“現場主義”の多治見麻子氏がTD就任 全日本女子を牽引した経験を還元へ

Vリーグ女子で2連覇を狙うルートインホテルズ信州ブリリアントアリーズに、心強い仲間が加わった。長年にわたって日本女子バレーを牽引してきた多治見麻子氏が、チームディレクター(TD)に就任。「現場主義」にこだわりながら選手とともに成長し続ける姿勢で、信州の地に新しい風と大きな期待を吹き込む。
文:原田 寛子/編集:大枝 令
五輪経験者が見たバレーの奥深さ
現場に立ち続けたい理由とは
「事務所にいるよりは現場に帯同していきたい」
21年の現役生活と11年の指導者期間を経て、信州の地に降り立った多治見麻子チームディレクター(TD)。新卒選手のスカウトなどが主な領域となるが、あくまで現場にこだわりたいと話す。
「バレーボールは対戦相手がいるチームスポーツ。自分のプレーだけでなく、相手との駆け引きにも楽しさがある。得点に結びつかないプレーが、チーム全体をよくする面白さもあることも知ってほしい」

自身が現場で戦って知ったことを伝えたいからこそ、現場にも重きを置きたい――という考えだ。
長年バレーボール界を歩んできた多治見TD。選手時代には3度のオリンピック出場を果たしているが、2度目の1996年アトランタ大会の次に出場したのは2008年の北京大会。再び代表入りするまでの12年間で得たものは大きかった。
「怪我で2000年のシドニー大会の代表から外され引退を考えた時、唯一『まだできる』とパイオニアのアリー・セリンジャー監督が声をかけてくれたのが転機になった」
「もう一度コートに立つ決意でトレーニングに取り組んだら、パフォーマンスが戻って北京大会へとつながった」

年齢にとらわれないことを体現してきた。そして体づくり以外に、改めてバレーボールの奥深さを知った期間でもある。現役で味わった挫折と復帰の経験が、チームスポーツの魅力をより深く実感させた。
さらに多治見TDは続ける。
「成田(郁久美)監督の明るい雰囲気がチームからも感じられる。今は監督がチームを作っている最中なので、監督と話しながら協力していきたい」
全日本時代の盟友を支えたい――という思いも色濃くにじませた。

PROFILE
多治見 麻子(たじみ・あさこ) 1972年6月26日生まれ、東京都三鷹市出身。八王子実践高校で春高バレーの優勝を経験。1992年のバルセロナ五輪、96年のアトランタ五輪に出場。12年のブランクを経て2008年には北京五輪の出場を果たす。12年に現役引退。早大院スポーツ科学研究科に入学してスパイクの研究を行った。トヨタ車体クインシーズや日立リヴァーレの監督を経て23年には中国・遼寧省女子ユースチームの監督。11年の指導経験を持つ。
KINGDOM パートナー
2年越しのオファーが実って信州へ
指揮官とは全日本時代以来の共闘
多治見TDが信州Ariesからのオファーを受けたのは2年前。2023年まで務めた日立リヴァーレの監督を退任することが決まった後、最初のアプローチがあった。
しかし、すでに中国・遼寧省女子ユースチームの監督就任が決定した後のタイミングだった。
「その時はお断りしたけれど、海外にいる間にも連絡を受けていた。今年日本に戻るにあたって改めて声をかけてもらったので、何か役に立てればと引き受けた」

実に2年越しの思いが実り、信州Ariesのチームディレクター就任となった。その背景には、多治見TDがこだわる「現場」への思いを汲んだポスト設定と、持ち前のチャレンジ精神がある。
「コーチや監督以外のチーム運営は未経験。その中でTDとして現場対応もできるポジションを作ってくれた。選手のスカウティングも担当するけれど、これは初めて。自分自身の勉強も踏まえて、チームに貢献したいと思った」
もちろん直接的な指導にあたるのは、成田監督をはじめとするコーチングスタッフだ。それに加え、自身が陰日向からサポート。現役時代以来となる指揮官との共闘にも心を躍らせる。

「成田監督も上のレベルでプレーしてきた人で、現在は選手たちの意識を上げていくなど取り組んでいると思う。チームを良くしていきたいのは監督と同じ気持ち」
多治見TDが歩んできた挑戦の軌跡は、信州Ariesにとって大きな財産となるだろう。
バレーボールの楽しさを次世代へ
ジュニア世代の取り組みにも共鳴
現場に立ち続けたい理由として、バレーボール普及への思いもあったという。これまでも各地で教室を行い、指導の現場に身を置いてきた。
だからこそ伝えたいのは、女子バレーボールの魅力だ。コートに立つ選手もベンチにいる選手も、それぞれの役割を果たしてチームを支えている。「バレーボールは楽しい」と心から思える瞬間を、子どもたちやファンにも感じてもらいたいという。

「やらされている…と感じる時もあると思うけれど、『自分にとって大事なもの』や『これがあるからバレーができる』というようなものが見つかると、変わると思う。そしてバレーが楽しいと思えることが一番だと思う」
終始笑顔で話す姿からは、長い競技人生の中でバレーボールを楽しんできたことがにじみ出る。その姿勢は、普及活動に力を注ぐ信州Ariesの方針とも重なる。

「ジュニアの強化なども積極的で、ずっと前からすごいと思っていた。その部分も含めて役に立ちたい」と期待を込める。
「長野県は初めてでこれから学んでいくけれど、バレーを教えるということは変わらない。自分の経験をチームに還元していきたい」
信州Ariesと歩む新しい道。勝利の追求とともに、地域にバレーボールの魅力を広げる新たな挑戦となる。

チーム公式サイト
https://www.briaristcamp.com/
Vリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/v_women/team/detail/484