「もうやめよう」活動終了も検討…長野GaRonsが模索する“価値の再定義”

「やめようか」――。昨季のVリーグ男子最終節・富士通カワサキレッドスピリッツ戦からの帰路。長野GaRonsの韮崎昌彦社長は車中で、酒井駿アソシエイトコーチと窪田瑞紀ゼネラルマネージャー(GM)に漏らした。新設されるSVグロースのライセンス基準に届かず、将来の展望も五里霧中だったからだ。それでもクラブは日本バレーボール協会(JVA)主管の新Vリーグ西地区で、新たなシーズンに向かおうとしている。何が再起への背中を押したのか――。取材を進めると、勝敗を超えた“クラブの存在意義”に行き当たった。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
川崎からの帰路、漏れた本音
「やめよう」への傾きは8割に
どこに夢を見い出せばいいのか――。
クラブ創設から10年間指揮を執った篠崎寛元監督の時代から、長野GaRonsは一貫して最高峰リーグを目指してきた。かつてのV1、現在のSVリーグ。直近ではまずSVグロースという目標を定め、短期決戦で基準クリアに挑んだ。
その壁は、競技力ではない。収容2,000人以上のアリーナ、そして財務基準。「(事業規模を)1年で10倍くらいに増やすのは、一般企業だって難しいと思う」と韮崎社長はこぼす。

「思えばクラブチームに毛が生えたようなところから始まって、プロらしいチームになってきていた」。特に昨季は、確かな手応えを得たシーズン。格上からの白星も挙げた。チームとしての成長曲線が上向いていたが、それはライセンスとは無関係だった。
「ようやく明るい未来が見えた矢先だった。タイミング的に、正直悔やまれる」。リーグ戦中も存続か終了かを悩み続け、迎えた最終戦。冒頭の車中での言葉に至った。
「8割くらいは辞める方向に傾いていた」と韮崎社長は明かす。
KINGDOM パートナー
翻意を促したコアメンバーの声
「なくなるのは寂しい」と再起
活動終了という結論に、コアメンバーは一度は納得していた。2,000人規模のアリーナは須坂にないし、財務基準は現実的に満たせない。「仕方ない」。理屈の上では、全員が同じ認識を共有していた。
それでも、決断は覆った。
「『でも、チームがなくなるのは寂しいよね』と言われた。その思いに嘘はない。だったら、消しちゃいけないと思った」

韮崎社長はそう振り返る。言葉の主は酒井駿アソシエイトコーチ(AC、当時)。今季から指揮を執る、地元・長野市出身のトップリーグ経験者だ。表向きは「韮崎さんが決めたなら、それでいい」と納得していたという。
置かれた状況を踏まえてロジックを積み重ねれば、無理もない結論。それでも、酒井ACの本音に触れた韮崎社長の中で、再び情熱が灯った。
現実的な事情も背中を押した。3月末での活動停止では、選手の移籍先を探す時間すらない。これまで支援を受けてきたスポンサー企業、ファン、長野県バレーボール協会にも申し訳が立たない。

さらに、新生Vリーグの制度設計が「挑戦する価値」を裏付けた。SVリーグとSVグロースの下にVリーグが明確に位置づけられ、上を目指すには必ずVリーグを経由する構造が整った。
「シナリオとストーリーをリーグがしっかり作ってくれた。であれば、挑戦する価値はあるんじゃないか…と思い直した」
韮崎社長自身も新リーグの実行委員会幹部に入り、運営側からリーグの質を高める当事者となる道を選んだ。
フロント含めコンパクトな陣容
引き算の編成が船出を支える
再出発を決意。同時にクラブは、さまざまな方針転換をした。その中の一つが、編成思想の転換だった。
「今までは、たくさんの人に携わってもらって厚みを出すイメージだった。今年は引き算。一旦シンプルに形を作ろうと思った」
監督は酒井駿。新リーグではコーチングライセンス未所持でも指揮を執れる。コーチ陣を厚くする道は選ばず、「酒井がやりやすいようにやらせたい」と全権を委ねた。フロントスタッフは韮崎社長、窪田GM、酒井監督を軸に総勢5人。選手も20人超から15人(練習生2人を含む)へと絞り込んだ。

一方で、「西地区」という現実は重い。遠征先は熊本、愛媛、香川、岡山。空路を頻繁に使う必要性が生じ、遠征1回あたりの経済的負担は100万円前後に上る見込み。それでも「決めた以上はやらないと」。奮い立たせながら、身の丈に合った体制で戦い抜くつもりだ。
勝敗だけではない価値を探して
存在意義の再定義にも目を向ける
それでも、目指す水準は決して低くない。キックオフミーティングで、酒井監督は「最低でもプレーオフ」という目標を共有。たとえ白星を積み重ねた先に昇格がないとはいえ、それは勝利を求めない理由にはならない。
そうした戦いを通じて、コート内外で示したいものは何か。今季の韮崎社長が繰り返し口にするのは「価値」という言葉だ。
「もう一度、『長野GaRons』というチームの価値をどこに持っていくかを、よく考えなければいけない。勝つだけではない、何かしら価値のあるチームを作り上げる。存在意義をしっかり考える1年にしたい」
そうした変化は実際、スポンサー企業などへの語り口にも表れている。
「今までのように『絶対に勝つ、上を目指すので支援してください』ではなく、『選手はフルタイムで働きながら、しっかり競技に打ち込んでいる。そんなチームを応援してほしい』と。言い方が自然と変わっているのかもしれない」

背伸びして、しがみつこうともがいた。上を目指し続けた10年余。高い基準に届かずリスタートする現在の地平には「成長できる環境づくり」「地域との接点」、そして「健全な経営の継続」という3つの柱が新たに立ち現れた。
長野県は、かつて全国に名を轟かせたバレーボール王国である。現在も県内バレー界の指導者層には岡谷工業高校OBの系譜が息づき、育成の土壌は残っている。
「もう一度、王国になる夢はある。うちが力になれるなら、それはGaRonsの存在意義でもあると思う」
トップリーグを目指す不断の歩みをいったんは立ち止まったクラブ。それでも、勝敗だけでない価値を探し始めた。北信地方のバレーボール熱から産声をあげた蒼きゆりかご・長野GaRons。答えを求める旅が、新たに始まっている。
チーム公式サイト
https://garons.jp/
Vリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/v_men/team/detail/474



















