
2010-12 大阪エヴェッサ
2012-13 信州ブレイブウォリアーズ
2013-15 横浜ビー・コルセアーズ
2015-17 島根スサノオマジック
2017-18 金沢武士団
と各チームを渡り歩き、2018年から再び信州でプレーする。通算8000得点のうち、18年以降の信州で3,823得点をマーク。bjリーグ時代の12-13年も含めれば、半分以上を信州で積み上げたことになる。
PROFILE
ウェイン・マーシャル(Wayne Marshall) 1986年1月7日生まれ、アメリカ出身。テンプル大を卒業後の2010年に来日し、大阪エヴェッサでプレー。その後信州ブレイブウォリアーズ、横浜ビー・コルセアーズ、島根スサノオマジック、金沢武士団を経て18年に再び信州へ。大黒柱としてチームを支え、B2優勝とB1昇格の原動力となった。サイズを生かした豪快なプレーだけでなく、緻密さも兼備するセンター。守備の司令塔としてチームを動かす。211cm、130kg。
勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)とは2010年に大阪で出会ったのが始まり。当時は互いに選手だった。その後マーシャルは横浜、島根、そして現在の信州と、多くの時間を指揮官とともに過ごしている。
高校時代には全米の大会で優勝を経験。211cm、130kgの恵まれた体格で2019-20シーズンにはB2ブロックショット1位に輝いた。
マーシャルの魅力はそれだけではない。ブロックやダンクといった派手なプレーに加え、軽快なステップ、やわらかいシュートタッチで得点を量産する。
そしてゴール下の番人として、常に周りに目を配り、味方にディフェンスの指示を出す。言わば「守備の司令塔」。力強いプレーや派手なプレーが多い一般的な外国籍選手のスタイルとはやや毛色の違う、「技巧派」と言えるだろう。
ブロック一つ取っても駆け引きが生まれるし、オフェンスでも同じことが言える。特に勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)はディフェンスファーストのバスケットをチームに求めている。「正しい立ち位置で、正しいローテーション、正しいカバレージ」を行わなければならない。
マーシャルはそれらを理解し、高い遂行力で体現する。
だからこそ指揮官は、マーシャルに最大限の賛辞を寄せる。
「世界一の選手」――と。
幾度のケガを乗り越えカムバック
8000得点もまだまだ通過点
来日後、多くの大ケガを経験してきた。その中でも2022年10月26日、ことぶきアリーナ千曲での怪我は記憶に新しい。接触ではなく、ゴール下でシュートを打とうとした時に顔をしかめ、そのまま動けず。悔しがる声がアリーナ中に響き渡った。
右膝外側半月板断裂――。
長期離脱を余儀なくされた。
しかし翌日のミーティングには、松葉杖をついて姿を現した。「コーチが大丈夫かなと思って」と言いながら。
自身も苦しいはずだが、チームや他人を思いやる。そうした心優しい選手がマーシャルという人物だ。
翌シーズンにはプレシーズンから復帰したものの、リーグ戦の第2節(10月15日)で再びケガを負う。復帰は年明けの2024年3月20日だった。この年のオフには5シーズンともにプレーしたアンソニー・マクヘンリーが引退していたこともあり、心身ともにタフなシーズンだったはずだ。
復帰前のマーシャルに、自身のキャリアについて尋ねた。
「正直に言うとまだまだプレーをし続けたい」
力強い言葉が返ってきた。
そして39歳を迎える今季も、その思いは変わっていない。
節目となる通算8000得点を達成した山形ワイヴァンズとの第1戦。試合後、バスケットに対しての思いを問われ、こう答えた。
「続けられている要因はバスケットボールが好きだから。8歳から10歳ぐらいにバスケットボールを始めて、楽しさと競争といった部分がモチベーションとなり、自分はこうしてプレーし続けられている。バスケットボールに対してのラブがなくなった時が引退する時だと思う」
その顔は心の底から純粋にバスケットを楽しむ、少年そのものだった。同時に、シーズンを通じてコートに立つ気概も示した。
「バスケットコートの上でプレーすることはすごく光栄だと思う。自分の過去のキャリアを見た時に、何も保証されていないケガが多かった。今シーズンはケガなく過ごせたらいい」
そして指揮官もマーシャルについて、改めてその価値を強調する。
「自分にとっては世界一の選手で、心の底からリスペクトしている。いろんなことを乗り越えてコートに立っている。そして今でも昔と変わらず、やるべきことをコントロールして、遂行できる選手。タフなマッチアップだとしてもプラスに持っていける選手。みんな彼のメンタリティやプロフェッショナルさを見習っていかないといけない」
8000得点を記録したこの試合は勝利をつかむことができなかった。これこそが勝負の世界の残酷さでもあるだろう。それでも個人のレコードに一喜一憂せず、シーズンを通してチームの日々成長を見つめる。
心優しいビッグマン。そのスタンスで今シーズンも、信州を高みに牽引していく。
Bリーグ 選手個人成績 ウェイン・マーシャル
https://www.bleague.jp/roster_detail/?PlayerID=8843
Bリーグ チーム紹介ページ
https://www.bleague.jp/roster/?year=2024&club=716&p=&c=&o=random&tab=2
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