“救世主”イム・ジフンは何者か? 韓国名門も嘱望する20歳のポテンシャルとは

彗星のごとく救世主が現れた。2025年8月30日のJ3リーグ第25節、AC長野パルセイロはホームでギラヴァンツ北九州と対戦して1-1。後半アディショナルタイムに同点弾を決めたのは、11試合ぶり出場のMFイム・ジフンだ。3連敗中のチームを救った20歳は、母国でも将来を嘱望されている。その秘めたるポテンシャルを掘り下げていく。
文:田中 紘夢
KINGDOM パートナー
188cmの長身を生かして大仕事
トリッキーな起用にも応える
起死回生の同点弾だった。
0-1で迎えた90+4分、ラストチャンスの場面。右サイドから滞空時間の長いクロスが入ると、中央で188cmのイム・ジフンが身体を伸ばす。相手に寄せられながらもヘディングで仕留め、土壇場で同点に持ち込んだ。
高卒2年目のプロ初得点は、チームにとって4試合ぶりのゴールだ。無得点での3連敗で迎えたホームゲーム。前節はアウェイで0-6と大敗したことを踏まえても、ここで取り返すしかなかった。

「『勝ちたい』じゃなくて、『絶対に勝つ』という気持ちでプレーしていた」
そう流暢な日本語で話す韓国人MF。82分から11試合ぶりのピッチに入ると、天を仰ぐルーティーンで士気を高めた。
アンカータイプのボランチではあるものの、藤本主税監督はインサイドハーフに抜擢。より攻撃的なポジションからゴール前に顔を出し、長身を生かして大仕事を遂げた。

「インサイドハーフで使うのはトリッキーではあったと思うけど、彼の良さを最後に出せた。ここ数週間は非常によかったし、思い切って使ったところでしっかり応えてくれた。すごくよかったと思う」
彗星のごとく現れた救世主に、指揮官は賛辞を送る。
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K1クラブに選ばれし“エリート”
日本でプレーの幅を広げる
韓国の水原三星ブルーウィングスから期限付き移籍で加わった20歳。同クラブはAFCチャンピオンズリーグで2度の優勝を誇り、元日本代表FWの高原直泰や齋藤学も所属していた。
イム・ジフンの獲得が決まったのは2023年。その年にチームは初のK2リーグ降格を味わった。本来であればK1の選手として迎え入れられるはずだったわけだ。
韓国の高校年代は日本に比べて全国大会の数も多く、スカウトの目が届きやすい。その中からトップクラブの目に留まったイム・ジフンは、いわば“エリート中のエリート”である。

とはいえ、高卒ルーキーが1年目から活躍するのは容易ではない。昨季はK2での出場がかなわず、カップ戦1試合のみのプレー。本人いわく「すごく大変な時間だった」。
プロ2年目の今季は、新天地を求めて海を渡る。
期限付き移籍でJ3のAC長野にやってきた。
当時の強化責任者である村山哲也前スポーツダイレクターは、韓国のサッカー事情に精通していた。過去にはサンフレッチェ広島でDFキム・ボムヨン(現レノファ山口FC)らの獲得に携わり、その後も継続的に現地を視察してきた。

MF西村恭史(現ザスパ群馬)の去就が不透明なこともあり、大柄で展開力のあるボランチを欲していた。プレースタイルやポテンシャルを照らし合わせた上で、オファーに至ったという。
イム・ジフンの特徴はゲームメイク。大柄ゆえにキック力が高く、鋭い縦パスやロングフィードが蹴れる。ストレート系のミドルシュートも得意としている。
守備でもリーチを生かしたボール奪取は魅力だが、プレーエリアはさほど広くない。強度や連続性も課題としており、日本の規律を重んじるサッカーは成長の場にもなるだろう。
開幕当初は3バックに入ることもあれば、パワープレーヤーやクローザーとして空中戦にも期待された。必ずしもストロングポイントではなかった中で、ヘディングでのプロ初ゴールは成長の証とも言える。
同胞のイ・スンウォンと切磋琢磨
残留争い渦中でさらなる救世主に
同胞かつ同学年のイ・スンウォンもそうだが、若さゆえにパフォーマンスの波もあった。
序盤戦は互いにメンバー入りの機会を得られたが、中盤戦から出番が減少。それでも互いに支え合いながら、来たるチャンスに向けて備えてきた。

「一緒に昼ごはんを食べて、どんな感じかというのはずっと話していたし、2人は絶対にやれると思っていた」
「出られない時間がちょっと長かったけど、悪いところもあるし、良いところもあった。だけど気持ちは一緒で、悪いこともいいし、良いこともいい。そう思って練習していた」
控えめな性格のイ・スンウォンとは対照的に、イム・ジフンは明るいタイプ。彼が加入した今季、イ・スンウォンの表情は見違えるように和らいだ。

互いに代理人が同じで、終盤戦に向けて奮起を促す声も受けたようだ。それにも感化されるかのようにパフォーマンスが向上し、イム・ジフンは得点という形でチャンスをモノにした。
イ・スンウォンも昨季のルヴァンカップ1回戦・徳島ヴォルティス戦で、プロ初出場初ゴール。2年目の今季はいまだ無得点だが、再び日の目を浴びようとアピールを続けている。

チームは連敗を3で止めたが、4試合未勝利と苦しい状況。順位も18位と残留争いの渦中にある。ここから這い上がるためには、さらなる救世主が必要だ。
それに名乗りを上げるイム・ジフンは、勉強し続けてきた日本語で決意を示す。
「絶対勝つという強い気持ちを持って、みんなで練習を頑張って、次の試合は必ず勝ちたい」
クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
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