ポテンシャルは顕在化させてこそ SVリーグの荒海を往く“新生”VC長野の現在地

10月から始まる新シーズン開幕に向けて始動しているVC長野トライデンツ。2025年8月19日には、岡谷市のスワンドームで関東リーグ2部の山梨学院大と練習試合を行った。公開練習としたこの日には多くのファンが詰めかけ、新生VC長野をお披露目する機会に。フィジカル強化を積み重ねてきたチームが見せた現在地と、開幕に向けて浮き彫りになった課題を整理する。

文:大枝 史 /編集:大枝 令

サーブ効果率は昨季6.8%で9位
工藤「効果のないサーブが多い」

練習試合はメンバーを替えながら5セット行われ、新シーズンが始動してから積み上げてきたものを見せた。

昨シーズンから引き続き、サーブとつなぎに重点を置いてここまでは取り組んできた――と、川村慎二監督は明かす。ただし試合内容に関しては「まだまだ甘い」「自分のことに必死すぎて、周りが見えていない」と厳しい評価を下す。

特にサーブに関しては課題が多い。サーブ効果率は昨シーズンも6.8%で全体の9位と、数字は上がらず課題とされてきた。

今季から副キャプテンを務める飯田孝雅は「誰が(サーブレシーブが)苦手なのかデータがない中で、臨機応変に対応していくのが今日の試合では弱かった」と反省の弁を口にする。

日本代表活動から戻ってきた工藤有史も「入れに行くサーブでリベロに行ってしまったり、効果のないサーブが練習からすごく多い」と話す。

ブロック力が飛び抜けて高いチームではない以上、サーブが機能しないとブレイクは難しい。誰かを潰したりストレスを与えたりするサーブがより一層求められる。

フィジカル強化には一定の手応え
8月から技術と融合させる段階に

とはいえ、7月中旬までは体力作りをメインにトレーニングを積み重ねた。フロアトレーニングでアジリティやスタミナを、ウエイトトレーニングでパワーを蓄えてきた。

フィジカル面での積み上げについては「去年よりも良い」と指揮官。飯田も「ボールに伝える力が強くなったり線が太くなったりした選手もいる。あれだけやったら(そういう選手も)出てくるだろう、いうぐらいはやった」と感触を口にする。

そこから技術を統合するトレーニングに段階が変わったのが8月から。現状ではまだ、以前よりも力強くなった身体を使いこなすフェーズに入ったばかりではある。

その進捗については、トータルで想定内なのだろうか。現役最年長選手の松本慶彦が実感を口にする。

「最初ボールを使い始めた頃に比べたらだいぶ変わってきている。それをあともう1段階、欲を言えば1.5段階ぐらい磨きがかかって、個々としてもそうだしチームとしてもう1個レベルが上がればいい」

具体的な成果として、球速が上がった選手も多いという。その上がった球速を試合でどう活用するか。それが実現できればスケールアップを果たせる。

リーグ開幕まで残り2カ月。「課題がたくさんある分は伸びしろだと思っている」と飯田が話すように、パワーと精度を融合させることで全体のレベルアップを図りたい。

若さとリーダーシップの狭間で
カギ握る「コミュニケーション」

もう一つの課題は、「経験」だろう。44歳の松本が加入はしたものの、トータルで見れば昨シーズンよりも若い選手が多くなった。

だからこそ、波がある。

「良い時は良いが、悪い時にどう自分たちで変えていくか。その辺がまだまだ乏しい」と川村監督は指摘。松本も「良い時は放っておいてもチームの状態は良くなる。悪い時の底上げをどれだけできるか」と口にする。

それは昨シーズンから浮き彫りになっていた課題でもある。

疲れている時や、コンディションが良くない時の打ち方。状態に依存する波の幅を狭めて安定したプレーができるようになれば、より高いステップへと進んでいけるだろう。

リーダーシップを取れる人が少ないのも課題に挙げられる。

樋口裕希、迫田郭志、備一真といった面々が柱となってそれぞれのリーダーシップを取っていたのが昨季。今季はその全員がチームから離れている。

だからと言って、空中分解したわけではない。新たな形での再構築を進めているのが、まさに今なのだ。「もっと一人一人が思いっきりやってくれたらいい。それぞれ、大学でキャプテンをやっていた選手もいる」と指揮官。個々の積極性を求める。

その中で、ひときわ自らに矢印を向ける選手がいる。昨季から主軸の一人として存在感を示した工藤だ。オフシーズン期間は日本代表合宿で多くの刺激を得てもおり、「多分、僕が一番しないといけないと思う」と自覚を示す。

「すごく若いチームなので、良くも悪くも自分たちの雰囲気に影響されやすい。そこは自分だったり(中島)健斗だったりがうまくコントロールしていかないと」とリーダーシップの必要性を強調した。

確かに実際、セット間や練習時に選手同士でコミュニケーションを取っている姿は見られた。ここからさらに「動きの中での声掛け、もう少し細かいコミュニケーションが欲しい」と松本は話す。

その上で松本は、全体の意識向上を求める。「キャプテンじゃないから声を出さないとか指示を出さない…というのはナシ。みんなでやることをちゃんとしゃべっていければ」と強調した。

そして今後は新たに外国籍選手が合流し、チームにはまた大きな化学変化が生まれる。

どんなシーズンにしたいか――と水を向けると、飯田は「チームとしては昨シーズンの10勝は越えたい」「やりやすい、若いチームらしいところを出しながら戦っていけるシーズンにしたい」と抱負を語った。

若さゆえの課題を抱えながらも、その若さを最大の武器にしていきたい新生・VC長野。チーム一丸となって成長した姿を改めて披露すべく、残り2カ月で課題克服に取り組む。

「まだ2カ月ある」というよりは、「もう2カ月しかない」。悠長に構えることなく、鍛錬の日々を送る。


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