サトタクNavigates バスケット・ラビリンス(6)「ウェイン・マーシャルの“真価”とは」
バスケットボールは豪快で派手なプレーが目を引く一方、コート上の戦術面に目を向けると非常に繊細で難解でもある。信州ブレイブウォリアーズはどんなバスケットを目指していて、現在地はどこなのか――。2018年から3シーズン、勝久マイケルHCの元でプレーした佐藤託矢がナビゲートする。6回目はチームの大黒柱ウェイン・マーシャルについて、一見しても把握しづらい真価を解き明かす。
構成:芋川 史貴、大枝 令
「マイケルバスケ」を熟知する39歳
指揮官が絶大な信頼を寄せる理由は
ウェイン・マーシャル、チーム最年長39歳のセンター。
彼がコートにいるのといないとではチームは大きく様変わりする。
211cm/130kgの巨体だが、派手なプレーがたくさん飛び出すわけではない。むしろその逆で、頭脳的なプレーを得意とし、スタッツに残らない貢献度が非常に高い。
さらに勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)のバスケットを熟知していることで、チームディフェンス、チームオフェンスの潤滑油として躍動している。それがウェイン・マーシャルという男だ。
ここ数年はケガで苦しいシーズンを送っていた。一昨季は右膝外側半月板断裂の大ケガを負い、わずか9試合の出場。昨季も4試合目でケガを負い、復帰したのは3月末だった。
だが、今季はプレータイムが徐々に増加し、パフォーマンスも上がってきている印象だ。
ここ2〜3年で信州を応援するファンの方がたくさん増えた。もしかすると、その中には「ウェイン・マーシャルはケガが多い選手」という印象が先行しているブースターの方々もいらっしゃるのではないだろうか。
確かにケガがちではあった。それなのになぜ、勝久HCはマーシャルに厚い信頼を寄せるのか――。それは、一見するだけではわかりづらい要素も多い。そのため今回は、3シーズンともにプレーした僕の目線から解説していく。
スペシャルな存在である根拠は
リング周辺に至るまでの過程に
2025年1月12日に行われたベルテックス静岡とのGAME2。石川海斗やペリン・ビュフォードがケガで離脱する中、マーシャルのスペシャリティが攻守にわたり目立つ試合となった。
まずはオフェンス面。
マーシャルが出場している間のほとんどで、彼のピックプレーから攻撃を組み立てていた。特に注目すべき点は攻撃のバリエーション。ピック・アンド・ロールを使ってゴール下にダイブして得点できるし、ピック・アンド・ポップを使って外から3Pシュートを打つこともできる。
フィニッシュも多彩。ステップを踏んで相手をかわしたり、ふわりと浮かせたフローターシュートで得点を決めたりすることもできる。
攻撃のバリエーションが増えれば増えるほど、ディフェンスに阻まれた時でも、すぐに対応してゴールを狙いにいくことができる。実際にマーシャルがプレーしていた時間帯は攻撃の停滞が少ない。
たとえシュートが外れても、チームとして攻撃を組み立てられていることで、リバウンドを取って、再度攻撃に転じられたシーンもあった。
それだけではない。
さらに素晴らしいのは、フロアバランスを把握して、その多彩な攻撃を使い分ける観察眼にある。これはディフェンスでも通ずるが、チームメイトにも目を配りながら、コート上で発生している現象を見極めて適切な選択肢をチョイス。ダイブするのか、ポップするのか、はたまた違う選択肢か――を判断する。
その単純に見えるプレーの一つ一つに細かい角度や立ち位置が決められており、それを完璧に遂行した上でのことだ。これらを踏まえると、勝久HCの描くピックプレーを実現できるのはマーシャルだけだと僕は感じる。
そしてマーシャルはディフェンスも非常に良い選手。特にブロック数ではB2で4位となる1試合平均1.6と、チームのゴールをしっかりと守っている。
ただオフェンスと同様に、注目してほしいのは、リムプロテクトの前に発生している駆け引きの部分だ。
一例をピックアップする。静岡戦GAME2第1クォーター(Q) 残り6:00の場面。
静岡の橋本尚明とアンガス・ブラントがマーシャルに攻撃を仕掛けて2対1と数的優位を生み出した。しかしマーシャルはその2人との間合いを絶妙にキープしながら、橋本にタフショットを選択させている。
これが少しでも橋本側に寄っていたらブラントにパスを出される。ブラント側に寄っていたら橋本にアタックを許してしまう。この絶妙な間合いの保ち方が非常に巧みな選手だ。
同じく第1Q、残り1分49秒の場面。
渡邉飛勇とブラントのポジションの奪い合いをヘルプポジションで気にかけつつ、次に発生した山本愛哉とジョン・ハーラーとのピック・アンド・ロールでも、絶妙な間合いを確保。最終的にはハーラーにタフショットを選択させて見事にブロックした。
目立つのは最後のブロックだけかもしれない。しかしそこに辿り着く過程で、どれだけの駆け引きがあり、バトルがあり、フロア全体を気にかけているのか。ぜひバスケットライブで確認していただきたい。
まさしくこれが勝久HCが求める間合いであり、マーシャルが体現する「信州のディフェンス」なのだ。
目に見えづらいマーシャルの特長を伝えてきたが、今季は何よりもケガをしていないことが素晴らしいのではないだろうか。
静岡戦でも見られたように、ガードの選手に対しても足を使ったディフェンスができているし、ビッグマンにも頭を使いつつ、フィジカルでも負けていない。さらにディフェンスを成功させたら、自陣のゴール下まで走ってシュートを決める走力も持ち合わせている。
渡邊らの成長でプレータイムをシェア
勝負の後半戦もその存在がカギを握る
ここまで健在で良さを存分に発揮できているのは、渡邉や狩野富成の日本人ビッグマンの加入と成長があってこそ。プレータイムをシェアしつつ戦えていることが良好なコンディションに繋がっているのだろう。そしてこれから始まる後半戦で結果を出していくために、その力は必要不可欠だ。
前半戦を振り返ると、GAME1でのエナジーの低さや遂行力の低さによる黒星が多かった。今回のバイウィークを挟み、前半戦を振り返ってどのように立て直すのか。勝久HCの手腕にかかっている。
昨季特に思い知らされたように、1勝の価値は非常に大きい。わずか数試合の差で涙を流すことにもなるし、その悔しさを強く覚えている選手も多く残る。簡単には取れない1勝だと身に染みているからこそ、GAME1から気持ちを強く持って挑み、どんどん勝率を上げていってほしい。
次節は1月25-26日の両日、アウェイで熊本ヴォルターズと対戦する。石川、ビュフォード、テレンス・ウッドベリーのケガの状態も気になるところだが、まずは鬼門のGAME1を勝ち切って弾みをつけたい。
PROFILE
佐藤 託矢(さとう・たくや) 1983年8月25日生まれ、大阪府出身。東住吉工高(現・東住吉総合高)時代はウインターカップ、インターハイともに4強を経験し、青山学院大ではインカレ準優勝。卒業後は当時JBLの三菱電機からスタートし、千葉ジェッツ、京都ハンナリーズなどを経て2018〜21年に信州でプレーした。引退後はクラブの「信州ふるさと大使」となり、今季からはアカデミースーパーバイザーも兼任。「ど素人バスケ」と出張型パーソナルトレーナーを自主事業とするほか、養護学校などでのボランティア活動も実施している。好きなおつまみは梅水晶。
ホームゲーム情報(12月21-22日、富山グラウジーズ戦)
https://www.b-warriors.net/lp/game_20241221_20241222/
クラブ公式サイト
https://www.b-warriors.net/