大卒1年目に狙うのは“疾風のスーパーサブ” 一条太嘉丸のしたたかな生存戦略

パンサーズジュニアから清風高、日本体育大を経て加入したアウトサイドヒッター(OH)一条太嘉丸。24-25シーズンは内定選手として外から見守るのみだったが、大卒1年目の今季はチームの一員として独自の役割を模索する。「スタートじゃなくてもいい。スーパーサブで頑張れる選手になりたい」。ディフェンス型の選手が活路を見い出した、自分らしい戦い方とは――。
文:大枝 史 /編集:大枝 令
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先輩の大きな背中が示した指針
学びの多かった日体大時代
常に偉大な先輩の背中を見てきた。
小〜中学時代を過ごしたパンサーズジュニアでは2学年上にアウトサイドヒッター(OH)大塚達宣(パワーバレー・ミラノ)、1学年上の工藤有史とともにプレー。クラブチームの全国大会で優勝も経験した。

清風高1年時には2学年上のミドルブロッカー(MB)西川馨太郎(大阪B)、リベロ(L)古藤宏規、L高橋太(富士通)、OH瀧川侑真(クボタ)らを主軸に、春高バレーで準優勝を果たした。
「どんな練習をしたら勝てるとか、日々の練習がどう終わればいいか、どう進んでいけばいいかという指針があった」

その背中に圧倒されながらも、目指すべき場所を高く設定してきた。そして必然的に、自分がそれを下の世代へと繋がなければならない――。そう感じていたという。
進学した日体大では、バレーボールを根本から考え直す時間になった。

「チームの軸が練習メニューを立てて、監督に相談して練習が始まる。その意図を監督にも話さなければいけないし、下級生たちに伝えなければいけない」
理解してやらなければ練習すらうまく回らない。おのずと考える時間が増えた。対戦相手にパワーと高さがある大学が多い中で、どう勝っていくのか。試行錯誤の日々がバレーIQを高めた。

「日体大は伝統的に拾って拾って切り返す。守り方、ポジショニング、ボールコントロールは口酸っぱく言われた」
ブロックの状況、スパイカーの打ち方、目線――。映像を見ながら検討することで視界も変わった。今は目指してきたものに近づいている感覚も、まだ遠い感覚も両方持ち合わせているという。

「勝たせられる人にはなれていないのが実際だけど、周りの人と助け合いができたから勝ててきたと思う」
圧倒的な背中を見せてきた先輩たちが持ち合わせているようなパワーはなくとも、考え、力を合わせることで勝利へと繋げてきた。

PROFILE
一条 太嘉丸(いちじょう・たかまる) 2002年8月24日生まれ、大阪府出身。小学1年生からパンサーズジュニアでバレーボールを始める。清風高(大阪)時代には古藤宏規、工藤有史らと春高バレーで準優勝を経験。日体大4年時の24-25シーズンにVC長野トライデンツに内定、大卒1年目の25-26シーズンを迎える。ディフェンスに強みを持つアウトサイドヒッター(OH)。188cm、83kg、最高到達点331cm。
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「パス型」の矜持を胸に秘め
思考を巡らせて日々を積み重ねる
一条は自らを「パス型」の選手だと表現する。
強みはディフェンス。それに加えて「悪球を打つという意味ではチームでもいけている」と自負する。

しかし自分のポジションから、それが許される時と許されない時がある。川村慎二監督には「ちゃんと考えてやりなさい」と言われているといい、今は練習から経験を積み重ねている。
「極論を言えば、全部リバウンドを取って僕が(相手ブロックを)1枚釣って、MBなりパイプなり、他の選手に決めてもらえれば僕のポジションはそれで正解」

そうするために、どれだけ良い球を出せるか。セッター(S)にどれだけ楽をさせられるか。得点を取るために逆算をして、チームに必要なものを見い出す。
「急に伸びる選手ではないから、自信を持てるように練習を1本ずつやっていくしかない」

自分にできることとチームに求められていることを考え、実践へ移す。試行錯誤して、自分を表現する。決してネガティブな生存戦略ではなく、ポジティブに捉えながら過ごしている。
「どうしたらアピールできるかを常に考えてやるのが今は楽しい」

まず目指すは「スーパーサブ」
立ち位置から逆算した課題とは
その立ち位置をつかむため、現在の課題はサーブとサーブレシーブだという。
どちらもボールコントロールが重要になるプレー。だから、練習一つから意識を変えた。対人練習でも狙ったエリアにコントロールして打つ。

「1カ月ぐらいやって少しマシになった」
そう話すように、一朝一夕で得られるものではない。しかし「最近は思考が変わってきた」といい、目指す像を明確にしている。

「理想は、オスカー選手や工藤選手がしんどい時に後ろ3つ(ローテーションを)回して、スパンスパンと風のように交代していった…みたいな感覚。だけど元気とかを吹き込んで、会場も含めて波に乗れる。そういうキャラでベンチに控えたい」
そのためにもサーブレシーブを今よりも堅実にする。自分にできること、求められる役割から逆算して練習に取り組む。

スタートから出ないだけ、ゲームに入る難しさは増える。それでも「監督にも(役割について)言われている部分はあるので、期待に応えたい」と意気込む。
「自分がやりたいと思うことに対してトライする時が、一番調子が良い」

ピンチの時に現れて、颯爽とチームを救うスーパーサブ。まず大卒1年目、一条太嘉丸が自分なりにそんなヒーロー像を描く。かつてと同じように、まずは偉大な先輩の背中を追いながら。