安曇野から飛躍したヒロイン 山雅L U-15出身の弦間結月が全国頂点

ノエスタの真ん中で、頂点からの絶景を堪能した。松本山雅FCレディースU-15から藤枝順心高(静岡)に進んだFW弦間結月が、全国高校女子サッカー選手権で5試合に先発出場。チームはいずれも史上初となる3連覇、8度目の優勝、そして夏冬5大会連続制覇と前人未到の偉業を達成した。自身は3年生最後の大会で初めて全国舞台を踏み、8ゴールで得点王。飛躍に至る軌跡をたどった。

文:大枝 令
写真:長野県高校サッカーCLIMAX

最前線から攻守ともに存在感
決勝でも3ゴールに絡む活躍

2025年1月12日、ノエビアスタジアム神戸。神村学園(鹿児島)との決勝に臨んだ藤枝順心の先発に、FW弦間結月がその名を連ねた。

攻守両面で、その存在感は大きかった。1月5日に行われた佐久長聖との準々決勝は、ボールを動かす相手のビルドアップを巧みに制限する。守備の起点として機能してきた。

「ファーストディフェンダーをまずチームとして明確にした。回されるシーンが多かったのでキツかったけど、応援の力を借りてしっかりハードワークできた」

そして攻撃では、持ち味のヘディングが絶大な効果を発揮した。準々決勝も47分、左CKに合わせてファーサイドからヘッドで追加点。「すごくいいクロスが入ってきたのでしっかり決め切れた。ホッとしている」と話していた。

そして決勝でも86分、勝利を盤石にする5点目をやはりヘッドで奪った。

得点数こそ1だが、間接的にいくつものゴールに寄与した。12分の2点目はゴール前混戦で弦間がねじ込もうとしたボールが他選手に当たっての得点。64分の2点目も自身のヘッドがポストに跳ね返って他選手が流し込んだ。

これで大会通算8得点となり、得点王に輝いた。

7点目を挙げた準々決勝の時点で「7点取れているということはチームにしっかり貢献できている結果でもあると思うので、そこはうれしい」と納得の表情を浮かべていた。

そして、続けた。

「ボランチの(植本)愛実も6点取っているし、ディフェンスラインの尾辻(夏奈)も5点取っている。FWとしてそこは負けたくないという部分がある」

この言葉に、中学時代を知る人間は意表を突かれたかもしれない。

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山雅レディースU-15時代はCB
ヘッドの強さは全国でも光る

というのも、中学3年間はずっとセンターバックだったからだ。松本山雅FCレディースU-15の1期生として加入。当時からヘッドの強さが際立っていたほか、対人能力やカバーリングなどに優れていたという。

「当時から抜きん出ている部分はあったし、3年生の時は弦間の強さをどう生かすか――という考えでセットプレーを組み立てていた」

そう話すのは、山雅レディースU-15で3年間、監督・コーチとして指導した高橋耕司さん(NPO法人松本山雅スポーツクラブ理事)だ。

今大会に際しても本人から連絡が来て、FWとしてメンバー入りしそうな旨を聞いて目を丸くしたという。「本当なの?と思った」。

果たしてそれは本当だった。

ポジションが最終ラインから最前線に変わっても、ヘッドの強さは健在だった。高校の全国舞台でもそのストロングポイントは色褪せることなく、むしろ鮮烈に。比類なき強さを誇るチームの中で役割を果たしていた。

松本山雅FCレディースU-15時代の弦間結月(©︎松本山雅FC)

「当時から吸収する力がすごく高かった。指導者の言うことを真剣に聞いて体現しようとする力があり、自分で自分を成長させることができる数少ない選手だった」

「全国レベルでも通用したのはよかったし、山雅の出身者が日本一になれたことは非常にうれしかった」

高橋さんは教え子の躍動に目を細める。

故郷を離れて試練に直面しつつ
3年生の選手権で初の全国舞台

安曇野市出身。豊科南中に進んだ2019年、創設当初の松本山雅FCレディースU-15に入った。JFAエリートプログラムのU-13とU-14日本代表、U-15日本代表などを経験。鉄壁の最終ラインを築いた。

チーム黎明期の3年間を経て、いくつかの選択肢を検討しながら藤枝順心での挑戦を選択。「日本一を取っているチームだったし、県外に出て新しいチャレンジをしたいと思った」と振り返る。

しかし3年生最後の選手権を迎えるまで、公式戦のピッチは果てしなく遠かった。ケガに泣いて戦線離脱する時期も長く、全国大会のメンバー表にその名が記されることは全くない。

それでも、地道に日々を重ねた。

「ピッチに立てない期間が長い時にも、その中で努力をひたむきに続けた。そのハングリー精神は順心だから味わえたし成長できたと思う。メンタルの部分の成長が一番大きい」

そして今秋にFWへと転向。一気に頭角を表した。

選手権は県大会からベンチ入りすると、全国は2回戦を除く5試合で先発した。背番号「6」をつけ、最前線から藤枝順心のスタイルを体現。高校最後の大会で初めて全国舞台を踏み、存分に躍動してみせた。

MF伊藤めぐみ(AC長野パルセイロ・レディース)やMF瀧澤千聖、MF渡邊真衣(ともにサンフレッチェ広島レジーナ)など、中南信地方からもトップの水準で戦う選手は何人も輩出されてきた。

岡谷市出身のFW瀧澤千聖。後方は松本市出身のMF渡邊真衣

弦間は蹴都・藤枝から東京国際大に進んでサッカーを続ける。4年間取り組んだ先に、また進むべき道が見えてくるのかもしれない。

そしていつかは故郷への恩返しもできれば――と、視野に入れる。

「自分がいずれもしトレーナーやコーチなどの立場になったとしたら、実際に長野県の女子サッカーの発展に関われたらいい。山雅の時もコーチとかにすごく助けられたので、何か手助けができれば」

北アルプスのふもとに広がる故郷・安曇野。「自然が豊かだし、今でも大好き。早く帰省したい」と思いを寄せる。安曇野から日本の頂点に至り、そして新たなステップへ――。しばし羽を休め、さらなる挑戦の舞台に立つ。


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