「トム、見てください」信州の中心で愛を叫ぶ 渡邉&狩野の“ツインタワー”

渡邉飛勇と狩野富成。2人の若き日本人ビッグマンが、ゲームの主役に躍り出た。2025年3月22-23日のアルティーリ千葉戦からわずか3日、信州ブレイブウォリアーズは福井ブローウィンズに80-69。とりわけ2人は前節からの学びを着実に遂行し、チームを勝利に導いた。最終局面で磨かれてきた、信州が誇る日本人ツインタワーの魅力を解剖する。

文:芋川 史貴/編集:大枝 令

30点差の惨敗を成長の糧に昇華
同地区の福井から価値ある一勝

試合終了のブザーが鳴ると、“ツインタワー”が身体をぶつけ合って喜びを爆発させた。

渡邉飛勇と狩野富成。もちろん全員がステップアップして快勝に至ったものの、とりわけ大きな衝撃を与えたのはこの2人の活躍だった。

渡邉は32分24秒の出場。
18得点5リバウンド2アシスト。

狩野は32分49秒の出場。
13得点11リバウンド1アシスト1ブロック。

特に狩野はキャリア初のダブルダブルだ。プレータイム、得点、リバウンドでキャリアハイを更新。ウェイン・マーシャルの欠場が続く中、この若きビッグマンたちの才能は確かに開花してきている。

振り返れば開幕節も、福井とのゲームだった。

当時の若きビッグマンたちは、マーシャル不在の中で奮闘したものの、主にフィジカル面やディフェンス面での問題が山積みだった。狩野に至っては冷静さを失い、ビュフォードに胸ぐらをつかまれる波乱含みの幕開けとなった。

だからこそ――なのだろう。

2人でスターティングメンバーに名を連ね、試合のブザーが鳴った時も2人でコートに立ち、勝利の喜びを分かち合う。その頼もしい姿に、感慨深いブースターも多かったのではないだろうか。

その思いは勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)も同様だった。

「成長が一番うれしい。どういう意識を持って日々取り組んでいるかの証拠なので、このようなチーム状況でもあのようにステップアップすれば勝てることを証明できたと思う。2人とも誇らしい」

敗れた悔しさをぶつけて改善図る
スタートで起用された責任感も

A千葉との前節。
悔しい敗戦が、若きタレントの成長を促した。

渡邉が振り返る。

「アルティーリ千葉とのゲームが終わってから、自分でその映像を何度も振り返った。30点差近く開いての負けは本当にキツいものがあった。前日(25日)の練習でもハードに練習して、練習後も寝られないぐらい何度も何度もそれを振り返って今日(26日)を迎えた。その結果、こういうプレーができて良かった」

狩野も同様だった。

「メンバーがいないからスタートだったというのもあると思うけれど、スタートメンバーの責任感はあった。アルティーリとの試合は悔しい気持ちがあったので、今回は勝てて良かった」

A千葉戦から信州らしさを徐々に取り戻し、メンバーを欠く中でも貴重な1勝を手にした今節。この2人の言葉からも、最近の課題だった「危機感」や「スカウティングレポートの深い理解」などに対して向き合えていることが伝わる。

それは2人だけではない。

前節と同じように全員が高いエナジーと遂行力を示し、試合を優位に進める。

福井のスコアラー木村圭吾に対する三ツ井利也やアキ・チェンバースによる激しいディフェンス。石川海斗のゲームコントロールも、ペリン・ビュフォードの得点もそうだった。

磨かれつつあるビッグマンの連係
最終局面で加わる信州の新たな力

その中でもツインタワーは著しい成長を示した。

信州の最初の得点は、石川と狩野によるピック・アンド・ロールで狩野の豪快なダンク。4点目も同じ形での得点で、そのプレーはどこかマーシャルとシルエットが重なる。

4番ポジションのPFとして幅の広いプレーを求められた渡邉も、外からダイブしての得点やペリメーターからの得点。そして前節では0本の成功に終わった3ポイントシュートを沈めるなど成長を見せていた。

そして特に目を引いたのが、ビッグマン同士の連係プレーだ。渡邉の3ポイントシュートはゴール下の狩野からのアシストだったし、逆に渡邉から狩野へのアリウープも炸裂した。

4番でのプレーを任されている渡邉が振り返る。

「アルティーリと福井は僕のシュートを信じていなかったから、ショートピック・アンド・ロールとかハイローの合わせの判断とか、すごく良い経験になったと思う」

狩野も渡邉との連係について、イジりながらも可能性を口にした。

「飛勇にはロブパスの練習をしてほしいなと、今日は特に思った。アルティーリの時もそうだったけど、本当にパスがひどくて取れない(笑)。ペリンや海斗さんに日頃から感謝しないとな…という気持ち」

さらに、ディフェンス面でも2人の成長が見られた。

福井のビッグマンは動きがあって外角シュートも得意とするライアン・ケリー、ペリー・エリス、小寺ハミルトンゲイリーのラインナップだった。

対する2人。ブロックなどゴールに近いプレーは得意としている半面、従来は動きのあるビッグマンに対する守りは苦手としていた。

しかし直近の試合では空中での戦いだけでなく、しっかりと足を使って相手を守るシーンも多く見られる。その成長について、勝久HCも惜しみない賛辞を送る。

「彼らにとって今まですごく難しかったペリメーターの選手をマークする面でも、ピック・アンド・ロールのディフェンスも、足を動かすことも。全ての面で成長があったので本当に良かった」

”ブラザー”相まみえる会見再び
渡邉が狩野に抱く期待感と注文

ツインタワーの共闘が注目を集めたのは、3月10-11日の熊本ヴォルターズ戦でのこと。11日のGAME2では渡邉の記者会見に”狩野新聞の記者”を名乗る206cm超のビッグマンが現れ、メンタルの成長について質問するシーンがあった。

今回はその逆。先に会見を終えた渡邉が、狩野の会見に出席した。

”ナベ新聞”の記者として狩野に質問をぶつける。

ナベ「今日のパフォーマンスは素晴らしかったですね。このパフォーマンスをどのように続けていきますか」

トヨ:「日々成長じゃないですか」

続けて、この日6分の1に終わったフリースローの確率についても質問が飛ぶ。

ナベ「どうやってうまくなっていきたいですか」

トヨ:「やっぱり練習しかないですよね。1日でどうにかなるわけではないので、そこも日々成長。フリースローの時のブースターからの声援はうれしいですけど、『39%』と書かれた”トヨメーター”をバスケットライブで抜かれるのはちょっと恥ずかしい」

もちろんユーモアは織り交ぜられているものの、おどけただけの質疑応答ではない。“ブラザー”同士の真剣なやり取り。狩野が渡邉を尊敬しているのと同時に、渡邉もまた狩野には大きな期待を抱いている。

それが特に表れたのは、試合後のセレモニーの一幕。特別賞に選ばれた渡邉が、チームMCの三井順さんから狩野の働きについて尋ねられた際のことだった。

日本代表ヘッドコーチのトム・ホーバスに向けて、メッセージを力強く発した。

「トム、今日の試合をぜひ見てください。トヨシゲ・カノは次の日本人ビッグマンだと思っています」

日本代表で活躍する渡邉が、強く狩野を推薦。平日ナイトゲームにもかかわらず4,188人が詰めかけたホワイトリングには、大きな拍手が沸き起こった。

まさに”日々成長”を続ける若き才能たち。いつかこの2人は信州を背負っていくに違いない――と何度も期待してきたが、その日は思いのほか早くめぐってきた。

渡邉が成長すれば、狩野も大きく飛躍する。

信州が誇る日本人ビッグマンの両翼は、チームをプレーオフの頂点まで導いてくれる。そして2028年ロサンゼルス五輪での共演――。3年後のビジョンまで連想させてくれる。

とはいえ現在はシーズンの佳境。近い将来それを実現するためにも、まずは目の前の試合に集中することが肝心だ。次節の信州は3月29-30日、アウェイで福島ファイヤーボンズと対戦する。レギュラーシーズン残り8試合。ツインタワーはどこまで進化するのだろうか。


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