【Farewell-column】「信州が育てた」ビッグマンは“日本のトヨ、世界のトヨ”へ 信州BW・狩野富成

バスケットボールの2024-25シーズンが全て終了し、信州ブレイブウォリアーズからも退団者が発表され始めた。本企画はチームを去る選手・スタッフに敬意を表し、その働きぶりやチームに遺した財産などを改めて記録するもの。今回はサンロッカーズ渋谷からレンタル移籍してきた1年間で飛躍的な成長を遂げ、日本代表入りも果たした狩野富成にスポットを当てる。

文:芋川 史貴/編集:大枝 令

シーズンを通じて”日々成長”を体現
恵まれた環境で躍動したビッグマン

誰からも愛される選手だった。
年齢もチーム最年少の2001年生まれ。

明るい性格でチームメイトからもブースターからも愛された。

サンロッカーズ渋谷(B1)からのレンタル移籍。徳島ガンバロウズ(B3)でプロのキャリアをスタートさせ、2年目となる今季は信州での成長を選択した。

身長は登録上206cmと大柄でありながら、同時期に加入した同じ日本人ビッグマンである渡邉飛勇とは対照的に、知名度はそこまで高くない選手でもあった。

徳島でのシーズンは途中で右前十字靭帯断裂の大ケガに見舞われ、信州に加入後も試合形式での練習に参加するまでに時間を要した。

しかし、シーズンが始まるとその才能はめきめきと頭角を表していく。

スタートこそペリン・ビュフォードに詰められる「胸ぐら開幕」となったものの、練習や試合を重ねていくにつれて、試合勘のさびつきも取れていく。勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)のバスケットにも理解を深めていった。

センターとしてのイロハをウェイン・マーシャルに学んだ。
選手としてのマインドを、ビュフォードから叩き込まれた。


同じポジションの渡邉とは特に多くの汗を流し、日本代表クラスの技やメンタルの保ち方を学んでいった。

練習後のワークアウトでは小玉大智や山崎玲緒らとともに勝久HCから直接指導を受け、ベンチメンバー同士でも一体感を強めた。

勝久HCからは「ほぼルーキー」と言われていたが、レギュラーシーズンには57試合出場。プレーオフ(PO)のセミファイナル(SF)GAME2では、アルティーリ千葉を相手に7得点13リバウンドの活躍を記録した。

まさに「日々成長」を体現した選手。
その姿にブースターは感動を覚えたことだろう。

チャンスをつかみ日本代表デビュー
日本が誇るツインタワーの実現を

狩野の成長はまるで、マンガの主人公のようにも見えた。

スラムダンクに登場する桜木花道に――。

まだ粗削りな部分もありながらも、リバウンドやブロック、そして豪快なダンクを得意とする。メンタルも、プレーヤーとしての素質も瞬く間に飛躍した。

髪色こそ赤くはなかったが、内側からあふれ出る闘志や貪欲さはシーズンが進むごとにどんどん熱を帯びていった。

それを見守るブースターは親のような気持ちにもなり、安西監督のように、逸材の登場に頭を震わせていたかもしれない。

とはいえ、本来の構想ではここまでプレータイムを得られないはずだった。POのSF、GAME2後に指揮官は明かしていた。

「彼を獲得した時には、ここまでプレータイムがあるはずではなかった。飛勇がいて、ウェインがいて、本当は編成面でもうワンピース追加する予定だった。でもすごく面白い逸材で、ミスはたくさんあるけれど教えがいのある選手」

周囲の恵まれた環境だけでなく、チームにとっては苦しい状況すらもプラスに変え、自身の成長に繋げてきた狩野。レンタル移籍の修行期間を終えて、来季からSR渋谷で自身初のB1の舞台に挑戦する。

そしてこのオフシーズンには日本代表のディベロップメントキャンプにも召集され、世代を代表するタレントとしのぎを削った。

そして2025年7月6日、日本生命カップ2025オランダ戦のGAME2で日本代表デビュー。10分51秒のプレータイムで4得点、そして4ブロックという鮮烈なインパクトを与えた。

印象深いシーズン中のある一幕がある。

渡邉の記者会見に“狩野新聞”として出席した狩野が「どうすればメンタルを強く保てるか」という質問に対して、渡邉は「代表で学んできてください」と一言だけを交わしたシーン。

それがまさに実現している。トム・ホーバスHCに対する渡邉の愛の叫びが届いたのかもしれないし、成長したことでチャンスが舞い込んできたのかもしれない。

狩野の成長が、自身の可能性を飛躍させたのだ。

Screenshot

「今シーズンの彼は本当に誇らしい。今後についてはレンタルで来てもらっている選手なので、信州で成長を続けられるかもしれないし、成長しすぎてすぐに戻っちゃうかもしれない」

そう笑っていた勝久HC。結果的には急激な成長によりSR渋谷へ戻ることが決まったが、狩野の成長は日本のバスケット界にとっても大きな影響を及ぼすだろう。

狩野と渡邉のツインタワーが世界の舞台で再び見られることを楽しみに――。1年間の感謝とこれからの期待を込めて、はなむけのコラムを締めくくる。

(M)

PROFILE
狩野 富成(かの・とよしげ)2001年10月6日生まれ、東京都出身。幼少期を日本で過ごした後はアメリカで育つ。スカイラインカレッジ出身で、2023年にサンロッカーズ渋谷と契約締結。同年にB3の徳島ガンバロウズへ期限付き移籍した。23年12月、公式戦で右前十字靭帯断裂。信州に期限付き移籍した今季、9月17日に練習に完全合流した。高さと機動力が魅力の日本人ビッグマン。「トヨ」の愛称で親しまれ、快活な性格でチームを盛り上げもした。206cm、105kg。


Bリーグ 選手個人成績 狩野富成
https://www.bleague.jp/roster_detail/?PlayerID=42616
日本生命カップ2025 大会特設サイト
https://akatsukijapan-men-2025-tokyo.japanbasketball.jp/

たくさんの方に
「いいね」されている記事です!
クリックでいいねを送れます

LINE友だち登録で
新着記事をいち早くチェック!

会員登録して
お気に入りチームをもっと見やすく

人気記事

RANKING

週間アクセス数

月間アクセス数