“ボアルース劇場”開演、終盤3発で驚異の大逆転 ホワイトリングを紅く染め上げる

開幕前に掲げたスローガンは、この日のためにあったのかもしれない。2025年8月17日、F1リーグ第12節。ボアルース長野はホームにバサジィ大分を迎え、1-3の状況から残り5秒でゲームをひっくり返した。クラブ史に刻まれるほどの大逆転劇は、まさに「ABOVE THE LIMIT 限界を超えろ」のスローガンにふさわしい。ホワイトリングが紅く染まった歓喜の一日を、勇士たちの声とともに振り返る。

文:田中 紘夢/編集:大枝 令

前座試合にリンクする撃ち合い
最後はエース上林がこじ開ける

「前座試合から本当に盛り上がっていて、『負けられないな』と思いながらアップしていた。本当に勝って終われてよかった」

ホワイトリングに1,134人の観衆が集った一戦。キャプテンの三笠貴史が言うように、会場は試合前から盛況となった。

前座試合として、AC長野パルセイロと松本山雅FCのOBによるスペシャルマッチが開催。往年のレジェンドたちが“信州ダービー”を繰り広げた。

一時は松本山雅が6-2と大差をつけたが、AC長野も地元の長野市では負けられない。宇野沢祐次の4ゴールなどで7-8と逆転。ダービーらしい意地と意地のぶつかり合いだった。

かくして“本番”も、それに感化されるような試合展開となった。

残り5分強で1-3とバサジィ大分がリード。ボアルースは2点差をひっくり返すべく、フィールドプレーヤーにGKのユニフォームを着せて5人攻撃のパワープレーに出る。

稲葉柊斗の2試合連続ゴールで1点を返すと、勢いは止まらない。

残り2分、稲葉の折り返しを上林快人が胸で押し込んで同点。大分はたまらずタイムアウトを取り、最後はパワープレー合戦となった。

「相手は消耗していたし、全然対応できていなかった。自分たちもセミ(三笠)が脚をつったりして少し気になったけど、タイムアウトを取らずにやれば乗り切れるかなと…」

山蔦監督はあえてタイムアウトを使わず、勢いに任せる。会場の声援も力に相手を押し込むと、最後にこじ開けたのはエースだった。

残り5秒、上林が強引なカットインから右足一閃。

今季8点目となる値千金のゴールを決め、4-3と激戦に終止符を打った。

全員で巻き返した第2ピリオド
パワープレーも大きな武器に

「立ち上がりは悪かったけど、全員の集中力がどんどん高まっていって、最後のパワープレーに繋がった。それを最初からやらないといけないのは課題だけど、巻き返せる力というのは今までは確実になかった」

三笠の言葉どおり、第1ピリオドは思うように進まなかった。

開始わずか1分にセットプレーから失点。15分にもサイドで突破を許し、追加点を決められる。守備では持ち前のプレスの強度が出せず、攻撃でも前線で起点を作れない。GK橋野司の攻撃参加も封じられた。

それでも、0-2で迎えた第2ピリオドに巻き返した。

キックオフの流れからGK橋野がロングボールを送り、ピヴォ(サッカーのFWに相当)の上林がキープ。追い越した三笠に足の裏でパスを届け、三笠のシュートが相手に当たってネットを揺らした。

「今日出ていたピヴォの上林と吉田(怜生)が、自信を持って相手のフィクソの前に入ってくれた。本来できることを前半はやっていない感じだったので、ハーフタイムにも僕は背中を叩いただけというか…」

第1ピリオドはピヴォがフィクソを避けるように距離を取っていたが、第2ピリオドは身体を当てて勝負するようになった。上林と吉田のポストプレーからチャンスが生まれ、自分たちの流れに持ち込んだ。

それによって相手の疲弊も誘い、パワープレーでの3点に繋がった。「長野はパワープレーも武器だと思う。相手がどう守ってくるかを分析した中で、狙い通りのところを取れた」と1ゴール1アシストの稲葉は言う。

自身のゴールの形は「練習で3本くらい外していた」とのことだが、本番での強さを発揮した。前節のY.S.C.C.横浜戦もセットプレーから狙い通りに決めており、貴重な得点源になりつつある。

キャプテンと大卒ルーキーの奮闘
珠玉の一勝を経て中断期間へ

大逆転劇の裏側には、それぞれの思いが交錯していた。

キャプテンの三笠は前節、終盤に痛恨のミスを犯した。Y.S.C.C.横浜のパワープレーに対し、軽率に足を出したところでかわされて失点。2-2と追いつかれ、残留争い直接対決で勝ち点を落とした。

「正直、選手生活で一番しんどい1週間だった。いろいろ考えてしまうタイプだけど、逆に考えないで同じことをやり続けるようにした。今日も上がっていたわけではないし、静かに集中してやれた」

メンタルが揺れる中でも行動は変えず、自主トレーニングやケアを継続。チームにネガティブを伝播させないよう心がけた。その振る舞いがゴールにも繋がり、「ちょっとレベルが上がった感覚はある」と話す。

30歳のキャプテンが壁を乗り越えれば、期待の新鋭も殻を破ろうと気概を示した。

「やってやろうという気持ちしかなかった」と話したのは、大卒ルーキーの吉田。中村亮太がケガで不在の中、今季最長のプレータイムとなった。

178cm、78kgの恵まれた体格を生かしたプレーが武器。最前線でボールを収め、ターンから強烈なシュートでゴールを脅かす。

この日は2失点目に関与するなど、守備面で課題を残しながらも、攻撃面では「練習でできたことが試合でも出せた。そこは自信になりつつある」。

大阪成蹊大時代から筋トレを日課とし、現在もスポンサー企業のジムで鍛錬を積む。練習も含めて継続が力になり、指揮官の信頼を獲得しつつある。

「もちろん中村のケガもあったけど、それがなくても試合に出られるようなプレーを練習からしてくれている。不安は一切ない」

総力を結集してつかんだ今季2勝目。後半戦初戦を制し、暫定ながら最下位を抜け出した。

稲葉は声を弾ませる。

「もっと余裕をもって勝てればいいけど、劇的な勝ち方でサポーターにも楽しんでもらえた。勢いづくところはあると思う」

ここから約1カ月半の中断期間を迎えるが、何かを変えることはない。珠玉の一勝を自信に変え、残留に向けて突き進むのみだ。


フォトギャラリー 2025.8.17 vsバサジィ大分
https://shinshu-sports.jp/photogallery/26631
F1第12節 バサジィ大分戦 試合詳細
https://www.fleague.jp/score/result.html?gid=96832
クラブ公式サイト
https://boaluz-nagano.com/
Fリーグ チーム紹介ページ
https://www.fleague.jp/club/nagano/

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