WEリーグ2人内定 佐久長聖・大島駿監督の“グローカル”育成とは

「世界の佐久長聖へ」という教育方針をもとに、OGを海外に輩出してきた佐久長聖高校女子サッカー部。今年は日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」に2人の加入が内定し、国内で新たな道を切り拓いた。そのうちの一人である鈴木こなつは、AC長野パルセイロ・レディースに入団。チームを率いる大島駿監督にとっては、かつて在籍していた古巣に教え子を送り出した形だ。

文:田中 紘夢

10年越しの「恩返し」
大島監督が紡いだ縁

「自分にとってはプロキャリアを初めてスタートさせてくれたクラブ。心の中には常に感謝があったし、何かしらの形で恩返ししたいという思いはあった」

大島監督は2014年、AC長野パルセイロに入団。トップチームのフィジカルコーチとユースチームのコーチを兼任した。当時のトップチームはJ3元年を迎え、ユースチームも同年に新設されたばかり。在籍年数は1年のみだったが、いわば“黎明期”を支えてクラブを後にした。

退団後は同クラブの女子チームを指揮していた本田美登里監督から推薦を受け、2017年に新設された佐久長聖高女子サッカー部へ。4年目で県制覇、6年目で北信越制覇、全国初出場――。着実に階段をのぼり、強豪校へと成り上がった。

そして10年が経った今年、古巣に教え子を送り出す形となった。10月29日、鈴木こなつのAC長野パルセイロ・レディースへの加入内定を発表。「10年かかってしまったけれど、選手を送り出すことができた。こんなに幸せな瞬間はない」と指揮官は感慨に浸る。

「何かしらの形で恩返ししたいという思いはあった。指導者としてできることと言えば、選手を送ることだったり、自分が戻ってパルセイロを強くすることくらいしかない。こうして10年経ったけど選手を送ることができて、これまでの感謝とともに、『これからもよろしくお願いします』という気持ちでいる」

鈴木の獲得に先立ち、加藤真実のノジマステラ神奈川相模原への加入内定も発表した。小笠原唯志監督は、2017年から6年半にわたってAC長野に在籍。大島監督にとっては、在籍期間が重なっていなくとも少なからず関係性はあった。古巣を通した縁が重なり、2人の教え子をWEリーグに送り出した。

県内の高校からプロが生まれたのは、2018年に東海大諏訪高からAC長野に加入した風間優華以来。2021年にWEリーグが新設されて以降は初の快挙だ。それも地元チームに送り出したことには大きな意義がある。

「今は県内の一番良い選手が県外に出ていってしまうけど、県内にとどまってくれるかもしれない。そうなれば本当の意味で、長野県産の選手を作れるかもしれない。その一手を打てたことには意味を感じるし、この県に女子のプロサッカーチームがあるメリットとも言える」

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海外志向の強豪校から
国内プロへの新しい風

2017年の創部以降、急成長してきた。今年10月には全日本高校女子選手権県大会で5連覇を達成し、3大会連続の全国出場が決定。全国から海外志望を持った選手が集い、県内では無類の強さを誇っている。

全国大会では未だ勝利のない新鋭だが、OGの活躍ぶりは華々しい。卒業後はグローバル教育に則り、海外に人材を輩出。主な行き先はスペインやアメリカだ。3期生の小瀬和佳奈は現在、アメリカの大学で日本人史上初となるキャプテンを担う。同期の毛利亜美もスペイン2部でプレーしており、将来的な1部への飛躍が期待される。

日本女子サッカーは今でこそ海外進出が当たり前となったが、その多くはなでしこジャパンでの活躍を経てのもの。高卒での挑戦は例を見ない。“異色”のキャリア形成を図っている佐久長聖だが、海外に固執しているわけでもない。その証拠として、今年は国内にも有望株を送り出した。

WEリーグに加入が内定した加藤と鈴木は、いずれも1年からレギュラーとして出場。互いに海外志向を持ち、鈴木に関してはWKリーグ(韓国)の強豪クラブにも練習参加した。就労ビザの関係もあって加入には至らなかったが、その間にAC長野の目に留まる。練習参加の際に即戦力として評価され、国内でのプロ入りを決意した。

これまで日本のプロサッカークラブからの関心が薄かった中で、今年は2人にオファーが届いた。それは古巣との縁や巡り合わせによるもの。決して国内に照準を定めたわけではなく、いわば“結果論”でしかない。とはいえ、大島監督にとっては大きな価値を感じられる結果でもある。

「自分たちがすべて正しいとは思わないけど、やっているサッカーが理解されなかったり、興味を持たれていなかったのは事実。結局は全国で勝ち上がっていかないと、興味を持ってもらえない部分もあったと思う。それでもやり続けたことで、こうやって見ていただける方が増えてきた」

海外で通用する選手を育てることによって、日本からも注目が集まるようになった。国内外に人材を送り出す中で、足りないのは全国大会での結果。WEリーグ内定の2人を擁し、年末の全日本高校女子選手権に向けて突き進む。


佐久長聖高校 クラブ活動ページ
https://sakuchosei.ed.jp/hs/hs-club/
AC長野パルセイロ・レディース
https://parceiro.co.jp/ladies/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

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