ガマン比べに持ち込んで優位に 数字以上の“価値点1”が照らす未来への道筋

着実なステップアップを示す、珠玉の勝ち点1だった。ボアルース長野は2025年7月27日、ことぶきアリーナ千曲に湘南ベルマーレを迎えて対戦。互いに守備が光ってスコアレスドローとなった。最終盤のパワープレーをめぐる戦略に、長野の確かな成長が浮き彫りに。前節から2試合連続ドローとなったが、この「1」が暗示する未来はむしろ明るい。

文:大枝 令
写真提供:ボアルース長野

ガマン比べの最後に知恵比べ
長野が心理的に優位な構造に

ロースコアなら大歓迎だ。

拮抗した展開でゴールネットは揺れず、40分間の試合は38分を経過しようとしていた。互いにGKが好セーブを連発し、先手を取らせない。

打つ手として考えられるのは、パワープレー。フィールドプレーヤーがGKのユニフォームを着て、5人攻撃を仕掛ける。数的有利からゴールが生まれやすい。

どちらも勝ち点3が欲しい。
しかしリスキーな選択肢でもある。
動くのか、動かないのか――。

38分30秒。動いたのはアウェイの湘南ベルマーレだった。パワープレーを仕掛けてゴールを脅かそうと試みる。

対する長野は38分41秒で先にタイムアウトを取る。山蔦一弘監督は冷徹に戦況を見極めていた。

「残り30秒ぐらいで、良い位置でキックインないしはCKが取れればパワープレーに行こうと話をした」

その上で、しのいでの「パワープレー返し」で1点を取ることを優先した。

「相手選手の疲労度などを考えた時に、おそらくあまり質の高いパワープレーは来ないと踏んだ。それを返す方が自分たちにとっても勝ち点3が見えてくる」

この時点で、優位なのは長野。もちろん自分たちも疲弊しているが、自分たちから仕掛けるリスクを冒して勝ち点1を失うよりは、手元の「1」をホールドしながら「3」をうかがうプランの方が現実的だった。

「1を確実に取りながら3を目指すプランを立てた」

結果的にパワープレー返しを発動させるチャンスはなく、最後までスコアは動かず試合終了。ただ、どちらがより勝ち点3に近かっただろうか。

GK橋野司が振り返る。

「僕らに対しては多分どのチームも勝点3を持って帰りたいと思っているはず。逆に奪ってパワープレー返しをすれば、こっちは守って返すだけで勝ち点3を取れる」

「しっかり守れるとも思っているし、そんなに(相手のパワープレーは)怖くない。逆にチャンスだなというくらいの雰囲気でやっている」

F2だった昨季、嫌というほど受けてきたパワープレー。守るのは慣れたものだ。つまり我慢比べになるほど、勝ち点3は手元に近付く。

しかも、黒星の「0」よりは「1」寄りのシチュエーション。こうして勝ち筋を見い出しながらの残留戦略を、明確に描くことができる。

「こっちは本当に我慢して我慢して最後に一発仕留めればいいだけ。そういう戦いができるようになってきている」と橋野はうなずく。

GK橋野らの好プレーで守備安定
フィクソ米村が早期復帰の朗報も

そもそも前提として、拮抗したロースコアゲームに持ち込めたのは守備が安定していたからだ。

上林快人や中村亮太らピヴォ(サッカーのFWに相当)は高い位置からのチェックで相手の選択肢を削る。それだけでなく、隙あらばつついてカウンターにつなげる。

フィクソ(サッカーのセンターバックに相当)も相手の屈強なピヴォに起点を作らせないよう奮闘。ピンチを迎えても身体を投げ出して食い止めた。

このポジションはケガ人が続出していたものの、米村尚也と松永翔がこの試合で復帰。とりわけ米村は6月4日の左足第5中足骨骨折で全治3カ月だったが、早期合流を果たした。

「チームに貢献できないもどかしさや悔しさがあった中で、本当に予定よりだいぶ早く戻ってこられた。実際に自分もピッチに立って、みんなの頑張りに刺激を受けた」

この試合のポイントとして「トランジション」を挙げていた指揮官。攻→守の切り替えも素早く、カウンターのピンチを未然に防ぐなど随所に練度が光った。

そして最後は守護神・橋野が立ちはだかる。今季何度もそうだったように、相手の強烈なシュートを跳ね返す。31分には3連続で弾き返し、アリーナを沸かせた。

「無失点で試合を終えようと毎試合思っているけれど、なかなかそう簡単なことじゃない。だから今回やっと無失点で終えられたのは自分にとって自信になる」

そう振り返る橋野。「通用するのか」という不安からシーズンが始まっても、少しずつ成功体験を積み上げて右肩上がりのカーブを描いている。

地道に「1」ずつ積み重ねて
シーズン最後に笑顔の花を

もちろん理想は白星だが、ドローの1を積み上げることも大切。実際にF1残留を果たせたなかった2022-23シーズン、勝ち点1の重みを痛感させられた苦い経験がある。

在籍5年目の米村が振り返る。

「降格したシーズンは勝ち点を取ることにフォーカスし切れなかったのがすごくあって、最終的にラストで勝ち点1に泣いた」

「『あそこで取れていれば』というのが結局ずっと最終節まで続いて、取れずに入れ替え戦で負けて降格した。勝ち点を取っていくことはボアルースにとってすごく大事」

巻き戻せば前節も、首位・立川アスレティックFCに対して3-3のドロー。一時は3-1とリードして追い付かれたものの、逆転までは許さず勝ち点1を持ち帰った。

したたかに、確実に、チームは成長している。
指揮官は力を込める。

「この1が必ず次に大きくなる。僕たちの1個上のY.S.C.C.(横浜)さんとの勝ち点差が2になった。ということは、直接対決で勝てばひっくり返る」

この1が次につながる。
そう信じて積み重ねる。
シーズン最後の笑顔のために、愚直な営みは続く。


F1第9節 湘南ベルマーレ戦 試合詳細
https://www.fleague.jp/score/result.html?gid=96819
クラブ公式サイト
https://boaluz-nagano.com/
Fリーグ チーム紹介ページ
https://www.fleague.jp/club/nagano/

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