サトタクNavigates バスケット・ラビリンス(11) 「『Bプレミア準備年』に寄せる期待感」

バスケットボールは豪快で派手なプレーが目を引く一方、コート上の戦術面に目を向けると非常に繊細で難解でもある。信州ブレイブウォリアーズはどんなバスケットを目指していて、現在地はどこなのか――。2018年から3シーズン、勝久マイケルHCの元でプレーした佐藤託矢がナビゲートする。11回目は2024-25シーズンの全体総括と、来季へ期待する部分を聞いた。
構成:芋川 史貴、大枝 令
KINGDOM パートナー
優勝届かずプレーオフ準決勝で涙
緻密なディフェンス遂行しきれず
シーズンが終了して1カ月以上が経過し、7月1日からは新シーズンがスタートした。みなさんにとって、2024-25はどんなシーズンだっただろうか。

今季はウォリアーズ史上一番のメンバーがそろったシーズンだと思っている。そしてブースターの誰もが「ぶっちぎりで優勝するんじゃないか」という期待があったことだろう。
しかし、ふたを開けてみればなかなか思うようには勝てず、レギュラーシーズン(RS)は37勝23敗。プレーオフ(PO)では、アルティーリ千葉との準決勝で涙をのんだ。

ただ、プレーオフに関してはケガなどで選手がそろわない中で頑張ったと思うし、A千葉戦や3位決定戦のライジングゼファー福岡戦はみんな満身創痍の中、心打たれる試合を見せてもらった。
シーズンの後半ではケガ人などで万全な状態で臨めなかったり、RSの課題が修正しきれずにPOを迎えてしまった。期待はしているけれど、完成度の高いA千葉に対しては難しい試合になるのではないか――という予想もしていた。

信州の選手たちは個人個人の実力はあるが、結果的に厚い壁を突破できなかった。その要因は、チーム力が上がり切っていなかったとも言える。
このコーナーでもたびたび書いてきたが、今季のチームは一戦一戦に対して、実力を発揮することにバラつきがあった。遂行力であったり、エナジー面が良い試合もあれば、悪い試合もあったという波のあるシーズン。
GAME1に勝って、GAME2に負ける。逆も然りで、同一カードへの連勝は28回中10回と、クオリティを維持することができなかった。

毎年のことだが、今季もケガ人が増えて練習が思ったように積み重ねることができなかったことも原因の一つだろう。
その影響として特に僕が思ったことは、ディフェンスの質の低さ。僕が経験してきた勝久(マイケル)コーチのバスケは、ディフェンスに重きを求めるスタイルだったが、そこの完成度は低かったと言える。
100ポゼッションでの平均失点を表すディフェンシブレーティングでは、RSで102.4とリーグで2番目に低い数値にはなったものの、エラーがところどころで発生していた。

単純比較は難しいが、B2とB1の戦力差を鑑みると、決して満足のいくクオリティではなかった。
オフェンス面では、昨季課題となっていた火力不足を補った編成にはなったが、ペリン・ビュフォードやテレンス・ウッドベリーらに頼りすぎた時期も見られ、良くも悪くも2人のパフォーマンス次第で勝ち負けが決まった試合もあった。

それゆえにスカウティングがしやすかったことが、同一カードへの連勝ができなかった要因にも繋がったことだろう。
練習に関して言えば、今季は例年よりも短くなったと聞く。
僕らの時は練習の時間や相手のスカウティングの時間もすごく長かった。
だが、ここ数年ケガ人が出続けたことで、特に今季は練習の時間を制限していたと聞く。その練習量の少なさも、少なからず選手たちのパフォーマンスにも影響を及ぼしていたと僕は思う。
KINGDOM パートナー
トレーニング環境の改善が急務か
“マイケルバスケ”への理解も必須
ここで勝久ヘッドコーチ(HC)のスタイルをおさらいしたい。

勝久HCは、リーグ全体を見渡しても屈指の指揮官だと僕は思う。ポジショニングを一歩でも間違えればミーティングで取り上げるし、一つ一つの動きやプレーに対する要求が非常に緻密だ。
勝久HCのバスケットスタイルは今までもずっとそうだったし、実績としても島根スサノオマジックや信州をB1に昇格させている。
しかし正直に言うと、「難しいことをしているな」と僕は思っている。

僕や大崎裕太(現アルティーリ千葉)、飯田遼(現川崎ブレイブサンダース)や無名の選手を集めて育てて良いチームにし、B1でも通用する選手に育てる手法は卓越している。
一方で、熊谷航(現長崎ヴェルカ)らスタープレーヤーと言われた選手たちがそろっていた時期もあったが、結果とすれば簡単には勝てなかった。

予算規模や環境など他クラブと比べるとまだまだ劣っていることも確か。サラリーの高騰も含めて、選手の大部分を継続させることが困難な状況でもある。
それでも限られた条件の中で勝利を掴むことは、勝久HCが自任する使命でもあるだろう。僕自身も勝久HCのバスケは好きだし、人間面でも好きだからずっと続けてほしい思いもある。

またケガ人の部分で言えば、設備の面や、選手の特性、長野県特有の寒さなど多種多様な理由が推測される。その中でも信州は早めにしっかりとした環境を整備し、トレーニングやケアの面でも、トレーナーの人数や各種器具・機器なども補充して環境面を向上させていきたい。
今季はBプレミアに向けた準備年
チームに期待することは「優勝」
2025-26シーズンは「Bプレミアに向けての準備年」と位置付けられることがクラブから発表された。
正直、昇降格の緊張感がなくなることで、ブースター側からすれば物足りない部分もあるかもしれない。それでも僕がチームに期待することは「優勝」以外にはない。

チーム本部長に就任した青野和人氏も「勢いをつけてBプレミアに乗り込みたい」と言っていたし、Bプレミアの基準となる平均4,000人をキープするためにも、クラブ一丸で挑んでいかなければならない。
ロスターも徐々に発表され、現時点での新加入では東海林奨、小栗瑛哉、土家大輝と若い選手が加入した。
僕は彼らを詳しく知っているわけではないけれど、若い選手がマイケルバスケを学び、成長する姿はたくさん見てきたし、彼ら自身も選手としての価値を上げるために移籍してきたと思う。

勝久HCのバスケに1年目でアジャストするのは簡単なことではないと思うが、この選手たちが2〜3年と信州で力をつけてくれたら強いチームになるかもしれない。
Bプレミアになればレギュレーションも含めて多くのことが変わってくる。そこも含めて準備年となるこの1年でチームやクラブ、そしてリーグ全体がどのような変化を遂げていくのか――に注目していきたい。
まだまだオフシーズンは続くが、日本代表戦や、クラブのイベントなど、バスケットや信州ブレイブウォリアーズを楽しむ機会は盛りだくさんだ。
Bプレミア前の最後の1年。今はエネルギーを溜めて、来季も一緒に信州をブーストしていきたい。

PROFILE
佐藤 託矢(さとう・たくや) 1983年8月25日生まれ、大阪府出身。東住吉工高(現・東住吉総合高)時代はウインターカップ、インターハイともに4強を経験し、青山学院大ではインカレ準優勝。卒業後は当時JBLの三菱電機からスタートし、千葉ジェッツ、京都ハンナリーズなどを経て2018〜21年に信州でプレーした。引退後はクラブの「信州ふるさと大使」となり、今季からはアカデミースーパーバイザーも兼任。「ど素人バスケ」と出張型パーソナルトレーナーを自主事業とするほか、養護学校などでのボランティア活動も実施している。好きなおつまみは梅水晶。
クラブ公式サイト
https://www.b-warriors.net/