千尋の谷は安住の地にあらず “再現性と個人能力”の両面から勇敢な攻撃を

獅子の勇敢さが影を潜めている。J3リーグで16位に沈むAC長野パルセイロ。ここまでリーグ6番目に少ない14得点となっており、数字以上に攻撃の物足りなさが目を引く。苦しい戦いが続く中でいかに得点を奪い、勝点3を積み上げながら這い上がるのか――。2025年6月14日のホーム・FC岐阜戦を前に、現状の課題と打開策などを探っていく。
文:田中 紘夢
KINGDOM パートナー
軒並み低迷する攻撃のスタッツ
複数得点を奪うために必要な要素は
「2点取るチームになりたい」
終盤に点を取り合って1-1と引き分けた第11節・SC相模原戦。試合後に藤本主税監督は、複数得点が奪えなかったことを嘆いていた。
直近10試合でわずか1勝。この間、複数得点を奪ったのは1試合しかない。開幕から逆転した試合は一度もなく、2点目が遠いのは確かだ。

ただ、スタッツを見ればそれも合点がいく。
1試合平均シュート数はリーグ最下位で、ゴール期待値やチャンスクリエイト数も下から2番目(前節終了時点)。単なるスタッツとはいえ、数字は嘘をつかない。
0-2と敗れた前節・ガイナーレ鳥取戦は、攻撃力という課題を露呈した。
開始5分に先制されると、その後は相手の5-4-1のブロックを前に四苦八苦。手を変え、品を変えながら攻め込むものの、シュート数は5本にとどまる。攻めあぐねる中でカウンターから追加点も許した。

逆に前々節の奈良クラブ戦は、開始6分に先制して1-0と逃げ切った。なんとか9試合ぶりの勝利を挙げたものの、後半は防戦一方。「こういう勝ち方もある」という指揮官の言葉にはうなずけるが、守るのが精一杯だった。
複数得点を奪える力は、今のところ示せていない。この現状をどう打破していくのか――。
解決策は一様ではないだろうが、一つのキーワードが思い浮かぶ。
KINGDOM パートナー
手持ちの札から何を選ぶかがカギ
再現性が「あるようでない」攻撃
「『再現性』がないというか…。自分たちの『これ』というビルドアップの形がないので、行き当たりばったりな感じもある」
リーグ戦が1週間中断となった5月中旬の週に、ある選手はそう吐露していた。
取材している中での感覚としても相違はない。
ただ、あえて言い換えるとすれば「再現性があるようでない」ようにも思える。

3バックで言えば砂森和也が左肩上がりとなり、右は長谷川雄志(現在はボランチ)がロングフィードを送るなど、一定のパターンはある。
ミドルゾーンに入っても、左サイドで作ってから右サイドに展開したり、逆足ウイングバックがインスイングのクロスを送ったり――。形が見えないわけではない。

長谷川のキック精度や、忽那喬司と安藤一哉という両翼の打開力。いわば個人戦術がチーム戦術となっている。
人が替わればやり方も変わるのは、サッカーにおいて自明の理だ。
長谷川がいなければ最終ラインの背後への配球は減り、安藤と忽那がいなければインスイングのクロスの脅威は薄れる。前節は後者の2人をケガで欠く中、サイド攻撃に怖さがなかった。

ただそれでも、再現しうる形は見られた。
24分、長谷川が5-4のブロックの手前から鋭いクサビ。近藤貴司のスルーから進がライン間でボールを受け、近藤に落とす。近藤は相手のプレスバックに遭ったが、サポートに入っていた藤川が拾ってミドルシュートを放った。
長谷川のキック精度を生かしたスキップ(1個飛ばしの縦パス)から始まり、進の駆け引き、近藤の連続性、藤川の味方との繋がり――。まさに個の特徴を生かした形だ。

「練習でやっていることが出たり、増えたりしているのも事実。あとは通す質だったり、受け手の角度、距離…。技術のところが全然足りないし、そこを上げないと(藤本)主税さんが求めているものを体現できない」
進が言うように、攻撃の手札は増えてきている。
ただ、その中から何を選ぶのかもそうだし、再現するための技術もまだ足りていない。いくら手札はあったとしても、それを再現できなければ宝の持ち腐れになってしまう。
質を上げて再現性を高めつつ
個人の強みを引き出す模索も
さらに、「綺麗にやりすぎな部分もある」と進は続ける。先述したシーンのような3人以上が絡む攻撃だけでなく、1人でも2人でも解決できるのがサッカーの魅力。むしろ、それに越したことはない。
藤本監督の人もボールも動くサッカーを体現する中で、ゴールを奪うために必要なのは「質」と「量」。質を上げるには時間もかかるが、量を上げることはすぐにでもできるだろう。

「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」――。
これは藤本監督の常套句の一つだ。質を上げて再現性を高めつつ、量を上げるためには積極性も必要。二者択一ではなく、両立が求められる。
綺麗な弾道を描けるに越したことはないが、的外れだったとしても相手に当たって入ればゴールはゴール。サポーターもそういう姿勢が見たいのではないだろうか。

昨季を思い返すと、一つのホットラインがあった。3バック左の杉井颯(現鹿児島ユナイテッドFC)のロングフィードから、1トップの浮田健誠がラインブレイク。それぞれの特徴が合致し、突破口となっていた。
ホットラインというのは、分かっていても止めにくいものだ。2023年にJ3を制した愛媛FCの茂木駿佑と松田力。隣の松本山雅FCでも菊井悠介と小松蓮のラインが開通し、小松はJ2ブラウブリッツ秋田に個人昇格を遂げている。

見方によっては属人的だが、最終的に点を取るのは個人でもある。昨季チームトップの13ゴールを決めた浮田は、その要因として「自分を生かしてくれるチームメイトがいること」を挙げていた。
松田や小松が活躍したのも、彼らを生かしてくれる味方がいたからこそ。それは言い換えれば、チームとして点を取ったことにもなる。

今季の長野にも、引き出しがいのある個は多くいる。
前線で言えば浮田と伊藤恵亮のシュートテクニックや、進昂平の駆け引きのうまさ。藤川虎太朗の創造性も魅力的だ。
しかし、彼らのクオリティを十分には引き出し切れていないのが現状でもある。

チームとしてどうやってボールを運び、個を生かすのか。随所に再現性のある形は見られるものの、それを再現「し切れていない」印象は拭えない。
今週末はホームで19位の岐阜と対決。負ければ最下位に引きずり落とされる可能性もあり、背水の陣で臨まなければならない。まずは果敢にゴールへと向かい、獅子たるゆえんを示してほしい。
J3リーグ第16節 岐阜戦 試合情報
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